神山商事株式会社 異世界部 「何か、ご用はありませんか?」

megi

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第1章 初めまして

3話 不機嫌な矢神さん

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 カチャカチャ……
 事務所の中に響く、キーボードの音。

 向かいに座る矢神は、異世界から戻ると、すぐに、パソコンを開く。
 画面から視線をそらさず、とりつかれたように、指を激しく動かし始める。

「あのう……何をしたら……」
「……」
「あっ、カタログ見ときますね……」
「……」

 矢神は、一度、視線を亮太に向けると、再び画面に視線を向ける(何か、喋ってもいいのに……)

「あっ!」
「どうしましたか?」
「いえ」
 (なるほどねぇ……)

『ゴブミちゃんシリーズ』

 ゴブリンに似て、全身緑色。口を丸く開け、長い睫毛と頭にリボンをつけた人形。
 見覚えが、あった。というよりは、よく似た人形を如何わしい雑誌で目にした事がある。

 何となく、ゴブリンが最後に話していた内容が想像できる。

「何が、おかしいんですか?」
「いえ」
「フン!」
「……」

 矢神の機嫌が悪い原因が、自分でなかった事に少し、ホッとする。

「あのう……時間が……」

 壁に掛けられた時計の針が進んでいない事が、気になる。

 異世界で少なくとも、1時間位は滞在していたはずなのに、事務所を出てから10分位しか進んでいない。

「フゥ……あちらの世界とこちらでは、時間の進み方が違うんです!」
「そうですか……」
 (えっ!? 1時間は10分だから……あちらの世界で5時間働いても……50分……)

「どうしましたか?」
「それって、超過勤務じゃないですか!!」
「こちらでは、違法にはなりませんよ!」
「嘘だろう……バリバリのブラックじゃん」
「面接の時に社長から説明がありませんでしたか?」
「いゃ……どうだったかなぁ……」

 そんな、説明を聞いたような気がするけど、就職難だったから焦っていた。

 おぼえていない……
「矢神さんは、それでいいんですか?」
「給料はいいですし、働く時間は自由だから、気にしないですけど……」
「……今日は、どうするんですか?」
「今日は報告書を書いたら帰りますけど……
 嫌だったら、辞めたらいいのでは……!」
「それは……」
「辞めます」そう言って事務所を出ることも頭をよぎった。
 だけど、初めて見た異世界に、胸の高鳴りを感じたのは、間違いではなかった。
「辞めません! 僕、辞めませんよ!!」
「……」

 一瞬、報告書を作る矢神の口角が、少し上がったように見えた。

「明日もあるから、今日は帰りましょう」
「はっ、はい!」

 パソコンを閉じると、矢神は立ち上がる。

「これ、マニュアルです。明日まで読んどいて下さい」

 ドサッと、目の前に置かれたマニュアルの厚さに驚く。

「これを読むんですか?」
「そうですよ!」
「憶えるんですよね?」
「そうですね!」
「憶えないとマズイですか?」
「それは、あなたの自由ですけど……」
「ですけど……?」
「死にますよ!!」
 (ハハハ……やっぱり……)
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