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「あ、アナ!余計なことを言うんじゃない!」
「ま~、でもわかるな~。メグムさんって、ウサギみたいで庇護欲をかきたてるのよね。そのピンクの瞳もそうだし、タレ目だからかな?」
「アナちゃんのほうがよっぽど可愛いよ。学校でもモテモテなんじゃない?」
妹が登場したことで、ターザはとたんにお兄ちゃんぽくなる。兄妹のやり取りが軽快で思わずニコニコと見ていたら、アナにも褒められた。
このふたり、性格も似てるな……
「え……わたし彼氏にさえ可愛くないっていつも言われてるのに……メグムさんいい人!こんな兄しかいないけど、うちにお嫁にきて!」
「アナ、もうやめてくれ……それに、メグムくんにはちゃんと恋人がいるんだから、余計なこと言わないの」
「え、別れたんじゃないの?」
「「え?」」
アナの発言に、ターザも僕も素っ頓狂な声を上げてしまった。ターザが確認するように僕の方を見るが、首を振る。また胸騒ぎが戻ってきて、心臓がいやな音を立てた。
アナが言うには、ニュイ・ドリームの前でキリトらしき人物を見たというのだ。しかも中から出てきた様子だったから、僕と別れて登録しにきたと思ったらしい。
一日で二回も目撃証言を聞くなんておかしい。情報が正しいとすれば、キリトは少なくとももう二度ニュイ・ドリームを訪れていることになる。
「僕……キリトに会ってきます!」
「あっ、メグムくん!」
慌てたような声が背中にかかったけど、もう居ても立ってもいられなかった。キリトの家はちょっと距離があるけど、ニュイ・ドリームならここからそう遠くない。
行ったことはないものの、講習のときに場所は聞いていた。スパ・スポールを出て、いつもとは逆方向に走り出す。
体力をつけていて良かった。以前だったら確実に途中でギブアップしていた距離を走り抜けると、ニュイ・ドリームの黒い建物が見えてきた。
黒い外壁で無機質な感じのする建物は、用途を匂わせず近代的でかっこいい。しかしそれに目を留める間もなく、僕の視線は入り口に吸い寄せられた。
入り口の外で、数名の大人が言い争っている。おしゃれなパジャマのような制服を着ているのはスタッフだろう。その横には警備員らしき身体の大きな人が立っている。
入り口を背に立つそのふたりに向かって、小柄な男がなにか喚いている。
その背中を見ただけでわかった。――キリトだ。
白熱している人間のあいだに入るのは勇気がいる。状況がわからないため、僕は速度を落としてゆっくりと近づいた。声が大きいから、離れていても会話が聞こえてくる。
「なんでだよ!おれはアルファだぞ!」
「何度も申し上げていますが、お相手から苦情が出た時点で登録は解除となります。お引取り下さい」
「相性が悪かっただけだ。向こうにも問題があるとは思わないのか!」
「どんな理由があったとしても、発情期中のオメガへの暴力行為は、認められません」
「え……」
会話の内容から、起こったことが推測できて思わず声が出た。気づけば僕はキリトのすぐ後ろにまで近づいていて、僕の声に反応して彼が振り向く。
キリトは僕の顔を見てチッと舌打ちをした。
「ちくしょう!こんなとこ、二度と来てやらないからな」
「待って。キリト、待ってよ!」
目も合ったのに、僕を無視して歩いていこうとするキリトを呼び止める。
「ねぇ、どういうこと……?ここで、誰かの相手をしたってこと?」
「あぁそうだよ!そもそも、お前が悪いんだ。いつまで経っても発情期は来ないし、おれとヤるのが嫌でオメガって嘘ついてんじゃねーの?」
「そんなこと……!僕は嘘なんてついてない」
「じゃぁ欠陥品だな。お前はもう返品するわ。じゃーな」
へんぴん……?
キリトの言葉に唖然としてしまってなにも言い返せない。なにが起こったのかわからなかった。
キリトは今度こそ背を向けて去っていき、気づけば姿が見えなくなっていた。
「ま~、でもわかるな~。メグムさんって、ウサギみたいで庇護欲をかきたてるのよね。そのピンクの瞳もそうだし、タレ目だからかな?」
「アナちゃんのほうがよっぽど可愛いよ。学校でもモテモテなんじゃない?」
妹が登場したことで、ターザはとたんにお兄ちゃんぽくなる。兄妹のやり取りが軽快で思わずニコニコと見ていたら、アナにも褒められた。
このふたり、性格も似てるな……
「え……わたし彼氏にさえ可愛くないっていつも言われてるのに……メグムさんいい人!こんな兄しかいないけど、うちにお嫁にきて!」
「アナ、もうやめてくれ……それに、メグムくんにはちゃんと恋人がいるんだから、余計なこと言わないの」
「え、別れたんじゃないの?」
「「え?」」
アナの発言に、ターザも僕も素っ頓狂な声を上げてしまった。ターザが確認するように僕の方を見るが、首を振る。また胸騒ぎが戻ってきて、心臓がいやな音を立てた。
アナが言うには、ニュイ・ドリームの前でキリトらしき人物を見たというのだ。しかも中から出てきた様子だったから、僕と別れて登録しにきたと思ったらしい。
一日で二回も目撃証言を聞くなんておかしい。情報が正しいとすれば、キリトは少なくとももう二度ニュイ・ドリームを訪れていることになる。
「僕……キリトに会ってきます!」
「あっ、メグムくん!」
慌てたような声が背中にかかったけど、もう居ても立ってもいられなかった。キリトの家はちょっと距離があるけど、ニュイ・ドリームならここからそう遠くない。
行ったことはないものの、講習のときに場所は聞いていた。スパ・スポールを出て、いつもとは逆方向に走り出す。
体力をつけていて良かった。以前だったら確実に途中でギブアップしていた距離を走り抜けると、ニュイ・ドリームの黒い建物が見えてきた。
黒い外壁で無機質な感じのする建物は、用途を匂わせず近代的でかっこいい。しかしそれに目を留める間もなく、僕の視線は入り口に吸い寄せられた。
入り口の外で、数名の大人が言い争っている。おしゃれなパジャマのような制服を着ているのはスタッフだろう。その横には警備員らしき身体の大きな人が立っている。
入り口を背に立つそのふたりに向かって、小柄な男がなにか喚いている。
その背中を見ただけでわかった。――キリトだ。
白熱している人間のあいだに入るのは勇気がいる。状況がわからないため、僕は速度を落としてゆっくりと近づいた。声が大きいから、離れていても会話が聞こえてくる。
「なんでだよ!おれはアルファだぞ!」
「何度も申し上げていますが、お相手から苦情が出た時点で登録は解除となります。お引取り下さい」
「相性が悪かっただけだ。向こうにも問題があるとは思わないのか!」
「どんな理由があったとしても、発情期中のオメガへの暴力行為は、認められません」
「え……」
会話の内容から、起こったことが推測できて思わず声が出た。気づけば僕はキリトのすぐ後ろにまで近づいていて、僕の声に反応して彼が振り向く。
キリトは僕の顔を見てチッと舌打ちをした。
「ちくしょう!こんなとこ、二度と来てやらないからな」
「待って。キリト、待ってよ!」
目も合ったのに、僕を無視して歩いていこうとするキリトを呼び止める。
「ねぇ、どういうこと……?ここで、誰かの相手をしたってこと?」
「あぁそうだよ!そもそも、お前が悪いんだ。いつまで経っても発情期は来ないし、おれとヤるのが嫌でオメガって嘘ついてんじゃねーの?」
「そんなこと……!僕は嘘なんてついてない」
「じゃぁ欠陥品だな。お前はもう返品するわ。じゃーな」
へんぴん……?
キリトの言葉に唖然としてしまってなにも言い返せない。なにが起こったのかわからなかった。
キリトは今度こそ背を向けて去っていき、気づけば姿が見えなくなっていた。
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