弟に殺される”兄”に転生したがこんなに愛されるなんて聞いてない。

浅倉

文字の大きさ
24 / 29
二章_本編

十三話

しおりを挟む



____________

______

__







「んっ……、」


「兄上…、口抑えないで。」


湖から出た後、そう言いながら俺の服に手を入れるヴィンセント。

けれども今の俺にその言葉の返事を返せるほどの余裕もなく。

俺は自分の指を咥え必死に声が出ないようにする。

ヴィンセントの膝に対面で跨る俺はどうしてこうなったのか…。そう思わずには居られなかった。

目の前には見た事ない顔をしている我が義弟、ヴィンセント。

なんでこんな流れになったのか何も分からぬまま服の下に手を入れるヴィンセントにまともに抵抗もできない。

それにこんな欲情したような表情なんて見てしまえばどうやって抵抗すればいいのか分からない。

そんな事を考えながら必死に訳も分からぬ感覚にぎゅっと瞑っていた目をあける。


「…ヴィ…ンッ…!!」


「ふふっ、兄上、顔とろとろ。やっぱり兄上は可愛らしいですね。」


「……ヴィンッ!! いい加減になさい…っ、」


そう言いながら変な感覚に思わずヴィンセントの首に顔を埋める。

あぁ、いつも以上に言葉が思いつかなくて困る。

この状況を打破する方法も思いつかず、下手に動くこともできず段々と濡れた髪と服によって体が冷えていく。

そこで俺はハッと思い出す。

とてつもなく寒い…っ!!

それはとてつもなく阿呆っぽい発言だがとにかく、だ。

まだ冬に入ってないにしろ今の季節は秋。
しかもこの国がある地域は他のところに比べ、平均気温が低く、真冬になればマイナスはいかないものの前世、俺が住んでいた日本に比べかなりの極寒になる。


(ヴィンセントの体温でまだ比較的マシだが、このままでは確実に風邪をひく…。)



俺は前世でも今世でも一人で堪えることは得意だから問題ない。


しかし、ヴィンセントは駄目だ。
昔に一度、風邪を引いた時あんなに苦しんでいたのだ。


見舞いを行った時は俺の手を片時も離さず、息苦しそうな表情は思い出すだけでも胸が痛い。


俺は別に風邪を引いてもいいがヴィンセントが心配だ。


俺は埋めていた顔を上げ、意味深に動かすヴィンセントの手をぐっと掴み



「ヴィン…っ、もうやめなさい。このままではお前が風邪を引いてしまう。 」



そう言いながら困ったように上を見上げる。
体制的に上目遣いになるが……今は気にしたら負けだ。


俺の言葉に無言でこっちを見つめてくるヴィンセント。


その視線に答えるよう、掴んでいた腕を離し手と手を合わせるように握り直す。



「はぁ、こんなに冷たくなって…。夜になる前に早く王都へ向かおう。」



「兄上…ですが私は大丈夫ですのでっ! っていうか今の状況理解していますかっ?」



握りしめた手を引かれ、ヴィンセントの胸に飛び込むようにぎゅっと抱きしめられる。


ヴィンセントの顔が頭にのっているからか頭が重い…。


寒さで冷静さを失っていた頭が段々と冴え、この状況を客観的に見ることで距離感がおかしいことに気づく。


しかしこれは……もしかするとアランが言っていたヴィンセントなりの親睦の深め方なのだろうか。

だとするとこの距離感にも合点がいく。



そんな事を考えながら目の前にいるヴィンセントの問に頭を傾げながら答える。



「安心しなさい。私は分かっているからな。」


「いや、なにを?! 絶対違うって事だけは私にも分かります! だから聞きますがさっきみたいに私に触られて何か感じませんでしたか?」


「? 感じる? よく分からない。」


「こう胸が~的な。」



気持ち的な問題ってことか?
俺は心の中で顎に手を当てる。



もしや距離が近い事だろうか。

けれどそれは彼なりのやり方なんだろうから多分ちがう。


まぁさっきのヴィンセントの欲するような表情は気がかりだが。


そんな考察をしながら目の前にいる子犬のような顔をしたヴィンセントを見つめる。


しかし本当にいい顔だな。
流石主人公と言ったところか。

こんないい顔前世でも今世でもそう拝めるものではない。


そう思いながらじーっと見つめる俺の視線に居心地が悪そうに繋がれていない方の手で頬を挟む。

俺はふと我に返った。



「……?」



突然の行動に驚きで顔に力が入る。

いつまで経っても途切れない視線に目を逸らそうとした時だった。


息を飲むような音が聞こえ頬を掴む力が強くなる。

それは俺の目を逸らさせないとでも言うかのようだった。


暫く沈黙が続く。


するとポツポツと話し始めたヴィンセント。


「……兄上がなにも思って下さらないのは私がまだ子供だからですか?」


疑問に思いながらも悲しそうなその表情を俺はただ、じっと見つめていた。






しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

弟が兄離れしようとしないのですがどうすればいいですか?~本編~

荷居人(にいと)
BL
俺の家族は至って普通だと思う。ただ普通じゃないのは弟というべきか。正しくは普通じゃなくなっていったというべきか。小さい頃はそれはそれは可愛くて俺も可愛がった。実際俺は自覚あるブラコンなわけだが、それがいけなかったのだろう。弟までブラコンになってしまった。 これでは弟の将来が暗く閉ざされてしまう!と危機を感じた俺は覚悟を持って…… 「龍、そろそろ兄離れの時だ」 「………は?」 その日初めて弟が怖いと思いました。

ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる

桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」 首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。 レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。 ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。 逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。 マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。 そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。 近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます

クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。 『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。 何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。 BLでヤンデレものです。 第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします! 週一 更新予定  ときどきプラスで更新します!

処理中です...