2 / 57
本編
1.可愛くない
しおりを挟む
――Domと分かったばかりの高校生が、自分で見つけたSubを意識しないなんて無理な話だと思わないか? 相手がとんでもなく可愛くない奴だったら特に。
休み時間、教室の壁に寄りかかりながら廊下で暁斗は友人と喋っている。話題は高校の第二学年に上がってすぐ行われたダイナミクス判定についてだ。
「なぁ~アキってさ、Domだったんだろ?」
「お前それ大声で言うなよ。プライバシーって知ってる?」
「ごめ~ん、でもあれだろ? くねーる、だっけ。そういうの言うとSubの子が従ってくれるんだよな!」
「くねーるって……馬鹿なの? kneelだよ」
実際には日本語でもいい。言葉にCommandを込めるだけだから、いまのは恐ろしく英語が苦手な友人ヤスのためだったはずだ。
『おすわり』と口に出した正しい発音は、生徒たちの声でざわめく廊下に溶けていった。ただ、一人を除いて。
ぺたん……とちょうど通りかかった小柄な男が腰を抜かす。
「ちょっと朔? どうしたの大丈夫?」
「だいじょうぶ……ちょっと足挫いた」
隣を歩いていた友人らしき男が驚いたように声をかける。床に座り込んだ男は平気そうに返事をするが、なかなか立ち上がれないようだった。
視線を感じたのか彼が横を振り向き、パチ……と眼鏡のガラス越しに目が合う。俺は気づいていた。
自分が意図せずGlareを放ち、言葉をコマンドとして発してしまったことを。そして目の前の男がSubだということを……多分、お互いだけが気づいた。
まとう雰囲気は地味で、小さい顔に対して大きめの眼鏡と長めのショートカットが目元まで隠している。切れ長の目尻が隙間から見えた。
隣に立つ男も眼鏡をかけていて、こちらはスマートな優等生顔。いかにも真面目ちゃんグループの二人という感じだ。
ブレザーにつけた校章の色は緑。一学年上の三年生だと素早く確認し、俺は思わず手を差し出した。だって、彼がこうなっているのは自分のせいだから。
「先輩……ですよね。大丈夫ですか?」
「ひぁっ……。僕に触れるなガキが! くそ、武蔵ちょっと肩貸してくれ、保健室いきたい」
肩に置いた手は素気なく振り払われた。後半の言葉は隣に立つ友人へ向けたものだ。思ったよりも口が悪い。――ぴくっと反応した声、小さく震えた肩は見逃さなかったけれど。
ぽかんと口を開けて固まる俺を置いて、友人に肩を借りた男がチッと舌打ちして離れていく。
『無差別にコマンド投げてんじゃねーよ』と言わんばかりの、明らかに俺へ向けた舌打ちだった。
「可愛くねーー……」
「それ男の先輩に対する感想じゃないっしょ。どしたん?」
確かに自分が悪かった。興味本位の言動があの先輩に迷惑をかけてしまったのだ。
ダイナミクスは欧米で血液型を訊くのと同様、オープンにすることはタブー視されている。
DomやSubは家によっては後継問題に関わるし、周囲が勝手に騒いで人間関係に影響したりする。勝手にカーストトップに祭り上げられたり、逆に苛められたり。
まぁウチの高校は家柄の良い奴が多いので結構ゆるい。言い換えればおおらかだと思う……この友人然り。
より秘すべきなのはSubだ。彼らはDomに支配されたり庇護される性質を持つ。そのせいで下に見られることが多いし、遊び混じりにコマンドを投げかけられたり、時には事件に巻き込まれることさえある。
危うく先輩のダイナミクスを露見させてしまうところだった。こんな、人の多い場所で。
しかし成人前に行なわれるダイナミクス判定直後は、意図しないミスや些細な事件はよく起こる。未熟な学生は人のダイナミクスを知りたがるし、Domであれば特に自分の力を持て余し、みんなどこかで試したいと思ってしまうからだ。
俺もやっちまった~~と大いに反省したが。同じ学校の先輩なら、後輩のあやまちを優しく見逃してくれたってよくないか?
あーあ、何を期待してたんだか。よく見れば顔の綺麗な男だったから、つい……なんだ。
確かに涼しげな目を隠しているのはもったいないと思ったし、小さめの鼻や口が日焼けのない肌にバランスよく並んでいて……いやいや、雰囲気を思い出せ。地味で口が悪いだけの男だぞ?
