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しおりを挟む「ん……」
「ミルファ、起きたか?」
目覚めてすぐ、朝じゃなさそうだな、と思った。背中側にあるものは固くて、寝台じゃない。ここはどこだ?
全く見覚えのない天井に身体を強張らせたミルファは、ルシアーノの顔が見えるとほっと力を抜いた。
視界に映る彼の姿は肩にシャツを羽織っているだけで、とんでもなくセクシーだ。なんで半裸……? と疑問に感じたきっかけでミルファはやっと経緯を思い出した。
まだ熱っぽいが、ここへ来た当初ほど身体は辛くない。そこまで熱が上がらなかったのだろう。この調子でいけば早朝には出発できるかもしれない。
そうルシアーノに伝えようと口を開いたとき、脚に刺激を感じてミルファは悲鳴をあげた。
「うひゃぁ!?」
驚いて視線を下げると、膝を立てたミルファの脚をルシアーノが濡れ布で拭いているところだった。肩から鼠径部までは布で覆われているけれど、未だ丸裸であることには違いない。
「ひぇ……」
「勝手にすまない。汗をかいていたから……拭いたほうがいい。もう終わるから」
「そんなことまで……あ、ありがとう」
全身を拭いて脚で終わるところだったらしい。ミルファは自分が途中で目覚めなかったことに感謝した。どこまで丁寧に拭いてくれたのかは分からないが、起きていたら平常心ではいられなかったに違いない。
発熱の汗でベタベタだったはずの身体はおかげですっきりとしている。背中を抱き起こされて水をもらいながら、ミルファはしみじみ思った。
(ルシアーノ、看病し慣れてるな……)
その理由には心当たりがある。彼はセリオ侯爵の人生の最後を共にしたのだ。伴侶として彼が献身的に介護していたことは想像に容易かった。
好きな人の最期を看取る経験は、どれだけ彼の心に傷を残しただろう。ミルファの世話をさせる時間が、彼のつらい記憶を刺激してしまうかもしれない。そう考えると、やはり彼の前では元気でいたいと思う。
身体は丈夫な方なのに、どうして急に、雨に降られたくらいで……。でも二十代前半の頃よりは確実に疲れやすくなってきているのを感じる。これが歳を取るということか。
これからは今まで以上に健康を意識した生活を送ろう、とミルファは密かに決意した。
窓の外はもう真っ暗になっている。記憶も曖昧だが、ここに到着したときはまだ日も暮れていなかったはずだ。
湖から離れすぎないように休める場所を探して、結局一時間以上彷徨ってしまった気がする。それなら戻って町で宿を取ったほうがよかったのかもしれないが、後の祭りだ。
後悔しても仕方ないし、こうなっては夜明けを待つしかない。
ミルファの顔色が良くなったことに気づいたルシアーノが、残っていた食料を一緒に食べようと持ってきた。
屋敷の料理人が昼食以外に、行きと帰りの分のおやつを持たせてくれていたのだ。半日くらい食べなくてもなんともないとはいえ、やっぱりあると嬉しい。
沸かしたぬるま湯を飲み、干し果物をちびちびやりながら、ミルファは今さらながらさっきまで裸で温められていた事実を思い返し恐れおののいていた。
いくら朦朧としていたからって、僕は、とんでもないことを……!
今だって暖炉を正面に、ルシアーノに背を預け余す所なく温められている。それさえも、先の急な濃厚接触と比べればなんてことないと思えるのだから不思議だ。
しかもルシアーノはすでに下着を身に着けているのに、まだ完全には乾いていなからとミルファは服を着せてもらえなかった。
もはや布でぐるぐるに包まれるのがデフォルトになっている。うっかり慣れてこのまま屋敷に帰ってしまったらどうしてくれるんだ。
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