超絶クールな先輩は俺の前でふにゃふにゃのSubになる

おもちDX

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本編

12.

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 来たときとは別のドアの前でもう一度会員カードをかざし、店になっている空間に向かう。

「いらっしゃーい、カイくん。ちょっと久しぶりじゃん? 相変わらず隈ひどいねー」
「……どうも」

 まっすぐバーカウンターに向かって端っこに座ると、マスターの雪さんがいつもどおり出迎えてくれた。ここで使用しているネームは飛鳥井から取ってカイだ。
 はからずも風谷とのプレイのおかげで、二周期はここに来なくて済んだ。

「え、ほんと丸二ヶ月ぶり? なに、Domの彼氏でもできた? 受験生なのにーっ」

 プレイのパートナーと恋人は別派もいるけど、僕は一緒にしたい派。そういったことも最初のカウンセリングで調査されている。だから雪さんはわざわざ彼氏と言っているのだ。
 カウンターの下にあるタブレット端末に客の情報が表示されているらしい。受験生、というワードだけ声を抑えながらも彼はきゃっきゃと楽しそうに訊いてくる。
 
 雪さんはけっこう年上だという。中性的な見た目の美人だからそんな無邪気な様子も似合うけど。僕は酒に見えなくもないサイダーをひとくち飲んでから答えた。
 
「彼氏ができてたらここに来ないって。まぁ、色々あって……とにかく。いまは勉強とバイトとで、恋愛してる余裕なんてない」
「恋はするものじゃなく落ちるものですよ、カイくん。ま、いままでの相手には全くなびいてなかったみたいだけどねー」

 冗談ぽく、突然さとすような言い方をされて笑ってしまった。これまでプレイの相手は全員、雪さんに選んでもらっている。未成年には手厚い対応でありがたいし、変なDomがいなくて助かっている。
 しかしまた同じ相手がいいとか、特別相性がよかったなどという感想を抱いたことはなかった。

 しばらくぽつぽつと会話して、雪さんは新規客のカウンセリングがあるからとカウンターを他の店員に任せて行ってしまった。あっちのドアだから、Domの新規か。
 新規だったら二十歳前後の若いやつの可能性が高い。この店は男女関係なく利用できるけど、どっちだろう。

(男だといいな。あ、でもプレイ慣れてないやつは怖いかも……)

 勝手なことを考えながら、こっそりと周囲を見渡す。店内には十人程度があちらこちらで談笑したり、ひとり酒を飲んだりしていた。外はまだ夕方だとしても、店内の薄暗さは夜を錯覚させる。
 長いバーカウンター以外にも立って話せる小さなテーブルがいくつかあるため、店内はかなり広い。バーエリアと別にプレイルームも奥にあるから、本当に贅沢な空間だ。
 
 ジロジロと見るもんじゃないから、見たことのある人がいるのかはわからないけれど。月に一回程度とはいえいつも土曜の、夜には早い時間に来ているから顔ぶれはそう変わらないのかもしれない。

「隣、いいかな」
「あ……どうぞ」

 声を掛けられて、反射的にうなずいた。中肉中背で白シャツの似合う若い男性だ。手首にはDomを示す青いタグが巻かれていた。イベントで使われるような紙のタグだ。
 僕の手首には緑色。ダイナミクスは見た目で判断できないから、ここにいる間はタグをつけることが義務付けられている。
 
 髪を茶色に染めているから大学生かな。カウンター内の店員がちらっと見てきたが、問題ないと判断したのかなにも言わない。
 いつもは雪さんに相手を選んでもらうけど、いまは忙しそうだし。さいわいにも年はそう離れていないようなので、自分で相手を選ぶ練習だと思って会話に応じることにする。

「実はこの前はじめて来たときさ、君をここで見かけてたんだ。すごく童顔だよね? あっ気にしてたらごめん!」
「あー、よく、言われます」

 実際は言われないけど。実年齢が若いことと、ここでだけ顔を晒してるからそんな風に言われるんだろう。相手の男は思ったことをそのまま口にしてしまった、という感じで慌てて謝ってくるから気が抜けた。
 
 Sub相手には高圧的なDomも多いという。支配したい性という本能がそうさせるのだとは思うが、彼はそういったタイプではないらしい。もちろん、極端に高圧的な人はこの店の安全基準から外されてるらしいけど。

 アツシと名乗った彼との話は意外に弾んだ。近くの大学に通っていて、実家暮らしだから自由度が低い愚痴とか、周りはサークル内恋愛ばかりで面白くないとか。
 基本彼が話していたが、大学を目指す僕としては、一年後の自分の姿が想像できて興味津々に聞いてしまった。

 アツシは顔立ちこそ素朴だけど、これだけ喋れるなら普通にパートナーがいても良さそうだ。そう感じていたとき、プレイに誘われた。

「彼女はいるんだけどさ、Usualで。別にパートナーを作りたいんだけど、なかなかこれっていう相手を見つけられなかったんだ。カイ君さえよかったら、おれと……どうかな」
「……そうなんすか」

 水滴の浮かぶグラスを掴んでいた手を、甲から掴まれる。ぎゅ、と手をカウンターに押し付けられて、拘束するような動きに性的な空気を感じた。眉根を寄せる。
 話し相手としては悪くないけど、アツシとプレイしたいかと問われれば、わからない。どっちかというと無遠慮に触れてくるのは嫌だなと思った。……僕に触れるのをためらった、優しい手を思い出す。

「――それで、こっちがバーエリアね。出せる飲み物は限られてるけど、基本的にはカウンターに座ってほしい。僕が見てるし、よさげな相手がいたら紹介できるから」
「はい」

 雪さんがバーエリアに戻ってきたことに気づき、反射的に振り向く。それで――視線がぶつかった。

「かざ、……」
「せっ……!?」

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