101回目の婚約破棄

猫枕

文字の大きさ
2 / 17

2

しおりを挟む

    この国の第一王子であるユリアヌス・スカリジェがラピスことラエティティア・ラウィーニアを初めて目にしたのは、彼が長い留学から帰国し王立高等学院の3年生に編入してまもなくの頃のことだった。

 順当にいけば次の王となる自分に取り入ろうとするクラスメート達のおべんちゃらに疲れたユリアヌスは独り裏庭を訪れた。

 そこで目に飛び込んできたのは裸足でひらひらと舞い踊る少女の姿だった。

 一瞬ギョッとしたユリアヌスが隠れて様子を伺っていると、どうやら『薄幸の洗濯女』であるらしい少女は両手にハァーっと息を吐きかけると、

「寒い」

 と呟いてブルッと肩を震わせると天を見上げて、

「でも私、絶対に負けない!」

 と言った。

 ちなみにその日は汗ばむ陽気だった。

 周囲にもご令嬢たちが数人いて手に持った紙を見ながらセリフを言っているのだが、皆一様に棒読みである。

 困惑と羞恥の混じったような表情からも見てとれるように、彼女らは無理矢理付き合わされているようだ。

 ユリアヌスはククッと笑いながら少女達の様子を盗み見た。


 ユリアヌスの先祖は北方から侵略統治する形でこの王朝を創始したという。
 その為王家の人間は色素が薄く氷のような冷たい美しさを持っている。

 『薄幸の洗濯女』はちょっとタレ気味の大きな人懐っこいエメラルドの目をして、ウェーブのかかった鮮やかな赤銅色の髪をを煌めかせて大きな口を開けて笑っていた。
 
 南国の鮮やかな色彩を想起させる弾けるような笑顔。


 ユリアヌスは彼女に一目惚れしてしまった。





 「そういうわけにもいかんのよ」

 ユリアヌスの父でもある国王は渋い顔をした。

「どうしてですか。

 彼女はラウィーニア侯爵家の令嬢ですよ。

年も私の2つ下で丁度良いですし、問題なんて無いでしょう?」

 「ラエティティアを婚約者にしたい」という願いがすんなり通らないことにユリアヌスは若干の苛立ちを覚えていた。


「問題は無いのだが最初から彼女一択で話を進めると、他の年頃の娘を持つ有力貴族が黙ってないから」


「どうしたらいいのですか?」


「まあ、競争入札的な?」


「私は馬とか牛ですか」


「まあまあ腐るんじゃない。

 とりあえず、年頃のご令嬢達を招いて茶会でもやってだな、厳正な審査の結果ラエティティア嬢が当選しました的な流れ?」


「・・・面倒ですが仕方がないですね」

 
ここでさっさと翌週にでも茶会を開いておけば良かったのかもしれないが、余計な事を言ったのが第二王子ステファヌスだった。


「兄上はご令嬢達が皆、兄上の妃になりたいと思っている前提のようですが、果たして本当にそうでしょうか?」


「なに?」


「王族なんて窮屈でつまらないって思う自由な考えの人間も増えているそうですよ」

 ユリアヌスは裸足で踊る彼女の笑顔を思い浮かべる。

 確かに、あれはきっと自由人だなぁ。


「どうすればいいんだ?」


「う~ん。色々趣向を凝らして、『やっぱ王家すげぇ。嫁に来たい!』って思わせるような茶会にすれば良いんじゃないですか?」


「なるほど・・・て全然わからないのだが」


  
そうしてユリアヌスは準備に手間取った。



 そうこうしているうちに、計画されたユリアヌス渾身のお茶会の招待状がラウィーニア侯爵家に届く前にラエティティアは侯爵家から勘当されてしまった。


 芝居に夢中になるあまり勉学がおろそかになったラエティティアは数学、科学、地理の3教科が規定の点数に至らず落第することとなり、激怒した父親によって選択を迫られたのだ。


「退学して遠縁の家に嫁に行くか、家から出て自力で生きていくか」

「わかりましたわ。私は家を出ていきます!」


 ほぼ即答で家を出ることを選んだラエティティアはこれからの生活への不安よりも希望に溢れていた。


『心を入れ替えて生活を改めます』と泣いて懇願するだろうと高を括っていた父親は慌てた。
 
 
「お父様、育ててくださったご恩は一生忘れませんわ!

 どうかお元気で!」

 なぜ目の前の人間に声を張り上げて話すのか、変なポーズを決めて明後日の方向を向いているのか、父親には理解ができなかった。

 娘の涙に滲む嘘臭さに正直イラッときて、

「いい加減にしろ!人生は芝居じゃないぞ!」

 と怒鳴りつけたい気分だったが、今更自分の発言を撤回するには彼のプライドは高すぎた。

 そんな父に追い討ちをかけるようにラエティティアは高らかに言い放った。


「私は人生の舞台で輝く女優になります!!」


 



 





 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

可愛い悪魔

猫枕
恋愛
 あの子はダメだと俺の中で警報が鳴っている。  アレはやめとけと友達も忠告してくれる。  だけど何故だが目が離せないんだ。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです

ほーみ
恋愛
 「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」  その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。  ──王都の学園で、私は彼と出会った。  彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。  貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

婚約破棄!?なんですって??その後ろでほくそ笑む女をナデてやりたい位には感謝してる!

まと
恋愛
私、イヴリンは第一王子に婚約破棄された。 笑ってはダメ、喜んでは駄目なのよイヴリン! でも後ろでほくそ笑むあなたは私の救世主!

処理中です...