ペンフレンズ〜犬猿の二人の往復書簡〜

猫枕

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  ラナ達が女子トークに花を咲かせていた丁度その頃、ガブリエラとコルムは銀行の奥にある商談などをする部屋にいた。

 今まで話を聞いてくれた時に使用した衝立があるだけのスペースとは明らかに違う豪華な家具と調度品がしつらえられた空間で、コルムは緊張してソファに座っていた。

 観音開きの扉が開いて、車椅子の老人が美女に介助されて入室してきた。

「お祖父様!」

 ガブリエラが声を発すると同時にコルムは立ち上がった。

「コルム・アヴァロンと申します」

 コルムは左胸に手を置き、ヴェートスの仕方で礼を執った。

「そう緊張しなくていい。掛け給え」

 ジュリアンは柔和な表情を浮かべてコルムの顔をじっと見た。

「ベデリアに似て美しい顔をしているな」

「!・・・祖母をご存知なのですか?」

 ジュリアンは天井を仰ぐように首を上に上げてからゆっくりと窓の外を眺めるような仕草をした。

「かつて私が、すべてを投げ捨てても欲しかった女性ヒト・・・。
 まあ、あの頃は私も世の中というものが分かっていなかった若造だったがな」

 ジュリアンはコルムの目を見て微笑んだ。

 驚いた顔のコルムにジュリアンは続けた。

「数奇なもんだな。
 時を超えて孫同士が結ばれるとは」

 コルムはサッと席を立ち絨毯の上に平伏した。

「ジュリアン・ラウザー上院議長がヴェートスの為にご尽力くださったこと、民族の皆に代わって心より感謝と御礼を申し上げます!」

「顔を上げ給え。

 私は君のお祖母さんを幸せにすることはできなかった。

 だからせめて、政治家としてやれることをしようとしただけだよ」

 ジュリアンは過去を懐かしむような顔をして目を細めた。

 「私が資金を提供するわけでもなんでもない。

 君達が自分達の責任で借りて返済するんだから、礼なんて言う必要はないさ」

「ですが・・・」

「私の息子が貴殿に対してとんでもない非礼を働いたそうだな。
 大変申し訳なかった」

「いえ、そんな・・・。親であれば当然の感情だと思います。
 私こそ、身の程知らずにも大切なお孫様を連れ出すようなことをしました。
 でも、後悔はしていませんのでお詫びはしません」

 ジュリアンはハッハと声を立てて笑った。

「必ず幸せになってくれよ」

「お祖父様、私はもう幸せですわ」

    


 そのようにガブリエラとコルムがある種の人生の一大転機を迎えている頃、メラニーとパティーと別れたラナはユージンの部屋でまったりしていた。

「インダストリアルデザインはどうしたの?」

「なんか住みづらいから普通に戻した。
 工場をイメージして配置したパイプにしょっちゅう頭ぶつけるしさ。
 僕にスタイリッシュなアーバンライフは似合わないよ」

「なんか、私達って普通だよね。
 中肉中背だし」

「コルム達みたいにドラマも無いしな。
 なんかあいつ等って映画の主人公みたいな人生だよな」

「私達は通行人?」

「通行人にもそれぞれの人生があるんだぜ?」

 ユージンは右腕にラナを抱きながら左手でポップコーンを一粒ずつ摘まんでは自分の口とラナの口に交互に入れることを繰り返している。

「あ~あ、寮に帰りたくないな~」

 ラナが溜息と一緒に愚痴を吐き出す。

「え?」

 ユージンがラナに向き直って、

「今夜は帰りたくないッ?!」

「意訳し過ぎ」

「大学の寮、ツラいの?」

 ユージンが心配そうにラナの髪を掻き上げる。
 その指先が優しくてラナは泣きそうになってしまう。

「・・・イジメってわけじゃないけど、・・・居心地は良くはないかな」

「家に下宿すれば?部屋余ってるし」

「・・・そんなわけにもいかないよ。
 自分で選んだ道だから、卒業まで頑張ってみるよ」

 ユージンがラナをギュッと抱きしめた。

「キスしていい?」

「もうっ!なんでいちいち訊くのよぉ」

「僕は訊くよォ~。
 結婚しても一々訊くから。

 このリンゴ食べてもいい?

 この本借りてもいい?
 
 先にバスルーム使ってもいい?

 オッパイ触ってもいい?

 パンツ脱がしてもいい?」

「変態!ノーマルなふりした変態!」

 ユージンは白い歯を見せて爽やかに笑っている。

「僕はあくまでも民主的にいきたいのさ。
 同意の無い行為は暴力だと思ってるからね」

「民主的変態・・・」

「それでキスはしてもいい?」

「・・・いいよ」

 ユージンの唇がラナの唇に軽く触れ、何度も擦るように動かす。
 ラナの背中にゾクゾクとした快感が広がる。

「ちょっ・・・ちょっとユージン」

「何?」

「なんか・・・すっごく気持ち良いんだけど・・」

 するとユージンは少年っぽさの残る可愛い笑顔で、

「うん。僕は顔も普通だからさ、ラナに夢中になってもらう為に努力しなきゃなって。
 それで技巧的に凝ってみようかと思って色々研究してんだよ」

 と清々しい顔で言い放った。

「さ・・・爽やかに変態・・」


「ごはんよ~。降りてらっしゃ~い」

 
 階下からユージンのお母さんの声がした。






 


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