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3.スパ・スポール
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第二性にはそれぞれ特徴がある。と言っても、一番多いベータは第二性による特徴がほとんどなない。
アルファは比較的優秀な人物が多く、第一性、つまり男か女かに関係なくオメガを妊娠させることができる。逆にオメガは第一性に関係なくアルファやベータとの性交による妊娠が可能だ――
オメガ専用の施設は、“スパ・スポール”と言うらしい。
なんか外観からジムみたいだなと思ったら、ほぼジムだった。なんで??
「オメガは発情期がありますからね。性欲があっても体力が追いつかないと結構困ります。つまり体力勝負です」
「た、体力勝負……」
インストラクターのターザと名乗った青年はそう説明した。
第二性のなかでもオメガにだけ発情期がある。発情期は、個人差はあれど三ヶ月に一度あって、長いと一週間は続くらしい。体力がないと性欲を満足に発散できず発情期が長引いてしまったり、終わったあとの回復に時間がかかったりしてしまうのだ。
オメガのサポートがいくら手厚いといえど、社会復帰に時間がかかってしまうのは誰にとっても望ましいことではない。だから積極的な運動が推奨されていて、そのための施設が用意されているというのだ。
ここは物語の世界ではない。現実だからこそ、体力にスポットが当てられているのだと実感させられる。
「立派な大浴場もありますし、なんと無料です!メグムさんはここへ来たばかりでいつ発情期が来るのかわかりませんが、それまでに頑張って体力をつけましょう」
コーヒー色の茶髪を短く整えたターザは、スポーツマンらしい爽やかな笑顔で僕の肩をポンと叩いた。彼の胸元についている名札には、ターザが23歳のベータであることが記されている。
スパ・スポールでは、番持ちでもアルファは働けず、オメガと、厳しい水準の試験をクリアしたベータしか働けないようだ。ターザは妹がオメガで、兄として見守るためにここで働くことを決意したという。いいお兄ちゃんだなぁ。
「はーい、みなさーん。注目!今日からここへ入会する、新人のメグムくんです。仲良くしてあげてくださいね!」
「ヒェッ……」
パン!と手を叩いて衆目を集めたターザは、小学校の転校生が来たときのようなノリで僕を紹介した。
うわ、やめて……注目を浴びるのは苦手なのに。僕はつい目線をせわしなく動かした。
そこには様々な体格の人がいた。目に見えるだけで十数名か……薄々感じてたけど、この世界ではオメガだからといって華奢だったり身長が低かったり、という特徴はあまりない。僕とキリトも体格に変化がなかったのは、きっとそういうことなんだろう。
「よ、よろしくお願いします……」
どうぞ一言!という雰囲気に負けて、ぼそぼそと挨拶だけする。ぺこっと頭を下げれば、「よろしくねー!」「かわいいねぇ」「原石キタ」などわりかし好意的な声が掛けられた。
一緒に汗をかくからか、オメガは仲間意識が強いみたいだ。僕は内気でこれまで学校でも仲間に入れないことばかりだったから、この雰囲気には少しだけほっとした。
スパ・スポールには、僕のイメージするジムとそう変わらない運動器具やプールがあり、音楽に合わせてエクササイズを行うスタジオなんかもあった。スパというだけあってサウナや大浴場も充実している。
僕は基礎体力がないから、ターザのアドバイスで有酸素運動を中心として進めることになった。歩いたり走ったり、プールでの水泳や初心者向けのスタジオプログラムがおすすめらしい。
ターザと一緒に一週間の運動スケジュールをたてた頃には、わくわく、そわそわする感情を持て余していた。だって、ジムとはいえこんなにも充実した施設を利用するのは初めてだし、みんなで頑張ろうという雰囲気も温かくてこそばゆい。
転移によって大学の勉強を続けられなくなったのは残念に思っていたけど、運動とか仕事とか、やるべきことはいろいろありそうだ。
僕もがんばれば、この世界で一人前に自信を持てるようになるかも。キリトからもパートナーとしてたくさん愛情を向けてもらえるようになるかも……!
