神山商事株式会社 異世界部 「何か、ご用はありませんか?」

megi

文字の大きさ
3 / 4
第1章 初めまして

2話 嘆きの森

しおりを挟む
 
 ギィイ……

 矢神が、ドアノブを回すと、金属製の扉が開かれる。

 2人は白い閃光に包まれる。亮太は、眩しさのあまりに一瞬、視界を失う。

「ここは、どこですか……!?」
「嘆きの森です……」

 ぼやけた視界が戻るにつれて、多くの木のシルエットが、次第に浮かび上がる。

 見たことのないほど木が、うっそうと茂り、木々の枝葉は重なり合い、月の光りをも遮る。
 遠くから獣の咆哮のような声が聞こえる。

「これをどうぞ」
「えっと……これは?」
「翻訳機です……」

 矢神は、鞄からインカムによく似た機器を取り出すと、亮太に渡す。

「翻訳機……ですか……」

 最近では、スマホで、他国の言葉を翻訳するアプリもあるから、さほど珍しさは感じないけど、こんな暗い森で、翻訳機をつけて、いったい彼女は、誰と会うのか?
 
 そんな疑問を抱きながら、半円のヘッドバンドと、小さなイヤホンとマイク部のついた、黒色の翻訳機をつける。

「あのっ、もう一度、聞きますけど……僕達、営業所にいましたよね!?」
「来ますよ!!」

 矢神が、そう言い、少し身構えると森の茂みが、ガサガサと揺れる。

「グホホホ……」
「ゲェヘヘヘヘッヘ……」

 どこの国の人? コスプレ?……

 亮太は、現れた2体の異形な影、背が小さく全身が緑色で尖った耳に、大きな目、耳まで裂けた大きな口は。ゲームや異世界漫画でよく見る、ゴブリンに似ている。

 矢神から、漂う殺気に似た、緊張。半身で開いた脚の両脚の踵をつけ、背筋をピンと伸ばし、両手を前で合わせる。

 次の瞬間、後ろで結った髪が、跳ね上がり、膝に頭がつくほど、身体を前に折り曲げる。

 その姿は、まるでお辞儀のようで……お辞儀?

「お世話になります。神山商事の矢神です!!」

 おっ、お世話になってるんですかぁ……!?
「#$&#”&△□◯」
「矢神さん!?」

 亮太が、知る言語のどれとも違う言葉。矢神は、頭を下げたまま、亮太の方を見ながら、翻訳機のスイッチを指さす。

「あっ、これか……」

 亮太は言われるまま、スイッチを入れる。

「あぁ、お世話になるねぇ……矢神さん」
「こちらこそ、お世話になります」

 オォ……わかるそ! 僕にもわかる! ゴブリンの言葉が僕にもわかる!!

 えっ、ゴブリン!?

 亮太は目の前の2体の緑の個体が、本物のゴブリンだと認識する。

「どうでしたか? ゴブミさん2号は……」
「いいねぇ……1号と比べ物にならないよ! あの、本物に近い質感とぬくもりは……絶品だよ!!」
「そうですなぁ……ゴブジー様……たまりませんでしたなぁ」
「ありがとうございます」
「今日は、どうしたのかね?」
「はい、先日の代金の回収と新人の挨拶に……」
「オォ……そうだったなぁ……ゴブロウ……代金を、矢神さんに!」
「はい、矢神さんこちらを……」
「ありがとうございます! 確かに……」

 ゴブロウと呼ばれるゴブリンの手に、キラリと光る金属の塊が2つ。

「それと、こちらが、新人の神代です」
「かっ、神代です」

 神代は、全力でお辞儀をする。頭を下げたまま視線だけを上げる。

 2体のゴブリンのうち1体は、大きな眼鏡を掛けて、少し小太り。残りの1体は、逆に痩せていて、小太りのゴブリンに媚びを売る。漫画で描かれる子鬼のような、野蛮さを感じない。

 どちらかと言うと、小さな2人のおじさんと、言った感じだろうか。

「ゴブジー様、この青年、いいお辞儀をすねぇ……」
「そうだな……私は、若い女性が、よかったがなぁ……」
「ハハハハ……ゴブジー様ったら、ご冗談を……」
「ハハハハハハ……」

 ゴブリン達が、話しをしている姿は、女好きの社長とゴマすり専務の会話のようで、少し不快さを覚えるが、この世界も同じなのかと、妙に納得してしまう。

「それでは、失礼させて、いただきます」
「あぁ……また、よろしくたのむよ!」

 矢神は、翻訳機のスイッチを切ると、亮太に、スイッチを切るように、翻訳機を指さして合図する。

「今度は、矢神さんにタップ#&□◯X”#%&……」
「ギャハハハ……」

 矢神は、振り返りながら、鞄の中からドアノブを取り出すと。近くの大木に、あてると右に回す。ドアノブからでた2本の白い光りが走ると、ドアの形を形成する。

 ガチャと音がすると、大木にできたドアが、開かれた向こうは、先ほどまでいた、倉庫の部屋。

「帰りますよ」
「はっ……はい」
「ギャハハハハ……」

 不気味に笑うゴブリン達の笑い声を背に受けながら矢神と亮太は、倉庫に戻る。

 亮太は、ゴブリン達に頭を深々と下げるが、矢神は振り返りもせず「チッ!!」と、舌打ちをするとドアを閉めた。

「あのぉ……ゴブリンですよね……?」
「そうですが、何か?」
「お客さんは……ゴブリン?」
「そうですね、異世界の住人達です」
「異世界……今の本当に、異世界だったんですか!!??」

 まさかと、思ってたけど、現実に異世界が存在するとは……

「どうでしたか? 怖かったですか?」
「はい……正直、終わったと思いました……でも……」
「でも、ワクワクしましたか?」
「はい!! 何か、こう……胸の辺りが……熱くなるって言うか……」
「そんな風だと、あなた……いずれ、死にますよ……」
「えっ!?」

 亮太は、クリーニング仕立てのシャツが、しわくちゃになるほど、胸を掻きむしっていた。

 そんな、亮太に対して、矢神は、死の宣告とも言える発言をする。眼鏡の下の瞳は、闇夜のように黒く、冷ややかで、あった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...