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 結局ディムルドが主催した誕生日パーティーで渡すことができたプレゼントは、マフラーだ。日本ではそれが冬の贈り物の定番だったし、なんとなくそれも、人にアドバイスを求めずに自分で考えて選びたかった。
 やはり文化の違いがあるようで、その場にいたみんなの新鮮な反応もよかった。僕としては、リアンが嬉しそうに口元を緩めていたから大成功だ。

 仕事へ向かうリアンを見送るとき、僕が贈ったマフラーをつけてくれているのを見るたびに、胸がぎゅうっと締め付けられる。

 ――期待してもいいのかな?

 勘違いかもしれないけど……でも。リアンも僕のことを好きかもしれない。


 
 ◇


 
 突発的な予定がない限り、スパ・スポールへは欠かさず通っている。特に冬の時期は運動不足になりやすいし、広いお風呂でゆっくり温まれるのもあって、意外と賑わっていたりする。
 みんな寒い寒いと言ってるけど、水は凍らないし雪も滅多に降らない。転移前より遥かに過ごしやすくて、僕はずっと徒歩で通っていた。

 やっているのは相変わらず有酸素運動が中心だ。ターザと相談してウェイト・トレーニングを織り交ぜたりもするが、僕は筋肉がつきにくいらしい。なんなら筋肉の上に残る薄っすらとした脂肪はぜんぜんなくなる気配がなかった。
 そりゃ、前よりはだいぶ痩せたけど……二の腕や腰回り、太ももが若干ぷにぷにしているのはもう仕様と思って諦めるしかない。

 この世界に来たころ、運動や仕事を頑張って自分に自信を持てるようになりたい、と思っていたことを思い出す。そこにはキリトにもっと愛されたい、という気持ちも少なからず含まれていた。まぁ、関係は早々に破綻しちゃったけど……それがきっかけとなって、自ら前に進めたとも思える。

 ――新しい恋もできたし。そろそろ僕も、もう一歩踏み出してみてもいいかもしれない。

「それで、彼がさ~。なぁ、メグム聞いてる?」
「あ、ごめんごめん。オーエンの彼も研究所の人だったんだね」
「そう!だからこの後も待ち合わせてデートなんだぜ~」

 僕があんなに悩んでいたのに、久しぶりに会ったオーエンは意気揚々と交際報告をしてくれた。なんと彼は異世界転移研究所に勤める人で、僕がこの世界にきて初めて会った人でもある。
 あの『居酒屋によくいるやる気ない店員みたい』だった彼だ。あのときは何とも言えない印象だったけど、オーエンが夢中になるくらいだから良い人なんだろうな。

 研究員自体は少ないものの、研究所に務める職員は多くいるらしい。転移してしまった人の身分証の登録や住むところの手配など、事務処理は基本的に研究員以外の職員が行う。講習もそうだ。
 バース別で講習を受けたとき、キリトの講師がリアンだったのは偶然で、担当講師の都合が悪くなったから急遽引き受けたとリアンから聞いたことがある。

 もうすぐ転移してきて半年。今のところ次の転移の動きはないようだ。
 前回の転移で研究が進んで、もしかしたら転移阻止が可能になるかもしれない。僕はまだよかったけど、不本意な人のほうが多いだろうし、リアンたちの研究が報われてほしい。

 運動して入浴も終えたあと外に出ると、もう真っ暗だった。この時期は一番日が短い。
 さすがに空気が冷たくて背筋からブルッと震えが来る。僕は温まった身体から熱を逃さないようコートの前をしっかりと閉じて、家に向かって歩き出した。

 大通り沿いは街灯も多く、夜でも不安はない。しかしスパ・スポールにいるあいだ雨が降っていたみたいで、大きな水たまりがたくさんあった。
 ホリデー・マルシェが開催されている週末以外の大通りは、オートバスも含めて車がよく通る。そばを通った車が水たまりを跳ね、何度も水を被りそうになった僕は、何度か通り抜けたことのある脇道に入った。

(こっちなら水を掛けられることはないな……暗いけど)

 その小道は細く、車輌の進入もできない。周囲の建物は住居でもないらしく、昼間と違って人通りも少なかった。閑散とした通りはどことなく不気味だ。
 自然と小走りになって、あともう少しでまた大きな通りに出る、というところで人とぶつかってしまった。水たまりを避けようと足元ばかり見ていたからだ。

「わ!すみません!」
「…………」
「大丈夫ですか?――うわっ!?」

 心配するのも変な気がするほど身体の大きな人だった。身長は僕より少し大きいくらいだが、かなりガタイがいい。
 声を掛けたけど返事がないことを不思議に思って、見上げた瞬間――――僕は無人だと思っていた建物に連れ込まれてしまった。
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