僕は珍しく前向きな心持ちで、この世界での一歩を踏み出したのだった。
アルファは比較的優秀な人物が多く、第一性、つまり男か女かに関係なくオメガを妊娠させることができる。逆にオメガは第一性に関係なくアルファやベータとの性交による妊娠が可能だ――
オメガ専用の施設は、“スパ・スポール”と言うらしい。
なんか外観からジムみたいだなと思ったら、ほぼジムだった。なんで??
「オメガは発情期がありますからね。性欲があっても体力が追いつかないと結構困ります。つまり体力勝負です」
「た、体力勝負……」
インストラクターのターザと名乗った青年はそう説明した。
第二性のなかでもオメガにだけ発情期がある。発情期は、個人差はあれど三ヶ月に一度あって、長いと一週間は続くらしい。体力がないと性欲を満足に発散できず発情期が長引いてしまったり、終わったあとの回復に時間がかかったりしてしまうのだ。
オメガのサポートがいくら手厚いといえど、社会復帰に時間がかかってしまうのは誰にとっても望ましいことではない。だから積極的な運動が推奨されていて、そのための施設が用意されているというのだ。
ここは物語の世界ではない。現実だからこそ、体力にスポットが当てられているのだと実感させられる。
「立派な大浴場もありますし、なんと無料です!メグムさんはここへ来たばかりでいつ発情期が来るのかわかりませんが、それまでに頑張って体力をつけましょう」
コーヒー色の茶髪を短く整えたターザは、スポーツマンらしい爽やかな笑顔で僕の肩をポンと叩いた。彼の胸元についている名札には、ターザが23歳のベータであることが記されている。
スパ・スポールでは、番持ちでもアルファは働けず、オメガと、厳しい水準の試験をクリアしたベータしか働けないようだ。ターザは妹がオメガで、兄として見守るためにここで働くことを決意したという。いいお兄ちゃんだなぁ。
「はーい、みなさーん。注目!今日からここへ入会する、新人のメグムくんです。仲良くしてあげてくださいね!」
「ヒェッ……」
パン!と手を叩いて衆目を集めたターザは、小学校の転校生が来たときのようなノリで僕を紹介した。
うわ、やめて……注目を浴びるのは苦手なのに。僕はつい目線をせわしなく動かした。
そこには様々な体格の人がいた。目に見えるだけで十数名か……薄々感じてたけど、この世界ではオメガだからといって華奢だったり身長が低かったり、という特徴はあまりない。僕とキリトも体格に変化がなかったのは、きっとそういうことなんだろう。
「よ、よろしくお願いします……」
どうぞ一言!という雰囲気に負けて、ぼそぼそと挨拶だけする。ぺこっと頭を下げれば、「よろしくねー!」「かわいいねぇ」「原石キタ」などわりかし好意的な声が掛けられた。
一緒に汗をかくからか、オメガは仲間意識が強いみたいだ。僕は内気でこれまで学校でも仲間に入れないことばかりだったから、この雰囲気には少しだけほっとした。
スパ・スポールには、僕のイメージするジムとそう変わらない運動器具やプールがあり、音楽に合わせてエクササイズを行うスタジオなんかもあった。スパというだけあってサウナや大浴場も充実している。
僕は基礎体力がないから、ターザのアドバイスで有酸素運動を中心として進めることになった。歩いたり走ったり、プールでの水泳や初心者向けのスタジオプログラムがおすすめらしい。
ターザと一緒に一週間の運動スケジュールをたてた頃には、わくわく、そわそわする感情を持て余していた。だって、ジムとはいえこんなにも充実した施設を利用するのは初めてだし、みんなで頑張ろうという雰囲気も温かくてこそばゆい。
転移によって大学の勉強を続けられなくなったのは残念に思っていたけど、運動とか仕事とか、やるべきことはいろいろありそうだ。
僕もがんばれば、この世界で一人前に自信を持てるようになるかも。キリトからもパートナーとしてたくさん愛情を向けてもらえるようになるかも……!
僕は珍しく前向きな心持ちで、この世界での一歩を踏み出したのだった。
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