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13.雪の子と騎士の恋
しおりを挟む別の馬車が用意され、ネージュは娼館に帰り着いた。
営業を取りやめていたシャルムの面々は泣いてネージュに取り縋り、よしよしと宥める。怖い思いをさせてしまって申し訳なかったが、あのとき店にいた誰にも怪我がなかったと聞いてほっとした。
イデアルは念のためと警備に残ってくれて、疲れ切っていたネージュは首の手当てをしてすぐに眠ってしまった。
結局ろくに会話もしないまま、翌日初めて王宮という場所に足を踏み入れた。
朝やってきたヴェリテが届けてくれた貴族みたいな服を着て、イデアルたちと共に国王陛下に謁見する。緊張する暇もなかった。
そこで聞いたところによると、ネージュは本当にブーロンシュという国の王族の血筋だったらしい。父の顔は知らないし、母もネージュが幼い頃に亡くなったため何も聞いたことはなかった。
ただ母は娼妓と思えないくらい上品で評判だったと、大人になってから聞いたことを思い出す。
王族だった娘が娼館で働くなんて、その苦労は如何ほどだっただろうか。それが自分を育てるためだったと考えると、どうしようもなく胸が苦しい。
「いつかネージュさんにも知らせるつもりだったと思うよ。あの子守唄がヒントだったんだ」
最初にイデアルが気づいたんだと、ヴェリテは言った。
雪はこの国で降らないのに、子守唄の歌詞には何度も出てくる。イデアルが騎士になる前、公爵家に来ていた商人が北の国の話をしていたのを思い出したという。
「ブーロンシュ王国では雪が降っていても外で赤子を昼寝させる、と。その話が衝撃的で覚えていた」
「えぇ……寒くないんですか?」
「もちろん防寒はしっかりとさせるらしいですよ。寒い国でも太陽の光を浴びさせた方が、健康に育つと言われているようです」
思わず零したネージュの疑問には、国王陛下の近くにいた宰相が答えてくれた。へぇ、という感想しか沸いてこない。
一度調べ始めると王族の特徴にネージュが当てはまることにもイデアルは気づき、出自が判明した。
何しろあいだに別の国を挟む遠い国だ。月単位でブーロンシュとやり取りを続けている内に、公爵とパラディが向こうの高官とやり取りしていることも知った。
それならとイデアルは兄と結託してヴィエーヴの国王に奏上し、ブーロンシュの国王と平和的解決――上位貴族と王族の婚姻――を認めさせたようだ。
時間が足りず正式な発表には至ってはいないが、色良い返事はいただけているという。何しろ二人が既に番関係ということもあり、認めざるを得ないと言った方が正しいが。
あいだにある国とヴィエーヴはたびたび紛争を繰り返す緊張関係にあり、ブーロンシュとヴィエーヴが同盟を結べば大きな抑止力になる。ブーロンシュは小国のため、ヴィエーヴという後ろ盾があれば他の国も手を出しにくい。双方にとって大きなメリットとなるだろう。
権力にはさらなる権力で対抗を。ネージュの預かり知らぬところで、イデアルはネージュのために動いてくれていたらしい。
本当だったら嬉しいけど。そこまでしてくれるなんて、ちょっと……信じられないな。
「イデアル様、もしかして、私のこと……好きなんですか?」
「「ぶふっ……!」」
ネージュとイデアル以外の全員が吹き出した。
その後はみんなで座って話せる部屋に移動し、国王陛下抜きで宰相から色々と今後の話を聞いた。
ネージュ本人に自覚はなかったとはいえ、他国の王族へ危害を加えようとした罪は重い。
現公爵ソラネルの爵位は剥奪されるが、イデアルと嫡男である兄は罪に加担していないことが証明されているため、爵位は譲渡され公爵家は存続できるという。
ネージュにとっては天上人の話で、その辺は聞き流した。ぼやっとしているのがバレたのか、ヴェリテがこそこそと話しかけてくる。
「イデアルさ、妾も取るつもりないみたいだから。がんばってね、子作り」
「えぇ……?」
考えてもみなかったことに、思わず口元を引き攣らせる。
そういえば元々嫡男に子がいないからイデアルの筆下ろしをして、結婚させたいという話だった。それが結果的にネージュの発情期事故で番契約まで済ませ、さらにはネージュを救うため婚約までしてしまったのだ。
うわぁ、申し訳なさすぎる。確かにヴェリテの言うとおり、せめて後継ぎ候補になれる子を産んであげられたらいいんだけど。
(子作り……がんばるか!!!)
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