王と王妃の泥仕合

猫枕

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豊穣祈願祭①

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 早春の候、毎年豊作を願って行われる祭りが今年もやって来る。

 出店が並んだりサーカスや移動遊園地がやって来たりと国中がお祭りムードである。

 各地方によって催されるイベントは違うようなのだが、ここ王都では今年の作付けを占う綱引き大会が祭り中日を盛り上げる。


 太陽の精霊を奉る東軍と水の精霊を奉る西軍により綱が引かれ、東軍が勝てば日照に恵まれ作物が良く育ち、西軍が勝てば水不足に悩まされることなく豊作になる、というどっちが勝っても結局豊作、めでたしめでたしの勝負、のハズである。


「今年は我々も参加しよう。

 俺が太陽の精霊、王妃が水の精霊に扮して東西に別れて先頭で綱を引こうじゃないか!

 きっと盛り上がるぞぉ~」

 エドワードがニコニコしながら朝食の席で提案してきた。

 どうせまたロクなことを考えていないのだろう。


「私は構いませんが陛下はもう腰の方は大丈夫なんですか?」

 ヴィクトリアが小馬鹿にしたように言うと一瞬ムッとしたエドワードが、

「毎晩シャルたんが優しくマッサージしてくれたり湿布を貼ってくれたり献身的に世話を焼いてくれるからすっかり元気になりましたー」

 とアッカンベーしてくる。

「エディたん、シャルたんが湿布貼る時にヒャッ!って跳ねるんだよ」

「だって~冷たいんだもぉん」

「でもシャルたんがエディたんを思う気持ちはアツアツだよぉ?」

 馬鹿二人が見つめ合って、ね~っ、とか言っている。

 全く何の会話にもいちいち首を突っ込んでくる女だ。


「まあ、恨みっこ無しの真剣勝負といこうじゃないか!」

 エドワードの鼻は膨らんでいる。

 またロクでもないことを考えているんだろう。

 さっさと部屋に戻って仕事すればいいのに。







「真剣勝負って何ですか?
 あれは綱引きったって形式だけで一年毎に東と西が順番に勝つことになってるんですよ」

 侍女Aが不機嫌そうに言う。

「どうせまたヴッキー様を陥れる計画を立ててるんですわ。
 返り討ちにしてくれるわ!」

 侍女Bもプンプンしている。

「順番だと今年はどっちが勝つ番だったかしらね?」

 ヴィクトリアが聞くと、

「東軍、太陽の精霊ですね」

 と侍女Cが答える。

 何をしようとしているのか、なんとなく予測がついてしまうエドワードの頭の程度が残念だな、とヴィクトリアは情けなくなる。


「向こうが何を企んでいるのか探ってみます」

 そう言った侍女Dの目は輝いていて、明らかに楽しんでいた。




 祭りが始まった。

 警備などの一部の仕事を除いて基本的には全ての業務が停止となり、城に勤める者たちもお祭り気分を満喫している。

 業務に当たらなくてはならない者達も交代で休日を取れるように勤務予定が組まれている。

 

