王と王妃の泥仕合

猫枕

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豊穣祈願祭②

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 祭りの最終日、王と王妃が乗った山車が王都の中心街を練り歩く。

 これも昔は一つの山車に王と王妃が仲良く並んで座して、沿道を埋め尽くす観衆たちに手を振り歓声に応える、そんな和やかな催しものだった。
 少なくとも先王の時代までは。


 今では王の山車と王妃の山車は別々に、夫々が競うように趣向を凝らして作られている。

 数年前から王妃が山車からお菓子や花を撒くようになった。
 それを手にした者は一年の息災が約束される、という噂が広まって王妃の山車に群がる群衆の数は明らかに王の山車より多くなった。

「賄賂!賄賂!」

 王妃に人気を取られて面白くないエドワードはヴィクトリアを非難した。

「どうせ無病息災とかの噂だって自分で広めたんだろう!」

「あら、殿下も私の真似をして何か撒いてみられますか?
 
 『真似しんぼ~!ヤーイヤーイ真似しんぼ~!』 
  
 とか絶対に言いませんから、どうぞ私の真似をしてお金でもバラ撒いたらいかがです?」

 エドワードは拳を握りしめて奥歯をギリギリと噛んだ。



 そんなこんなで今年も祭りのクライマックス、王と王妃の山車行列が始まった。

 相変わらず王妃の人気の方が高いのだが、普段直接目にすることはない王族を拝めるとあって、沿道は人でごった返していた。

 警備や交通整理の人達もご苦労なことである。


 事件は中央広場近くに差し掛かった所で起きた。

 エドワードとヴィクトリアの山車が角で鉢合わせしてしまったのだ。

 普段なら適当ながらも割と精密に立てられたスケジュールにより互いの山車が出会うことは無いのだが。

 まあ、後で判明したことによるとこれは祭りの主役になろうと画策したシャルたんの仕業だったわけだが。


 「おい!どけよ!」

 エドワードの山車の先頭の曳き方がヴィクトリアの山車の曳き方を徴発する。

「はあ?どうやら陛下の手下どもは『レディーファースト』って言葉も知らないらしいな?

 こちとらジェントルメンなんでよぉ?」

「はあ?何がジェントルメンだよ?
 レディーファーストなんて聞こえの良い事言ってやがるが、あんなもんは『弾除け』と『毒見』に女を使ってただけだろうがよ!

 俺等の王様はな~、そんな卑怯な真似はしないんだよ!!」

 
「うるせぇ、こちとら前進あるのみ!真っ直ぐしか進めないんだ!」


「あー、悪魔は真っ直ぐしか進めないって言うもんな!」

 魔女と言われることは度々のヴィクトリアだが、悪魔と言われるのは納得がいかない。

 魔女も悪魔も似たようなもんだろうが、と言われればそれまでだが、なんとしても譲れないラインがヴィクトリアにはあった。

 ヴィクトリアは曳き方の顔をしっかり記憶した。


「なにを?!」

「やんのかコラ!」

 オラオラ、ゴラァゴラァ騒ぎだし、沿道の群衆もやれやれ!と盛り上がる。

 曳き方達が山車から角材をスーッと引き抜いた。

 担ぎ棒の角材は簡単に引き抜けるようになっているのだ。

 手に手に角材を持った曳き手達が夫々の山車の前に出てきて構えた。

 あわや大乱闘か?

 山車の上からヴィクトリアは欠伸をしながらエドワードをチラ見した。

『アンタがなんとかしなさいよ』

 群衆の目は期待に輝いている。

 乱闘が始まったらドサクサに紛れて自分も参加する気マンマンの奴等多数だ。

 前代未聞、血塗られた豊穣祈願祭になってしまうのか?!


 


 その時、天使が舞い降りた。


 「喧嘩はやめて!」

 
 いつの間にか近づいていたもう1台の山車。

 その山車の上には高い櫓が組まれておりそこから突き出した棒の先端に取り付けられたロープに括り付けられたシャルたんが一触即発の現場の上空に現れたのだ。

 パステルイエローの衣装に身を包み、背中には羽が生えている。


「一年の豊穣と国民の幸せを願う祭りの日に争いなんかしちゃダメ!!
 神様も精霊も悲しくなっちゃうんだから!」

 背中の羽がパタパタしている。

『手元の紐を引っ張るとパタパタする仕組みなのかなぁ?
 でも、あのセリフ言いながら手元でパタパタとかウケる~』

 ヴィクトリアはニヤニヤしながら成り行きを観察していた。

 それにしてもシャルたんのお陰で事なきを得そうで良かった、良かった、後でお礼しとかなきゃね。

 そうヴィクトリアが思っていると、

「あ~、えっ、えっ、なんでぇ?!」

 という叫び声と共にシャルたんがグルンと逆さまになってクルクル周り始めた。

 バランスを崩したのだろうか、シャルたんはロープにぐるぐると絡めとられてしまった。


「シャルたん!!大丈夫か?!」

 エドワードの叫び声は慌てふためいていた。

 そして遠慮の無いヴィクトリアの笑い声。

「シャルたん!なんか蜘蛛の巣に引っかかったハエみたいになってるよ?」

「酷い!ハエ違うもん!
 シャルたん妖精さんだもん!」

 ヴィクトリアはヒーヒー笑いながらも的確に指示を出してシャルロットを救出させた。

 エドワードは青い顔をして、

「シャルたんが~シャルたんが~」

 とパニクるばかりで全く役に立たなかった。

 その後、山車行列どころの騒ぎではなくなり、うやむやの内に今年の豊穣祈願祭は幕を閉じた。


 観衆は近年になく面白いものが見れたと大盛り上がりだった。



 本日の取り組み。

 シャルたんの介入により、



 ドロー!!

 





 

    
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