超絶クールな先輩は俺の前でふにゃふにゃのSubになる

おもちDX

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番外編

3.わがままな恋人

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「先輩っ!」
「暁斗……ひさしぶり」
「「…………」」

 最寄りから少し離れた大きな駅で待ち合わせした僕と暁斗は、ほんの数秒だけお互いの顔をじっと見つめた。最後に会ってからまだ一ヶ月も経っていないのに、なんだかもう感慨深い。
 馴染んだ地元じゃない景色を背景に暁斗を見るのが新鮮で、不思議だ。会えない時間よりも、顔を見た今ようやく遠距離恋愛であることを実感した気がした。

 会えたときの感動が半端じゃない。歓喜がぶわっと心の底から沸き上がって、溢れて、つい駆け寄ってしまいそうになるのをこらえたくらいだ。

 髪を切ったばかりの暁斗は、えり足がスッキリしていていつも以上にかっこよく見える。通り過ぎる人の視線がちらちらと向けられ、都会の地に降り立っても紛れるような容姿ではないのだと実感した。
 でもその目には僕しか映っていない。それが嬉しくて、僕は口元に笑みが浮かぶのを隠すように歩き出す。



「あ、だし巻きうっま! せん……さ、朔も食べてみますか?」
「いや呼び方慣れなさすぎだろ……しかも敬語が取れてない。はい、やりなおし」
「ぅぐ」

 せっかくならと観光をして、SNSで話題になっていたフルーツサンドを提供している喫茶店に入った。見た目にもお洒落なフルーツサンドだけではとうてい足りると思えなくて、だし巻きサンドも注文したので小さなテーブルはいっぱいだ。
 図らずも映え空間になり、暁斗は楽しそうに写真を撮っていた。匂わせって言ってたけど、なんのことだ?

 喉の渇いていた僕はクリームソーダをストローでズズズと吸ってから、正面に座って口をぱくぱくさせている暁斗を見据えた。
 高校も卒業したし、同い年になったし、先輩呼びも敬語もやめるように伝えてみたのだ。歳下だからと敬語を使われたいと思ったことも……ん゙んっ……ない。

 学年が違うことに差を感じるのはきっと今だけで、いつか全く気にならなくなる。すでに暁斗は心配性の世話やきっぽいし……僕は世話をやかれる一方だ。
 僕の先輩らしいところなんて、勉強ができるところくらいしかない。なのに付き合ってすぐに受験、受験が終わったら引っ越しで、勉強を教えてあげるみたいなシチュエーションは一切なかった。ちょっと悔しい。
 
 付き合うと決めたときから、暁斗とは対等な関係になりたいと思っている。恋人としても、プレイのパートナーとしても。
 大多数の人はSubを庇護される立場としか考えていないが、Subと同じようにDomも長期間プレイしていないと心身に不調をきたす。プレイの根幹には信頼関係があって、SubはセーフワードでDomを拒否することもできる。DomはSubの信頼を乞う立場でもあるのだ。

 僕は暁斗となら、お互いに支え合えるような関係に、なれると信じている。

 ほんのりと頬を上気させた暁斗が、きゅっと唇を引き結んで僕と視線を合わせる。食べかけのだし巻きサンドを手に持って、こちらへ差し出してくる。

「朔、あーん」
「…………」

 ぶわわっと顔が熱くなった。
 ぽかんと開いた口に、分厚いだし巻きたまごを挟んだサンドイッチがむにゅりと押し込まれる。無意識的にそれをかじってから、僕は慌てて暁斗の手からだし巻きサンドを奪い取った。

「おまっ……!」
「やった! 『あーん』成功」

 こいつやりやがった……! 怒りと羞恥にぷるぷると震えながら、誰かに見られていたんじゃないかと周囲を確認する勇気もない。
 無邪気に喜ぶ暁斗を恨めしげに睨み、僕は本気で怒ってるんだぞという態度で、ある宣告をしてやった。

「今後一切『あーん』は禁止する」
「えっ、ふたりきりのときもですか!?」
「そうだ。あと敬語やめろ」

 大きく口を開けないと食べられないほど分厚いサンドイッチは、甘いのもしょっぱいのも、すごく美味しかった。



 夜まで遊んで、遅くならないうちに夕飯を食った。並んで歩いて、本来の目的である僕の家に向かう。まだ馴染んだとも言いがたい我が家へ近づくにつれ、心臓が喉元へせり上がったみたいに緊張してくる。

 大丈夫だ。シミュレーションはばっちりだし……暁斗の方が慣れてるからな。そう思うと安心できるような不快なような、なんとも言えない気持ちになる。

「朔、疲れてる? なんか、俺の方があちこち連れ回しちゃいましたね」
「んー。大丈夫」

 暁斗はこれまで何人と関係を持ってきたんだろう。間違いなくそれはみんな女性で、同じように優しく扱われていたのだと想像するだけで、黒いもやもやが胸の内に生まれる。
 僕はこんなにも狭量だったのかと我ながら呆れて、はぁっとため息が出た。面食いに加えてこれじゃあ、身の程を知らなさすぎる。
 
 しかしこうあるべきだという考えと、実際の心の動きは一致しないことのほうが多い。仕方ないだろう。僕はどうやらわがままな恋人のようだ。
 憂いを目元に乗せたまま隣を見上げると、暁斗と目が合った。ずっとこちらを見ていたらしい。街頭の光の下でも、顔色は良さそうに見えた。

「新しい薬、ほんとに大丈夫なわけ?」
「はい! 副作用ほとんどないし、先輩には迷惑かけません!」
「よかった……。でも、無理すんなよ」

 暁斗に合う不安症の薬が見つかったのは朗報だった。といっても認可が下りたばかりの新薬で保険もきかない、とってもお高い薬らしい。
 薬が合わないままだったら、暁斗の両親がスポンサーになって俺を毎週のように帰らせる――実際には会いに来ていただく――計画を立てていたと聞いた。
 
 過保護というかなんというか……暁斗は意外と庶民的な感覚を持っているが、ご両親は金に物言わせるタイプな気がする。おかげで合う薬が見つかったんだけどな。
 大学の学費はほぼ免除できるため、俺が奨学金とアルバイトで生計を立てるつもりだと知って、お小遣いまでくれようとしたのだ。息子の恋人にそこまでするか?

 節約はするけど、食うに困ってるわけじゃない。高速バスを使えば毎月でも帰れるはずだし、たまにはこっちにも来てもらって、暁斗が薬を飲む機会はなるべく減らそうと思っている。
 不安症を言い訳にたくさん会えるのは正直いいな、と打算的に考えてしまったり。――それでも。

(ちゃんと第一志望で合格しろよ……)

 もっとすぐに会える距離にいたい。ダイナミクスによる欲求も落ち着いてきたし、暁斗もそうかからず安定してくるとは思うけど。
 同じ校舎にいれば、毎日でも会えたのに……と過ぎ去った日々を恋しく思ったのも一度や二度じゃない。

(僕の意地で貴重な高校生活を無駄にしちゃったんだよなぁ。せめて文化祭のときに素直になれてれば……)
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