 そして今日は例の綱引きの日だ。

 ヴィクトリアとエドワードはそれぞれ水の精霊と太陽の精霊のコスチュームに着替えて準備をする。


「い~な~。シャルたんもこんなの着たかったな~」

「あら、代わってあげましょうか?」

 「それはダメだ!!」

 慌ててエドワードが止めに入る。

 ヴィクトリアを嵌める為の罠に愛するシャルたんがかかったのでは元も子もないってワケだ。

「ブップー。つまんないの」

「ブップー、とかバカみたいなこと言わないの」

「可愛いからいいんだもん。王妃様ももうちょっと可愛くした方がいいよ。
 ほら、人差し指をほっぺたに当てて~、ブップー。

 ほっぺたはちょっと膨らませるのがポイントだよ」

「やらないって!」

「やってよ、ほら、ブップー」


 くだらない言い争いをしている内にすっかり用意は出来上がった。

 水色を基本にした光沢のある水の精霊の衣装に身を包んだヴィクトリアは惚れ惚れするほど美しかった。

「やっぱり王妃様はそういう冷たいカンジの色の方が似合うんだわね。
 シャルたんだったらやっぱりベビーピンクのお花の精霊の方が似合うもん。ブップー」

 悔し紛れに悪態をつくシャルたんの手にはフワフワの綿あめが握られている。

「綿あめってシャルたんにピッタリだと思うの。
 ピンクでフワフワでお口に入れるとすぐになくなっちゃっう儚さとか。
 消えちゃった跡に甘い記憶が残るところとか」

「うんうん、シャルたんは綿あめそっくりだね!
 空気中に漂う塵やホコリをくっつけて歩いてるところとか、なんかベタベタして不快なところとか」

「うぅぅ…。

 王妃様なんか、王妃様なんか岩おこし!」

「あら、美味しいじゃない岩おこし。
 あれ硬いからシャルたんの頭でパーン!って割ったらスッキリするかもね?」
 
 ヴィクトリアがスナップを利かせたジェスチャーを見せる。

「エディた~ん!魔女が虐める~」

「お前達、いい加減にしろ!
 いい年して私を取り合って争うなどみっともないぞ!」

 



 いよいよ綱引きが始まった。

 前年は水の精霊の西軍が勝利したので、今年は太陽の精霊率いる東軍が勝つことがお約束だ。

 競技場では既にたくさんの観客が王と王妃の到着を待っていた。

 東西に別れた入場口からそれぞれのチームが入ってくると会場は歓声に包まれた。

 選手たちは思い思いのコスチュームを着ていて観客にアピールをしている。

 両チームが揃うと、まずは太陽チームがパフォーマンスを披露する。

 楽しいダンスで会場はもりあがったが、素人芸の範疇で御愛嬌といったところだ。


 次にヴィクトリア率いる水の精霊チームのパフォーマンスが始まった。

 王立芸術劇場の総合監督指揮の下、素晴らしいステージとなった。

 綱引き選手達にはプロのバレエダンサーが多数仕込まれていて、素晴らしい舞踊に観客たちのヴォルテージが最高潮に達した時に競技場に水に見立てた青い布が波を打ちながら広がって、その中央から超絶に美しい水の精霊ヴィクトリアが登場してエンディングを迎えた。

 会場は大歓声に包まれ、観客達はもはや綱引きのことなど忘れるところだった。

 すっかりヴィクトリアに注目を奪われたエドワードは面白く無さそうに顔を歪めたが、まあ、本番はこれからだからと気を取り直した。


 いよいよ綱引きが始まった。

 オーイス!オーイス!引け、引け!と掛け声をだしながら皆笑顔である。
 わざとらしく暫く引っ張りっこをしてから審判の旗を合図に一斉に水の精霊チームが力を抜いて太陽チームの方に引っ張られていく。

「今年は太陽の精霊が勝利しました!
 日照に恵まれ、豊作がもたらされることになるでしょう!」

 アナウンスが響くと会場は拍手と歓声に包まれた。


 皆が笑顔の中、一人腑に落ちない顔のエドワード。

 しきりに首をかしげている。

 エドワードは西軍の陣地に出向いて行って地面を凝視している。

 そして王妃が立っていたあたりを軽く踏んでみたりしている。

 そんな馬鹿の様子を見たヴィクトリアがそっとエドワードに近づく。

 エドワードは尚も首をかしげながら辺りを歩き回っているが、さっきより大胆に体重をかけているように見える。

「陛下」

 突然背後から声を掛けられて驚いたエドワードがビクッとして飛び上がる。

 着地と同時にバキッ!という音がしてエドワードが消えた。

 エドワードはすっぽり身長が隠れる深さの穴に落ちた。
 穴の中は腰まであるドロドロの泥水。
 落ちた時の跳ね返りで顔も髪もドロドロだ。

 事前に情報をキャッチしていたヴィクトリアは一部を除いて穴を丈夫な板で塞いておいたのだ。

 もちろんチームの皆にも王の企みは知らせておいた。

 エドワードは穴の中からヴィクトリアに向かってギャーギャー悪態をついてきた。

 ヴィクトリアは溜息をついた。

「まさか、そんな沼の妖怪ドロドロンみたいな姿を国民に晒すわけにはいきませんでしょう?

 会場が空になるまでそこで大人しくなさってくださいまし」

 ヴィクトリアはエドワードが作戦失敗だと諦めてそのまま引く気なら仕返しに穴に落とすつもりは無かった。

 それを未練がましく何度も地面を確かめている様子を見ていると、そこまでしてヴィクトリアを貶めたいのかとやるせない気持ちになり、お返しに調度いい場所で声をかけてやったのだ。

 

 上からエドワードを見下ろすヴィクトリアの顔は逆光を受けて神々しかった。



 本日の取り組み。

 王の自滅~。

 王の自滅で、王妃の不戦勝。

 

 


 











 



 

 


    
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