王と王妃の泥仕合

猫枕

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バイバイ

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 エドワードが目覚めた。

 寝ぼけまなこで辺りを見回す。
 いつもの見馴れた自分の部屋の天井画と壁紙が目に入る。

 このところあまり眠れていなかったのに、今日はぐっすり眠れたみたいで疲れは無い。

 ハァと一息ついて、寝転んだまま宙に突き出した手が、デカい。

 えっ?

 飛び起きたエドワードは両手で自分の顔を撫で確かめる。

 ハッと振り返った壁の姿見に映るのは寝グセのついたパジャマ姿のエドワードだった。

 エドワードは急いでスリッパを履くとガウンを引っ掴んで羽織りながら廊下を走った。


 何事かと慌てて後ろから警備兵やらお付の者達が追いかけてくる。

 
 エドワードはノックもせずにヴィクトリアの寝室の扉を開けた。

 そこはもぬけの殻だった。






 ~半年後~

 
 あの日ヴィクトリアは完全に姿を消した。

 お気に入りの4人の精鋭の侍女のうち一人だけを連れて。

 残りの3人は心を込めて尽くしてシャルロットに仕えるようにと伝言を残して。

 それから半年が経つが、ヴィクトリアの行方は杳として知れず。


 ヴィクトリアは実家にも帰っていなかったし、思いつく限りの親戚や友人、知り合いの所へも行っていなかった。

 3人の侍女達も知らぬ存ぜぬを頑なに貫き通した。

 正に、忽然と消えてしまったのだ。


 シャルロットを次の王妃に迎えることはヴィクトリアの意志であるし、エドワードも先に進まなければいけないことは分かっていたが、どうにも心に折り合いがつけられないでいた。


 「エディたん」

 挙式が3ヶ月後に迫ったある日、シャルロットが一枚のメモ書きを渡してきた。

「ヴッキーたんはここにいるよ」

 侍女から無理矢理聞き出したという連絡先だった。

 エドワードは受け取るのを躊躇した。

 シャルたんはエドワードの手の中に無理矢理紙片を握らせると、

「行っておいで!」

 とエドワードの目を見て力強く頷いた。




 

 ヴィクトリアは郊外の邸宅にいた。

 小ぢんまりとはしているが、良く手入れの行き届いた感じの良い家だった。

 出迎えた侍女はエドワードを見るとちょっと眉毛を顰めたが、丁重に邸内に招き入れてくれた。

 既に連絡が来ていたのだろう。

 大きな窓のある部屋にヴィクトリアはいた。

 落葉で寂しくなった枝の隙間から射し込む秋の光は弱々しくも明るかった。

 その光の中でヴィクトリアは横たわっていた。

 
「・・・どうして・・・」

 エドワードが見おろすベッドの上のヴィクトリアは見る影もないほど痩せていた。


「もっと側に寄ってあげてくださいまし。
 もう、ヴッキー様はほとんど目が見えません」

 侍女は淡々と言ったが目は潤んでいた。

 エドワードは呆然としながらおずおずとヴィクトリアの枕元に膝まづいた。

 エドワードは骨張った枯れ葉みたいなヴィクトリアの手を握って頬ずりした。

「・・・帰ろう・・・なあ、一緒に帰ろう」

 ヴィクトリアが億劫そうに軽く微笑む。

「嫌よ。・・・イケメンで・・・できる男と・・・結婚するんだから」

「シャルたんも心配してる」

「・・・シャルたんを、大切にしてね」

「・・・・」

「二人で・・・良い国にしてね」

「俺は・・・俺はオマエがいなきゃ無理だよ」

「・・・いい年して・・・まだ泣いてんの?」

「だって、俺、馬鹿だし」

「・・・アナタは馬鹿だけど、愚かではないから・・・戦争だけは起こさないでね・・・平和な世の中にしてね」

「メチャクチャ戦闘的な性格のクセにそんなこと言うのかよ?」

 ヴィクトリアは力無く笑った。

「なあ、覚えてるか?」

 エドワードはヴィクトリアを繋ぎとめようと必死で思い出話を繰り返すが、ヴィクトリアは次第に返事もしなくなっていく。
 
 息も荒く、苦痛に顔を歪める。

「医者は?医者はどうしたんだ?」

 叫ぶエドワードに侍女は黙って首を横に振った。

「そうだ!『精霊の粉!』精霊の粉はどこにあるんだ?

 アレもう1回かけろ!
 
 そうしたら俺がオマエの苦しみも痛みも、全部持って行くから、だからオマエは生きろ!!」

 ヴィクトリアはクスっと微笑って、

「ホントに馬鹿だね~」

 と微かな声で言った。


 そしてエドワードの腕に抱かれて息を引き取った。



 ヴィクトリアのベッドのヘッドボードにはペンギンのポーチが置いてあった。

 エドワードがチャックを開けてみると、中には『宇宙万象チョコ』のスーパープレミアムステッカーが入っていた。


 これにて二人の勝敗は、
 
 永遠のノーゲーム



(おしまい)
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