「先輩、その距離は反則です!」

静羽(しずは)

文字の大きさ
52 / 59

第51話|挑発する先輩と揺れる恋バナ

しおりを挟む
「な、、、何で、、、ですか、、?」



湊は両手でビールのグラスをぎゅっと握りしめていた。
指先に力が入るたび緊張が伝わってくる。
口元は固く結ばれ視線はどこかを彷徨っている。
朝霧は一口ビールを飲みながらゆっくりと間を置いた。
ゴクリ、と喉を通る音が静かな空間に響く。



「んー、、、。」



わざとらしくもったいぶった声で湊を揺さぶる。
その目は探るようで挑発的でけれどどこか楽しそうに。



「湊ってさ、、、綾瀬さん、好き?」



「えっ?!!!」



ド直球な問いかけに湊は一瞬息を止める。
誰の目にも明らかな図星だと分かる態度で身体は少し硬直していた。
その姿を朝霧は頬杖をつきながらじっと観察する。



「そ、それは。会社の、先輩ですし、、、好きとか、嫌いとかではなくて、、、。尊敬してる、というか、、憧れてる、と言うか、、、。」



言葉に詰まりながら湊の頬が少し赤くなる。
手にしたグラスもわずかに震えている。



「うーん、、、動揺がすごいな笑」



朝霧は静かに呟く。
その反応は、誰が見ても興味のある相手に心が揺れている様子そのものだった。
朝霧はにっこりと笑った。
その笑顔は柔らかいのにどこか鋭く湊の胸をざわつかせる。



「好きなんだ?」



「えっっ!?」



湊は思わずたじろぐ。
後ろ頭を掻きながら視線はキョロキョロ言葉は出ない。
無言で何も答えられない自分に心臓が速く打つのが分かる。



否定、せず。か。ふーん、、、



朝霧は全てを察したかのようにほんの少し首を傾げ次の一言を放つ。



「俺と、どっちが好き?」



「!?っっ」



バッと朝霧の顔を見上げる湊。
そこにはまっすぐな瞳で見つめてくる先輩のその瞳に吸い込まれそうになり胸がぎゅっと締め付けられる。



「え、、、あの、、、ど、どう言う意味ですか、、?」



「俺はねー。湊が好き。」



あまりにもさらっと冗談みたいな口調で言われて湊は一瞬言葉の意味を処理できずに目を瞬かせた。



「、、、え?」



頭が真っ白になる。



「う、うわああ、、、あ、あの、す、好きとか! ど、どうしたんですか急に!酔っ払ってるんですか!?」



声が裏返るのも構わず必死に否定の理由を探す。
そんな湊を見て朝霧は小さく笑った。



「ふっ。酔うわけないだろ。まだ一杯も飲んでない。
湊じゃあるまいし。」



からかうような口調に余計に混乱が増す。



「じ、じゃあ、、、何なんですか?さっきから。先輩ちょっと変ですよ、、、?」



逃げ場を探すように問い返すと朝霧はビールのグラスに視線を落とし少しだけトーンを落とした。



「いやさ。湊とちゃんと恋愛の話したことなかったなって思って。今日はそういう話でもしようかなーって。」



「こ、恋バナ、、、?」



湊は思わず言葉を繰り返す。



「そう。恋バナ。」



「でも今の流れ、、、綾瀬さんの話、ですよね?」



「うん。そう。だから、恋バナ。」



何でもないことのように言う朝霧。
けれどその言葉の裏に含みがありすぎて湊の頭は追いつかない。



先輩、何言ってるんだろう。



冗談なのか本気なのか。
からかわれてる? それとも、、、?
胸の奥がざわついてチーズフライの味すら分からなくなる。
この人は笑いながら平然とした顔で一番触れてほしくないところを指でなぞってくる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

忘れられない思い

yoyo
BL
真野匠(25)は、4月から新社会人として働き始めた。 職場の歓迎会の居酒屋で7年ぶりに、高校の時の数学教師だった奥田春人(33)と再会する。 奥田先生のことは、高校生の頃から特別な存在に感じていた匠。 最寄り駅が同じであったことも判明し、そこから急速に距離が縮まっていく二人……

別れのあと先

梅川 ノン
BL
研修医(受)と看護師(攻)の大人のピュアな恋物語

僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ/Ⅱ

MITARASI_
BL
I 彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 Ⅱ 高校を卒業し、同じ大学へ進学した陸と颯馬。  別々の学部に進みながらも支え合い、やがて同棲を始めた二人は、通学の疲れや家事の分担といった小さな現実に向き合いながら、少しずつ【これから】を形にしていく。  未来の旅行を計画し、バイトを始め、日常を重ねていく日々。  恋人として選び合った関係は、穏やかに、けれど確かに深まっていく。  そんな中、陸の前に思いがけない再会をする。  過去と現在が交差するその瞬間が、二人の日常に小さな影を落としていく。  不安も、すれ違いも、言葉にできない想いも抱えながら。  それでも陸と颯馬は、互いの手を離さずに進もうとする。  高校編のその先を描く大学生活編。  選び続けることの意味を問いかける、二人の新たな物語。 続編執筆中

『定時後の偶然が多すぎる』

こさ
BL
定時後に残業をするたび、 なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。 仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。 必要以上に踏み込まず、距離を保つ人―― それが、彼の上司だった。 ただの偶然。 そう思っていたはずなのに、 声をかけられる回数が増え、 視線が重なる時間が長くなっていく。 「無理はするな」 それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、 彼自身はまだ知らない。 これは、 気づかないふりをする上司と、 勘違いだと思い込もうとする部下が、 少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。 静かで、逃げ場のない溺愛が、 定時後から始まる。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

黒に染まる

曙なつき
BL
“ライシャ事変”に巻き込まれ、命を落としたとされる美貌の前神官長のルーディス。 その親友の騎士団長ヴェルディは、彼の死後、長い間その死に囚われていた。 事変から一年後、神殿前に、一人の赤子が捨てられていた。 不吉な黒髪に黒い瞳の少年は、ルースと名付けられ、見習い神官として育てられることになった。 ※疫病が流行るシーンがあります。時節柄、トラウマがある方はご注意ください。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

深夜一時、それは衝動。

文月
BL
毎週金曜の深夜。俺は兄の住むマンションへと向かう。

処理中です...