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 ターザやダナに別れを言うことも、ちゃんと謝ることもできず。お姫様抱っこは二度目だなぁなんて実感する余裕もなく、僕は運ばれた。
 下半身に血が集まりはじめ、お腹の奥が疼く。そんなの絶対に気づかれたくなくて、僕は身体をできるだけリアンの方へ向けて丸まり、胸に顔を押し付けた。

「うぅ……」

 頭上から唸り声が聞こえる。僕、重いよねきっと……。匂いもキツいのかもしれない。しゅんと落ち込んでいると、僕の荷物から上着を出してくれたブリギッドが僕の身体を覆い隠すように掛けてくれた。
「大丈夫だからね」と女性ならではの優しい声で言われると、泣きたい気持ちになってしまう。

 ブリギッドが状況を説明してくれているあいだ、リアンの心臓の強い音を聞いて気を紛らわそうとしていた僕は、またニュイ・ドリームという単語が聞こえてきたとき本能的に声を上げた。

「い……いやだ!」
「メグム……でも、ニュイ・ドリームが一番安全だし、いきなり一人で過ごすのは大変よ?」
「うぅっ、行きたくない……怖い」
「え、メグムくん行くの嫌なの?……あぁ、そういうことか」

 ディムルドが納得の声を上げる。どうやらブリギッド以外にも、僕の情けない恋愛事情のことは知られているらしい。僕は性欲から思考を引きはがすことに必死で、さっき腹を括ろうと決意したことも忘れて我がままを言ってしまったのだ。
 身体の反応だけではなく心の動きまでもままならない。子どもみたいに「嫌だ」と繰り返しながら、僕はリアンの服をぎゅっと掴んだ。

「家に来たらいい」
「え!リアン、さすがにそれは……できるの?」
「メグの同意なしには絶対に手を出さない。仕事は今なら休めるし、定期的に抑制剤を飲んでちゃんと世話をする。メグだって、行きたくない場所より見知った場所のほうが安心できるだろう」

 リアンの家で発情期を過ごすってこと……?聞こえてきたリアンの言葉は、闇の中に一筋の光となって届いた。
 それは、自分の家やニュイ・ドリーム以外の選択肢としては最上に思える。リアンには迷惑をかけてしまうけど、下手したら自分の家よりも落ち着く場所になりつつあるのだ。家も広いし、空き部屋を一個貸してもらえたら嬉しい。

「リアンくん、オメガは発情期前の同意じゃないと意味ないわよ。だから絶対に、あとからメグムが後悔するような行為はしないって約束して」
「ああ……わかった。約束します」
「ブリー、ほんとにいいの?なんか娘を嫁に出すような気持ちだよぉぉ」
「もう、なに言ってんの!メグムも一緒にいて落ち着くからリアンくんにくっついてるんでしょう。仕事も楽しそうだったしね。リアンくんは、なんか……すごく重い感情抱えてそうね」
「大事にする」

 僕がリアンの家で過ごすことの利点を考えている間に、話は纏まったらしい。一同は方向転換し、それほど離れたところではなかったおかげですぐリアンの家についた。
 ディムルドが受け取っていた僕の荷物をソファに置き、ブリギッドが買ったけど結局食べられなかったフルーツ類をテーブルに置く。
 それを見届ける間もなく、僕はリアンの寝室のベッドに寝かされた。

「んぅっ」
「大丈夫か?」
「ごめん、見ないで……」

 もう限界だった。リアンの前では確認できないけど、下着の中はもうぐちゃぐちゃだ。それが先走りなのか、噂に聞く後ろが濡れている状態なのかもわからない。
 すぐにリアンは僕から離れようとして、なぜか動きを止めた。

「手……」
「……て?」

 いったい何のことかとリアンの視線を辿ると、僕の手はリアンの服の裾を掴んだままだった。決して離さないぞとばかりぎゅぅっと握っていることに気づいて、慌てて手を離す。僕ってば……!

「ご、ごめんなさい」
「いや、いいんだ。じゃあ俺は行くから、自由に過ごしてほしい。あとで飲み物とか持ってくるけど、ドアをノックして返事がなければドアの前に置いておくから」

 リアンは優しい手つきで僕の頭を撫でながらそう言って、部屋を出ていった。
 途端にリアンを追いかけて、引き止めたい衝動に襲われる。表に出さないよう必死だったけど、本能はアルファを、そしてあの爽やかなフェロモンを狂おしく求めていた。

 あぁでも、この部屋も楽園みたいにリアンの匂いでいっぱいだ。普段掃除しているときはそこまで感じないのに、これがオメガの嗅覚なのだろうか。
 ……あれこれ考えるのは後にしよう。
 僕は勢いのままズボンと下着を取り去り、すでに張りつめて苦しい下半身に手を伸ばした。
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