あーくそっ、心臓の音がうるさい。図らずも、初めてコマンドが通ってしまったからかもしれない。
DomやSubという二次性を持つ人間は、その他大勢のUsualと違い、その欲求を適度に発散しないと調子を崩す。逆に欲求が満たされると心身の安定や満足感をもたらすらしいのだ。
二次性に関しても、その成熟スピードは人によって異なる。だいたいが成人するあたりから徐々に成熟し、働き始めたり大学へ進んだころ、真剣に自分の性と向き合うことになる。
つまり欲求を発散する相手を見つけるか、そういう店に世話になるか、薬の世話になるか、だ。男の性欲と違ってひとりで解決できないのが悩ましい。
確かにあの先輩がこちらを見上げてきたときにはドキッとしたが、どうせPlayするなら可愛いげのある女の子がいい。
まぁ、もう二度とあんなことにはならんだろ。グレアには気をつけるし……会っても気まずいだけだ。
休み時間、教室の壁に寄りかかりながら廊下で暁斗は友人と喋っている。話題は高校の第二学年に上がってすぐ行われたダイナミクス判定についてだ。
「なぁ~アキってさ、Domだったんだろ?」
「お前それ大声で言うなよ。プライバシーって知ってる?」
「ごめ~ん、でもあれだろ? くねーる、だっけ。そういうの言うとSubの子が従ってくれるんだよな!」
「くねーるって……馬鹿なの? kneelだよ」
実際には日本語でもいい。言葉にCommandを込めるだけだから、いまのは恐ろしく英語が苦手な友人ヤスのためだったはずだ。
『おすわり』と口に出した正しい発音は、生徒たちの声でざわめく廊下に溶けていった。ただ、一人を除いて。
ぺたん……とちょうど通りかかった小柄な男が腰を抜かす。
「ちょっと朔? どうしたの大丈夫?」
「だいじょうぶ……ちょっと足挫いた」
隣を歩いていた友人らしき男が驚いたように声をかける。床に座り込んだ男は平気そうに返事をするが、なかなか立ち上がれないようだった。
視線を感じたのか彼が横を振り向き、パチ……と眼鏡のガラス越しに目が合う。俺は気づいていた。
自分が意図せずGlareを放ち、言葉をコマンドとして発してしまったことを。そして目の前の男がSubだということを……多分、お互いだけが気づいた。
まとう雰囲気は地味で、小さい顔に対して大きめの眼鏡と長めのショートカットが目元まで隠している。切れ長の目尻が隙間から見えた。
隣に立つ男も眼鏡をかけていて、こちらはスマートな優等生顔。いかにも真面目ちゃんグループの二人という感じだ。
ブレザーにつけた校章の色は緑。一学年上の三年生だと素早く確認し、俺は思わず手を差し出した。だって、彼がこうなっているのは自分のせいだから。
「先輩……ですよね。大丈夫ですか?」
「ひぁっ……。僕に触れるなガキが! くそ、武蔵ちょっと肩貸してくれ、保健室いきたい」
肩に置いた手は素気なく振り払われた。後半の言葉は隣に立つ友人へ向けたものだ。思ったよりも口が悪い。――ぴくっと反応した声、小さく震えた肩は見逃さなかったけれど。
ぽかんと口を開けて固まる俺を置いて、友人に肩を借りた男がチッと舌打ちして離れていく。
『無差別にコマンド投げてんじゃねーよ』と言わんばかりの、明らかに俺へ向けた舌打ちだった。
「可愛くねーー……」
「それ男の先輩に対する感想じゃないっしょ。どしたん?」
確かに自分が悪かった。興味本位の言動があの先輩に迷惑をかけてしまったのだ。
ダイナミクスは欧米で血液型を訊くのと同様、オープンにすることはタブー視されている。
DomやSubは家によっては後継問題に関わるし、周囲が勝手に騒いで人間関係に影響したりする。勝手にカーストトップに祭り上げられたり、逆に苛められたり。
まぁウチの高校は家柄の良い奴が多いので結構ゆるい。言い換えればおおらかだと思う……この友人然り。
より秘すべきなのはSubだ。彼らはDomに支配されたり庇護される性質を持つ。そのせいで下に見られることが多いし、遊び混じりにコマンドを投げかけられたり、時には事件に巻き込まれることさえある。
危うく先輩のダイナミクスを露見させてしまうところだった。こんな、人の多い場所で。
しかし成人前に行なわれるダイナミクス判定直後は、意図しないミスや些細な事件はよく起こる。未熟な学生は人のダイナミクスを知りたがるし、Domであれば特に自分の力を持て余し、みんなどこかで試したいと思ってしまうからだ。
俺もやっちまった~~と大いに反省したが。同じ学校の先輩なら、後輩のあやまちを優しく見逃してくれたってよくないか?
あーあ、何を期待してたんだか。よく見れば顔の綺麗な男だったから、つい……なんだ。
確かに涼しげな目を隠しているのはもったいないと思ったし、小さめの鼻や口が日焼けのない肌にバランスよく並んでいて……いやいや、雰囲気を思い出せ。地味で口が悪いだけの男だぞ?
あーくそっ、心臓の音がうるさい。図らずも、初めてコマンドが通ってしまったからかもしれない。
DomやSubという二次性を持つ人間は、その他大勢のUsualと違い、その欲求を適度に発散しないと調子を崩す。逆に欲求が満たされると心身の安定や満足感をもたらすらしいのだ。
二次性に関しても、その成熟スピードは人によって異なる。だいたいが成人するあたりから徐々に成熟し、働き始めたり大学へ進んだころ、真剣に自分の性と向き合うことになる。
つまり欲求を発散する相手を見つけるか、そういう店に世話になるか、薬の世話になるか、だ。男の性欲と違ってひとりで解決できないのが悩ましい。
確かにあの先輩がこちらを見上げてきたときにはドキッとしたが、どうせPlayするなら可愛いげのある女の子がいい。
まぁ、もう二度とあんなことにはならんだろ。グレアには気をつけるし……会っても気まずいだけだ。
144
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
【完結】俺だけの○○ ~愛されたがりのSubの話~
Senn
BL
俺だけに命令コマンドして欲しい
俺だけに命令して欲しい
俺の全てをあげるから
俺以外を見ないで欲しい
俺だけを愛して………
Subである俺にはすぎる願いだってことなんか分かっている、
でも、、浅ましくも欲張りな俺は何度裏切られても望んでしまうんだ
俺だけを見て、俺だけを愛してくれる存在を
Subにしては独占欲強めの主人公とそんな彼をかわいいなと溺愛するスパダリの話です!
Dom/Subユニバース物ですが、知らなくても読むのに問題ないです! また、本編はピクシブ百科事典の概念を引用の元、作者独自の設定も入っております。
こんな感じなのか〜くらいの緩い雰囲気で楽しんで頂けると嬉しいです…!
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる