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13.波乱はいつも、突然に
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スパ・スポールで、久しぶりにオーエンと会った。今日も深緑色のショートボブが、繊細な顔立ちによく似合っている。
しばらくぶりに会えたことが嬉しくて、僕らはなんとなく示し合わせて、同じタイミングで大浴場へと移動した。
「なんかすれ違っちゃってなかなか会わなかったな。メグはさらに痩せて可愛くなってるし!」
「ほんと久しぶり。前に会ったときは発情期前だって言ってたもんね。オーエンの方こそ、なんか良いことあった?もともと美人だけど、今日は一段と輝いてる気がする」
オーエンはキラキラとした笑顔を僕に向けて、大きく頷く。
「そうなんだよ!実はさ、ニュイ・ドリームでいい出会いがあって……さいきんプライベートでも会ってるんだ~」
「え!それは恋の予感ですか!」
突然飛び出した恋バナに、ついテンションが上がってしまう。こういった話を他人とするのなんて初めてだ。そういえば、前に会ったときオーエンはなんて言ってたっけ?
『今回は初めてお相手希望してみようと思ってる!リアン様が登録するって噂聞いた?』『本人の希望も伝えられるよ』
そうだ……発情期に希望すればアルファに相手をしてもらえるシステムで、オーエンはリアンを希望してみるって言ってたんだった。
そのことを思い出して、詳しい話を知りたいような知りたくないような複雑な気持ちになる。なぜならリアンは僕にとって今や、かなり近い存在になっているからだ。
僕がリアンの家で働いていることをオーエンは知らないはずで、彼の言っている『いい出会い』がリアンのことだとしたら、ちょっと気まずい。
「それはその……希望が通ったってこと?」
「ふふふ~っ、相手は秘密だって知ってるだろ?もし付き合うことになったら、ちゃんと紹介してやるよ!おれの魅力で必ず落としてみせるぜ!」
「そ、そう。がんばってね」
「ありがと!あ、そういえば……メグムの彼氏って、黒髪黒目の目が細いやつだよな?前のメグムよりさらにぽっちゃりの」
「たぶん、そう。どこかで会った?」
もしリアンとオーエンが恋人同士になったら、オーエンがリアンの家に来ることもあるよね。そうしたら僕ってかなり邪魔じゃないだろうか。
リアンに恋人や結婚相手ができたときのことを全く考えていなかったし、雇用契約にもそういった条件は書かれていなかった気がする。でもたぶん、恋人の世話は恋人がするものだろう。わからないけど。自分はそうだと思っている。
えっもしかして、解雇の危機が迫ってる?
内心焦っていると、なぜかキリトのことを聞かれた。リアンのように髪だけ黒い人や目だけ黒い人もたまにいるが、黒髪黒目っていうと他には見たことがない。
「ニュイ・ドリームで見かけたんだよ。登録しに来たのかな?メグムの発情期のとき、お互いを希望して引き合わせてもらう感じ?」
「え……そんな話は、してない、と思う……」
「あれぇ?じゃあ見間違いかな?」
キリトも僕も希望できる制度のことは知らなかったから、発情期がきたらキリトの家で一緒に過ごすつもりだった。キリトもどこかでその仕組みのことを聞いたのかな?
登録するって聞いてないんだけど……しばらく会っていないし、キリトが僕に伝え忘れている可能性もある。
なんだか妙な胸騒ぎがした。
今日はこのあとキリトの家に行ってみよう。兆候はなくったって発情期はいつ来るのかわからないし、相談しておくことは大事だろう。
「メグムくん、いま時間ありますか?」
湯冷ましに休憩所でぼうっとしていると、ターザに声を掛けられた。僕は素直に立ちあがり、何とはなしにコーヒー色の髪を見ながら付いていく。
いつもターザの時間があるときに、運動スケジュールの調整や相談など事細かなサポートをしてくれるのだ。
「メグムくんはすごく真面目で努力家ですね!二日に一回必ず通ってくれるし、運動スケジュールも着実にこなしています。筋肉量も増えて、持久力がついたと思いませんか?」
「ありがとうございますっ。確かに最近はちょっと動いたくらいじゃ疲れなくなってきました。あの、体重は減らなくなってきましたけど……」
「筋肉は脂肪よりも重いから、問題ありませんよ。その分身体は引き締まってきてます。メグムくんの可愛らしさが倍増してるってみんな言ってますよ!インストラクター冥利に尽きるなぁ」
「可愛いかわいいって一番言ってるのは、お兄ちゃんじゃない」
褒めて伸ばしてくれるターザに自分も嬉しくなっていると、ターザの後ろから女の子が会話に割り込んできた。ターザと同じ茶髪に、ヘーゼルの瞳。顔立ちもよく似た女の子は彼の妹であるアナだ。
ターザがここで働くきっかけになったアナもオメガで、まだ学生だから学校帰りにスパ・スポールへ来ることが多い。
しばらくぶりに会えたことが嬉しくて、僕らはなんとなく示し合わせて、同じタイミングで大浴場へと移動した。
「なんかすれ違っちゃってなかなか会わなかったな。メグはさらに痩せて可愛くなってるし!」
「ほんと久しぶり。前に会ったときは発情期前だって言ってたもんね。オーエンの方こそ、なんか良いことあった?もともと美人だけど、今日は一段と輝いてる気がする」
オーエンはキラキラとした笑顔を僕に向けて、大きく頷く。
「そうなんだよ!実はさ、ニュイ・ドリームでいい出会いがあって……さいきんプライベートでも会ってるんだ~」
「え!それは恋の予感ですか!」
突然飛び出した恋バナに、ついテンションが上がってしまう。こういった話を他人とするのなんて初めてだ。そういえば、前に会ったときオーエンはなんて言ってたっけ?
『今回は初めてお相手希望してみようと思ってる!リアン様が登録するって噂聞いた?』『本人の希望も伝えられるよ』
そうだ……発情期に希望すればアルファに相手をしてもらえるシステムで、オーエンはリアンを希望してみるって言ってたんだった。
そのことを思い出して、詳しい話を知りたいような知りたくないような複雑な気持ちになる。なぜならリアンは僕にとって今や、かなり近い存在になっているからだ。
僕がリアンの家で働いていることをオーエンは知らないはずで、彼の言っている『いい出会い』がリアンのことだとしたら、ちょっと気まずい。
「それはその……希望が通ったってこと?」
「ふふふ~っ、相手は秘密だって知ってるだろ?もし付き合うことになったら、ちゃんと紹介してやるよ!おれの魅力で必ず落としてみせるぜ!」
「そ、そう。がんばってね」
「ありがと!あ、そういえば……メグムの彼氏って、黒髪黒目の目が細いやつだよな?前のメグムよりさらにぽっちゃりの」
「たぶん、そう。どこかで会った?」
もしリアンとオーエンが恋人同士になったら、オーエンがリアンの家に来ることもあるよね。そうしたら僕ってかなり邪魔じゃないだろうか。
リアンに恋人や結婚相手ができたときのことを全く考えていなかったし、雇用契約にもそういった条件は書かれていなかった気がする。でもたぶん、恋人の世話は恋人がするものだろう。わからないけど。自分はそうだと思っている。
えっもしかして、解雇の危機が迫ってる?
内心焦っていると、なぜかキリトのことを聞かれた。リアンのように髪だけ黒い人や目だけ黒い人もたまにいるが、黒髪黒目っていうと他には見たことがない。
「ニュイ・ドリームで見かけたんだよ。登録しに来たのかな?メグムの発情期のとき、お互いを希望して引き合わせてもらう感じ?」
「え……そんな話は、してない、と思う……」
「あれぇ?じゃあ見間違いかな?」
キリトも僕も希望できる制度のことは知らなかったから、発情期がきたらキリトの家で一緒に過ごすつもりだった。キリトもどこかでその仕組みのことを聞いたのかな?
登録するって聞いてないんだけど……しばらく会っていないし、キリトが僕に伝え忘れている可能性もある。
なんだか妙な胸騒ぎがした。
今日はこのあとキリトの家に行ってみよう。兆候はなくったって発情期はいつ来るのかわからないし、相談しておくことは大事だろう。
「メグムくん、いま時間ありますか?」
湯冷ましに休憩所でぼうっとしていると、ターザに声を掛けられた。僕は素直に立ちあがり、何とはなしにコーヒー色の髪を見ながら付いていく。
いつもターザの時間があるときに、運動スケジュールの調整や相談など事細かなサポートをしてくれるのだ。
「メグムくんはすごく真面目で努力家ですね!二日に一回必ず通ってくれるし、運動スケジュールも着実にこなしています。筋肉量も増えて、持久力がついたと思いませんか?」
「ありがとうございますっ。確かに最近はちょっと動いたくらいじゃ疲れなくなってきました。あの、体重は減らなくなってきましたけど……」
「筋肉は脂肪よりも重いから、問題ありませんよ。その分身体は引き締まってきてます。メグムくんの可愛らしさが倍増してるってみんな言ってますよ!インストラクター冥利に尽きるなぁ」
「可愛いかわいいって一番言ってるのは、お兄ちゃんじゃない」
褒めて伸ばしてくれるターザに自分も嬉しくなっていると、ターザの後ろから女の子が会話に割り込んできた。ターザと同じ茶髪に、ヘーゼルの瞳。顔立ちもよく似た女の子は彼の妹であるアナだ。
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