6 / 17
第6話 恋心は墓場まで
しおりを挟む
牧玄弥。クラスは3年3組で、野球部。島﨑真白と、同じ幼稚園、同じ小学校、同じ中学校、そして同じ高校に通っている。しかし、彼女と特に仲が良かったわけではなく、ただの知り合いに過ぎなかったらしい。高校ではクラスも一緒になっていないので、ほとんど顔を合わせることはなかったようだ。警察も特に注意を払うことはなく、事情聴取を行わなかった。
「私が人伝に聞いたところではこんなところですね。幼馴染とはいえ、まさか『ある人』というのが牧先輩だとは思ってもみませんでした。というのも、私が最後に牧先輩に見かけたのは、姉が中学2年生の時で、それ以来、姉や私と関わる機会はほとんどなかったはずなんです」
夕陽がさす第2多目的室で、ヒマリは僕とアカネに牧玄弥について、知っている限りのことを説明した。
「でも、小説の主人公は、貯水槽にキャプテンの名前を書いたんでしょ。しかし実際は南京錠の裏に幼馴染の名前が書いてあった。少し変ね」
アカネは、青い地球儀を机の上でクルクルと回しながら言った。最近のアカネは暇があれば棚の上の地球儀を触っていたのだが、遂に地球儀を机の上に置くようになった。
「まあ、それはともかく、ヒマリはその牧玄弥っていう人のところに行くの?」
僕が尋ねるとヒマリは大きく頷いた。
「はい。明日は野球部の練習もないそうです。明日の放課後に3年3組の教室に行きましょう!」
アカネは嫌そうな顔をして、
「えっ、それって私たちも行かなきゃいけないの? ヒマリだけ行けばいいじゃん」
僕は『オン・ザ・ロード』という本の角でアカネの頭を軽く叩いた。コンという音がして、アカネは頭を抱えた。少し痛そうだ。角はやり過ぎたか。
「部員が足りなくて廃部になりかけてたの忘れたの? 文芸部を存続させるためにも、ヒマリに協力しよう。アカネもこの教室が使えなくなるのは嫌だろう?」
アカネはいじけたような顔をした。嫌そうだが、協力してくれるようだ。
「原田先輩、中村先輩、ありがとうございます!」
ヒマリは元気よくお礼を言った。
「あっ、でも僕は行けないよ。金曜日は塾があるから」
アカネの顔が歪んだ。
「そういやそうだったわね。ってことは、アタシとヒマリの2人で行くってこと?うげー」
しかし、ヒマリはアカネの言葉は意に介さず、
「では、中村先輩、明日はよろしくお願いします!」
と頭を下げた。窓の外でカラスが甲高く鳴いているのが聞こえた。
「ところで、お二人はどうして文芸部に入ったんですか?」
僕とアカネは顔を見合わせた。
「なんでって……ほら、この学校、全員何かしらの部活に入ってないといけないでしょ? でも、私もコーセーも特に入りたい部活はなかったし…...それで、一番楽そうな文芸部に入ったわけ。そうでしょ?」
アカネは僕に目配せした。
「そうだね。まあ、僕は本が好きだったからっていうのもあるけど。入部してすぐの頃は先輩たちも来てたんだよ。ただ、6月頃にはもうほとんど来なくなってきて……気づいたら、放課後にアカネと雑談するだけの場所になっていたんだ」
ヒマリは納得したように頷いた。妙に目が輝いて見える。
「なるほど、そういうことだったんですね。そして二人で一緒にいる時間を過ごすうちに、仲睦まじくなられたわけですか」
「仲睦まじくって、まるで私たちが付き合ってるみたいな言い方ね」
ヒマリはキョトンとして、
「えっ、付き合ってないんですか?」
僕とアカネは驚き、お互いの顔を見合った。僕は苦笑いして、
「付き合ってないよ。僕はともかく、アカネが人に恋愛感情を持つとは、とても思えないなぁ。アカネって好きな人とかいたりするの?」
アカネは頬杖をつきながら気だるげに言った。
「 さあね。まあでも、もし、万が一、誰かに恋慕の情を抱くようなことがあっても、秘密にしておくわ。告白なんかした日には、楽しみより面倒ごとのほうが増えそうだし。『恋心は墓場まで』が私のモットーよ」
「えぇ……」
ヒマリは呆れたような顔をした。窓の外で、カアという間の抜けた声が聞こえた。
「私が人伝に聞いたところではこんなところですね。幼馴染とはいえ、まさか『ある人』というのが牧先輩だとは思ってもみませんでした。というのも、私が最後に牧先輩に見かけたのは、姉が中学2年生の時で、それ以来、姉や私と関わる機会はほとんどなかったはずなんです」
夕陽がさす第2多目的室で、ヒマリは僕とアカネに牧玄弥について、知っている限りのことを説明した。
「でも、小説の主人公は、貯水槽にキャプテンの名前を書いたんでしょ。しかし実際は南京錠の裏に幼馴染の名前が書いてあった。少し変ね」
アカネは、青い地球儀を机の上でクルクルと回しながら言った。最近のアカネは暇があれば棚の上の地球儀を触っていたのだが、遂に地球儀を机の上に置くようになった。
「まあ、それはともかく、ヒマリはその牧玄弥っていう人のところに行くの?」
