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第1章 初めまして
2話 嘆きの森
しおりを挟むギィイ……
矢神が、ドアノブを回すと、金属製の扉が開かれる。
2人は白い閃光に包まれる。亮太は、眩しさのあまりに一瞬、視界を失う。
「ここは、どこですか……!?」
「嘆きの森です……」
ぼやけた視界が戻るにつれて、多くの木のシルエットが、次第に浮かび上がる。
見たことのないほど木が、うっそうと茂り、木々の枝葉は重なり合い、月の光りをも遮る。
遠くから獣の咆哮のような声が聞こえる。
「これをどうぞ」
「えっと……これは?」
「翻訳機です……」
矢神は、鞄からインカムによく似た機器を取り出すと、亮太に渡す。
「翻訳機……ですか……」
最近では、スマホで、他国の言葉を翻訳するアプリもあるから、さほど珍しさは感じないけど、こんな暗い森で、翻訳機をつけて、いったい彼女は、誰と会うのか?
そんな疑問を抱きながら、半円のヘッドバンドと、小さなイヤホンとマイク部のついた、黒色の翻訳機をつける。
「あのっ、もう一度、聞きますけど……僕達、営業所にいましたよね!?」
「来ますよ!!」
矢神が、そう言い、少し身構えると森の茂みが、ガサガサと揺れる。
「グホホホ……」
「ゲェヘヘヘヘッヘ……」
どこの国の人? コスプレ?……
亮太は、現れた2体の異形な影、背が小さく全身が緑色で尖った耳に、大きな目、耳まで裂けた大きな口は。ゲームや異世界漫画でよく見る、ゴブリンに似ている。
矢神から、漂う殺気に似た、緊張。半身で開いた脚の両脚の踵をつけ、背筋をピンと伸ばし、両手を前で合わせる。
次の瞬間、後ろで結った髪が、跳ね上がり、膝に頭がつくほど、身体を前に折り曲げる。
その姿は、まるでお辞儀のようで……お辞儀?
「お世話になります。神山商事の矢神です!!」
おっ、お世話になってるんですかぁ……!?
「#$&#”&△□◯」
「矢神さん!?」
亮太が、知る言語のどれとも違う言葉。矢神は、頭を下げたまま、亮太の方を見ながら、翻訳機のスイッチを指さす。
「あっ、これか……」
亮太は言われるまま、スイッチを入れる。
「あぁ、お世話になるねぇ……矢神さん」
「こちらこそ、お世話になります」
オォ……わかるそ! 僕にもわかる! ゴブリンの言葉が僕にもわかる!!
えっ、ゴブリン!?
亮太は目の前の2体の緑の個体が、本物のゴブリンだと認識する。
「どうでしたか? ゴブミさん2号は……」
「いいねぇ……1号と比べ物にならないよ! あの、本物に近い質感とぬくもりは……絶品だよ!!」
「そうですなぁ……ゴブジー様……たまりませんでしたなぁ」
「ありがとうございます」
「今日は、どうしたのかね?」
「はい、先日の代金の回収と新人の挨拶に……」
「オォ……そうだったなぁ……ゴブロウ……代金を、矢神さんに!」
「はい、矢神さんこちらを……」
「ありがとうございます! 確かに……」
ゴブロウと呼ばれるゴブリンの手に、キラリと光る金属の塊が2つ。
「それと、こちらが、新人の神代です」
「かっ、神代です」
神代は、全力でお辞儀をする。頭を下げたまま視線だけを上げる。
2体のゴブリンのうち1体は、大きな眼鏡を掛けて、少し小太り。残りの1体は、逆に痩せていて、小太りのゴブリンに媚びを売る。漫画で描かれる子鬼のような、野蛮さを感じない。
どちらかと言うと、小さな2人のおじさんと、言った感じだろうか。
「ゴブジー様、この青年、いいお辞儀をすねぇ……」
「そうだな……私は、若い女性が、よかったがなぁ……」
「ハハハハ……ゴブジー様ったら、ご冗談を……」
「ハハハハハハ……」
ゴブリン達が、話しをしている姿は、女好きの社長とゴマすり専務の会話のようで、少し不快さを覚えるが、この世界も同じなのかと、妙に納得してしまう。
「それでは、失礼させて、いただきます」
「あぁ……また、よろしくたのむよ!」
矢神は、翻訳機のスイッチを切ると、亮太に、スイッチを切るように、翻訳機を指さして合図する。
「今度は、矢神さんにタップ#&□◯X”#%&……」
「ギャハハハ……」
矢神は、振り返りながら、鞄の中からドアノブを取り出すと。近くの大木に、あてると右に回す。ドアノブからでた2本の白い光りが走ると、ドアの形を形成する。
ガチャと音がすると、大木にできたドアが、開かれた向こうは、先ほどまでいた、倉庫の部屋。
「帰りますよ」
「はっ……はい」
「ギャハハハハ……」
不気味に笑うゴブリン達の笑い声を背に受けながら矢神と亮太は、倉庫に戻る。
亮太は、ゴブリン達に頭を深々と下げるが、矢神は振り返りもせず「チッ!!」と、舌打ちをするとドアを閉めた。
「あのぉ……ゴブリンですよね……?」
「そうですが、何か?」
「お客さんは……ゴブリン?」
「そうですね、異世界の住人達です」
「異世界……今の本当に、異世界だったんですか!!??」
まさかと、思ってたけど、現実に異世界が存在するとは……
「どうでしたか? 怖かったですか?」
「はい……正直、終わったと思いました……でも……」
「でも、ワクワクしましたか?」
「はい!! 何か、こう……胸の辺りが……熱くなるって言うか……」
「そんな風だと、あなた……いずれ、死にますよ……」
「えっ!?」
亮太は、クリーニング仕立てのシャツが、しわくちゃになるほど、胸を掻きむしっていた。
そんな、亮太に対して、矢神は、死の宣告とも言える発言をする。眼鏡の下の瞳は、闇夜のように黒く、冷ややかで、あった。
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