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しおりを挟むこの国の第一王子であるユリアヌス・スカリジェがラピスことラエティティア・ラウィーニアを初めて目にしたのは、彼が長い留学から帰国し王立高等学院の3年生に編入してまもなくの頃のことだった。
順当にいけば次の王となる自分に取り入ろうとするクラスメート達のおべんちゃらに疲れたユリアヌスは独り裏庭を訪れた。
そこで目に飛び込んできたのは裸足でひらひらと舞い踊る少女の姿だった。
一瞬ギョッとしたユリアヌスが隠れて様子を伺っていると、どうやら『薄幸の洗濯女』であるらしい少女は両手にハァーっと息を吐きかけると、
「寒い」
と呟いてブルッと肩を震わせると天を見上げて、
「でも私、絶対に負けない!」
と言った。
ちなみにその日は汗ばむ陽気だった。
周囲にもご令嬢たちが数人いて手に持った紙を見ながらセリフを言っているのだが、皆一様に棒読みである。
困惑と羞恥の混じったような表情からも見てとれるように、彼女らは無理矢理付き合わされているようだ。
ユリアヌスはククッと笑いながら少女達の様子を盗み見た。
ユリアヌスの先祖は北方から侵略統治する形でこの王朝を創始したという。
その為王家の人間は色素が薄く氷のような冷たい美しさを持っている。
『薄幸の洗濯女』はちょっとタレ気味の大きな人懐っこいエメラルドの目をして、ウェーブのかかった鮮やかな赤銅色の髪をを煌めかせて大きな口を開けて笑っていた。
南国の鮮やかな色彩を想起させる弾けるような笑顔。
ユリアヌスは彼女に一目惚れしてしまった。
「そういうわけにもいかんのよ」
ユリアヌスの父でもある国王は渋い顔をした。
「どうしてですか。
彼女はラウィーニア侯爵家の令嬢ですよ。
年も私の2つ下で丁度良いですし、問題なんて無いでしょう?」
「ラエティティアを婚約者にしたい」という願いがすんなり通らないことにユリアヌスは若干の苛立ちを覚えていた。
「問題は無いのだが最初から彼女一択で話を進めると、他の年頃の娘を持つ有力貴族が黙ってないから」
「どうしたらいいのですか?」
「まあ、競争入札的な?」
「私は馬とか牛ですか」
「まあまあ腐るんじゃない。
とりあえず、年頃のご令嬢達を招いて茶会でもやってだな、厳正な審査の結果ラエティティア嬢が当選しました的な流れ?」
「・・・面倒ですが仕方がないですね」
ここでさっさと翌週にでも茶会を開いておけば良かったのかもしれないが、余計な事を言ったのが第二王子ステファヌスだった。
「兄上はご令嬢達が皆、兄上の妃になりたいと思っている前提のようですが、果たして本当にそうでしょうか?」
「なに?」
「王族なんて窮屈でつまらないって思う自由な考えの人間も増えているそうですよ」
ユリアヌスは裸足で踊る彼女の笑顔を思い浮かべる。
確かに、あれはきっと自由人だなぁ。
「どうすればいいんだ?」
「う~ん。色々趣向を凝らして、『やっぱ王家すげぇ。嫁に来たい!』って思わせるような茶会にすれば良いんじゃないですか?」
「なるほど・・・て全然わからないのだが」
そうしてユリアヌスは準備に手間取った。
そうこうしているうちに、計画されたユリアヌス渾身のお茶会の招待状がラウィーニア侯爵家に届く前にラエティティアは侯爵家から勘当されてしまった。
芝居に夢中になるあまり勉学がおろそかになったラエティティアは数学、科学、地理の3教科が規定の点数に至らず落第することとなり、激怒した父親によって選択を迫られたのだ。
「退学して遠縁の家に嫁に行くか、家から出て自力で生きていくか」
「わかりましたわ。私は家を出ていきます!」
ほぼ即答で家を出ることを選んだラエティティアはこれからの生活への不安よりも希望に溢れていた。
『心を入れ替えて生活を改めます』と泣いて懇願するだろうと高を括っていた父親は慌てた。
「お父様、育ててくださったご恩は一生忘れませんわ!
どうかお元気で!」
なぜ目の前の人間に声を張り上げて話すのか、変なポーズを決めて明後日の方向を向いているのか、父親には理解ができなかった。
娘の涙に滲む嘘臭さに正直イラッときて、
「いい加減にしろ!人生は芝居じゃないぞ!」
と怒鳴りつけたい気分だったが、今更自分の発言を撤回するには彼のプライドは高すぎた。
そんな父に追い討ちをかけるようにラエティティアは高らかに言い放った。
「私は人生の舞台で輝く女優になります!!」
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