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レグリスが名案を思いついたというように手を叩いた瞬間、つい前のめりになってしまったのは許してほしい。瞳には必死な色が乗っていただろう。
アメシストの瞳をキラッと輝かせたレグリスは、人差し指をまっすぐに立ててシェリールの視線を集めてから告げた。
「若いアルファなんて、美しいオメガが誘惑すれば一発で言いなりさ!」
「は、はぁ?」
シェリールと同い歳で、ルイと一歳しか変わらないはずのレグリスは滔々と主張した。曰く、堅物のルイでも若いアルファなのだから、オメガの美人妻に誘惑されればくらっときて言いなりになると。
ひと通り聞いたシェリールは「うーん」と首を傾げた。別に自分は美人妻ではないし、ルイがくらっとするところは想像がつかない。
けれどレグリスが適当なことなんて……まあ、わりと言うものの、真剣に相談したシェリールに対して不誠実だったことはないのだ。
番になったのだから、お互いのフェロモンは心地よく感じて当然のはず。
いつもよりちょっと近づくだけでも効果があるのかもしれないな。気になって書斎から自分の部屋へ持ってきておいた本をもう一度真剣に読んでみてもいい。
無理矢理自分を納得させたシェリールは、遅くなる前に街の宿屋へ戻るというレグリスを玄関ホールまで見送った。
屋敷に客間はたくさんあるのだし泊まって行けばいいのだが、二次性が確定してからレグリスは決して泊まろうとしない。
アルファとオメガとはいえ、互いのあいだには篤い友情しかない。けれどシェリールにこれ以上不名誉な噂が流れないよう彼は気にしてくれているのだ。
「じゃあ、次はカシャロット侯爵の夜会で会おう」
「うん! レグリス、今日はありがとう。帰りも気をつけてね」
レグリスに手を振ると、彼はちらっとシェリールの背後を見遣ってから近づいてきた。秘密の話があるみたいに頬を寄せて、シェリールの耳元で囁く。
「旦那さんの誘惑、がんばってね? 次に会うときはもっと新婚らしくなってることを期待してるよ!」
「もう……そんなの、――ぅわっ、……ルイ?」
耳元でちゅっとリップ音だけを響かせたレグリスに笑って返そうとすると、突然肩を引かれた。トン、とルイの胸に背中が着地する。
理由の分からない行動に驚いて見上げると、彼は無表情でじっとレグリスを見つめている。いったいどうしたんだろう?
「……街道には冬眠明けの熊がふらふらしていることがある。気をつけて帰ってくれ」
「ご忠告ありがとう! シェリは僕の大事な友人なんだ。これからは君が守ってあげてね」
「言われるまでもない」
シェリールは二人の会話を聞いて意識を遠くに飛ばしてしまった。
(え……もしかして、ルイが僕を守ってくれるって言った!? ……え。生きてるだけでファンサービスなのに!?!?)
「墓に刻もう」
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