僕が尋ねるとヒマリは大きく頷いた。
「はい。明日は野球部の練習もないそうです。明日の放課後に3年3組の教室に行きましょう!」
アカネは嫌そうな顔をして、
「えっ、それって私たちも行かなきゃいけないの? ヒマリだけ行けばいいじゃん」
僕は『オン・ザ・ロード』という本の角でアカネの頭を軽く叩いた。コンという音がして、アカネは頭を抱えた。少し痛そうだ。角はやり過ぎたか。
「部員が足りなくて廃部になりかけてたの忘れたの? 文芸部を存続させるためにも、ヒマリに協力しよう。アカネもこの教室が使えなくなるのは嫌だろう?」
アカネはいじけたような顔をした。嫌そうだが、協力してくれるようだ。
「原田先輩、中村先輩、ありがとうございます!」
ヒマリは元気よくお礼を言った。
「あっ、でも僕は行けないよ。金曜日は塾があるから」
アカネの顔が歪んだ。
「そういやそうだったわね。ってことは、アタシとヒマリの2人で行くってこと?うげー」
しかし、ヒマリはアカネの言葉は意に介さず、
「では、中村先輩、明日はよろしくお願いします!」
と頭を下げた。窓の外でカラスが甲高く鳴いているのが聞こえた。
「ところで、お二人はどうして文芸部に入ったんですか?」
僕とアカネは顔を見合わせた。
「なんでって……ほら、この学校、全員何かしらの部活に入ってないといけないでしょ? でも、私もコーセーも特に入りたい部活はなかったし…...それで、一番楽そうな文芸部に入ったわけ。そうでしょ?」
アカネは僕に目配せした。
「そうだね。まあ、僕は本が好きだったからっていうのもあるけど。入部してすぐの頃は先輩たちも来てたんだよ。ただ、6月頃にはもうほとんど来なくなってきて……気づいたら、放課後にアカネと雑談するだけの場所になっていたんだ」
ヒマリは納得したように頷いた。妙に目が輝いて見える。
「なるほど、そういうことだったんですね。そして二人で一緒にいる時間を過ごすうちに、仲睦まじくなられたわけですか」
「仲睦まじくって、まるで私たちが付き合ってるみたいな言い方ね」
ヒマリはキョトンとして、
「えっ、付き合ってないんですか?」
僕とアカネは驚き、お互いの顔を見合った。僕は苦笑いして、
「付き合ってないよ。僕はともかく、アカネが人に恋愛感情を持つとは、とても思えないなぁ。アカネって好きな人とかいたりするの?」
アカネは頬杖をつきながら気だるげに言った。
「 さあね。まあでも、もし、万が一、誰かに恋慕の情を抱くようなことがあっても、秘密にしておくわ。告白なんかした日には、楽しみより面倒ごとのほうが増えそうだし。『恋心は墓場まで』が私のモットーよ」
「えぇ……」
ヒマリは呆れたような顔をした。窓の外で、カアという間の抜けた声が聞こえた。
0
あなたにおすすめの小説
美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~
root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。
そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。
すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。
それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。
やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」
美人生徒会長の頼み、断れるわけがない!
でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。
※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。
※他のサイトにも投稿しています。
イラスト:siroma様
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
初恋♡リベンジャーズ
遊馬友仁
青春
【第五部開始】
高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。
眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。
転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?
◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!
第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる