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本編
6.
しおりを挟む石田先輩がいるなら、もしかして……と左右を見渡すが目的の人は見当たらない。まぁ、あの人はクラスの代表とかすごく嫌がりそう。なんとなく。
「朔ならいないよ。目立つのは嫌いなんだ、昔から」
「は……」
思いもよらぬ発言に、視線を戻す。朔というのは飛鳥井先輩の名前だと、数秒の間を置いて気づく。
この人、なんで俺があの人を探してるってわかったんだ。まさか、飛鳥井先輩が俺の話をこいつにしてる……?
「あぁ、朔は君の話を全くしないけどね。僕は君のベタベタする視線を感じ取ってたから。風谷くん、どこにいても目立つもんね」
一瞬生まれかかった期待を見透かしたように、釘を刺される。勝手に喋りだした男に俺は目を丸くしたが、言葉の意味を理解して眉根を寄せた。
こいつは敵だ。無害そうな顔してサクッと急所を刺してくるタイプ。めちゃくちゃマウント取って馬鹿にしてくるじゃん。
「石田先輩は、飛鳥井先輩のなんなんですか?」
「事実は二つある。僕は君と同じってことがひとつ。君よりは近い位置にいるってことがふたつめ。足し算はできるかな?」
「はぁっ?」
ニッコリと優男の笑みを浮かべているが、これは明らかな挑発だ。表面上は先輩だと思ってずっと抑えていたものが爆発しそうになった。
小声で会話していたものの、カッとしてつい声がでかくなる。が、その直後に学年主任の教師が多目的室に入ってきた。
何人かの生徒がちらちらっと後ろを振り返ってきていた。それも、石田先輩は「なんでもないよ」といなしてしまう。
いや、確かにキレて問題を起こすつもりなんてないけどな、こいつ裏表ありすぎだろ……!
俺の内心とは裏腹に、打ち合わせ自体は順調に進んだ。今日は今後のスケジュールの確認がメインで、忙しくなるのはクラスの出し物が決まってからだろう。
俺は教師の話を聞きながらも、頭の中では石田先輩の言ったことを考えていた。
『僕は君と同じ』って……何のことだろうか。一番に思いつくのはダイナミクスのことだ。もしこいつがDomなら、俺がDomだと気づいてもおかしくない。
俺にはまだよくわからないが、同族を認識しやすいというのは、DomにもSubにもいえることだという。
前にこいつがDomじゃないかと推測したのは、本当になんとなくだが。やっぱり、飛鳥井先輩のそばにDomがいるのは、非常に気に食わない。
同じというのがもしダイナミクスのことじゃないとすれば? 俺のことをそんなに知らないだろうに、どんな共通点があるんだ。
……正直、飛鳥井先輩のこと以外思いつかない。まさかあいつ、好きなのか? それで俺が、同じだと勘違いしてるとか?
そこまで考えて、俺はひとり首を振った。間違っても片想い仲間とか思われてたらドン引きだわ。
「ふっ」
隣から鼻で笑う音が聞こえて、まーじーで、ムカついた。わざと煙に巻くような言い方をして、俺が悩むのを楽しんでいるんだろう。
『君よりは近い位置にいる』はただの事実だ。でも、さっきの推測と併せて考えると……やっぱりパートナーとか恋人とか、そういう答えが出る。
牽制か? ふつふつと怒りが沸き立ってくる。
優越感でも抱いてんの? 俺だって先輩とプレイしたことあるんだよ。ま、どうしようもなく嫌われてるけどな……
誤魔化せないほど強くなってきた頭痛に、さっき薬を飲んでおけばよかった……と後悔する。隣のやつに悟られないよう、そっと指先でこめかみを揉んだ。
「答えは出せた? 風谷くん」
打ち合わせが終わって、多目的室を出ようとしたところで引き止められた。もうこんなやつ無視でいいと思っているとはいえ、苛々して喧嘩を売ってくるなら買ってやるくらいの気持ちになっていた。
突き当たりの教室なので教師とほとんどの生徒が前のドアから出て行き、俺たちは誰もいなくなった部屋で向かい合った。廊下から聞こえていた足音と喋り声も遠のいて、途絶える。
ほぼ同じ目線にある眼鏡を挑戦的に見返し、感情的になってはいけないと自分に言い聞かせる。
「石田先輩の望みはなんなんすか?」
「朔に近づかないでほしい」
「別に近づこうとしてるわけじゃ……」
「僕たちは受験生で、大事な時期なんだ。親のコネで将来安泰な君とは違ってね。たとえ羽虫一匹でも、視界をウロウロされると気が散るんだよ」
羽虫扱いって……まじで好きなこと言ってくれるな!? 確かに将来的には父親か母親の事業を継ぐつもりだが、すぐじゃないし普通に俺も受験するんですけど?
怒りと共になにかがこみ上げてくる。ぶわっと体温の上がったような感覚がして、俺は思うままそれを視線に乗せた。
「ッ……」
「ずいぶん余裕ないんですね、先輩? あぁ、念のため言っておきますが。飛鳥井先輩とプレイしたのは応急処置なので浮気じゃないですよ」
「なっ……プレイだって!?」
わざとプレイ未満のあの出来事をプレイと伝えたのは、ほぼ煽りのためだ。足を半歩引いて怯んだように見えた男が、プレイと聞いた瞬間反撃のように俺を睨みつけてきた。
そこでやっと自覚する。俺がいま正面から受けているものは、俺がさっきから出しているものは、Domのグレアだ。
負けてなるものかと意識してその量を増やし、睨み合いを続けること数秒。
――部屋に予想外の声が響いた。
「武蔵? もう終わったって聞い、た……っっ」
「飛鳥井先輩!」
「朔!」
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