君…から

megi

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第2章 君を忘れないといけないから

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  朝の6時。

 アラームがなる時計までの距離が、遠く感じる。憂鬱な、月曜日の朝。

 冷静に、考えても、僕が、悪いよね……。

 朝、布団の中でも、朝食のパンを食べていても、髪を整えていても、出るのは、大きな溜息ばかり。

「よしっ、もう一度、ちゃんと謝ろう」と誓い、アパートの扉を閉める。

 *

「おはよう……」
「よっ、古賀、元気ないな」
「宮部は、元気だね……」
「まぁ……なっ! あとで、教えてやるよ!」

 いつも、そうだ! 

「あとで、教えてやるよ!」と、同期の宮部が、元気のある理由を勿体ぶる時は、週末に、女の子と、いい関係になったと、決まっている。

「おはよう! 古賀君、宮部君」
「先輩、おはようございます!」
「古賀君、金曜日は、楽しかったね!」
「えっ、あぁ……はい……」

 津上が、すれ違いざまに、そう言って、ニコリと微笑む。
 
 彼女の部屋と同じ柑橘系の爽やかな匂いに、彼女の寝起きの姿を思い出し、顔がカーッと熱くなる。
 
 津上先輩の後姿、ピンクのブラウスにネイビーのパンツに、後ろで束ねた髪が、犬の尻尾のように、左右にリズムよく揺れる。

「古賀ァ……どういうことだよ?」
「何が?」

 宮部は、僕らの会話を聞き逃さなかった。

「今の話だよ?」
「えっ、飲みに行ったんだけど……どうかした?」
「2人だけでかよ?」
「うん……仕事帰りにね……」

 宮部が驚くのは無理が、ないかもしれない。

 社内の誰もが、憧れる女性と2人きりで、飲みに行ったのだから、宮部が驚くのは無理が、ないかもしれない。その後も、宮部は、しつこく金曜日の事を聞いてきた。

「何だ、そんな事かよ!」
「だから、言ったじゃん! !」
「その後、何も、なかったんだよな……!?」
「なっ、ないよ……」
「なんだぁ……その、含みのある言い方は!」

 確かに、飲みに行ったけど、彼女の部屋で一夜を明かした何て言えるわけがない。

「オイッ! 新人!! いつまで、しゃべってんだ!!!」
「はいっ! すみません!」

 ほらっ、津上先輩が、あんな事を言うから、宮部が……。

「古賀君! 営業に行くよ!」
「あっ、はい! 悪い、宮部、行くわ!」
「ちっ!!」

 ネイビーのジャケットの袖に腕を通し、黒のトートバックを肩に掛けると、津上先輩が声を掛けてくる。

 助かったァ……これ以上、宮部に、問い詰められると、しゃべって、しまいそうだった……。

 *

 静かなエレベーターの中、津上と2人きりの空間は、何か、居心地が悪い。

 わざと……そう! 津上先輩は、宮部に聞こえる様に、わざと、金曜日と言ったような気がする。

「先輩、何で、あんな事を……?」
「あんな事……?」
「だから、金曜日の事……宮部の前で、言ったんですか?」
「なぁ……に、楽しくなかった?」
「いえ……楽しかったかもです……」
「じゃぁ、いいじゃない!」

 確かに、僕は、やましい事は、してない。

 してないけど……一夜を過ごした事には、間違いない。

 先輩のスッピンを「綺麗ですね」と、褒めた方がいいのか?

 もう一度、何もなかったのか、確認する方が、いいのか?

 色んな事が、頭の中を駆け巡る。

 別に狼狽える事なく、エレベーターの表示板を見ながら、僕の質問に、淡々と答える、津上先輩。

 年上女性の余裕……なのかな……!?

「ところで、今日の営業は、どこですか?」
「都内のスーパーをいくつか、回ろうと、思うの……!」
「スーパーですか?」
「そうよ! 市場を見て回るのも、大事な仕事よ!」

『ニコニコ商社』は、都内の大手スーパーのチェーン店は、もちろん、街の小さなスーパー、地方のスーパーにも、力を注いでいる。

「こんにちは」
「あらっ、新人さん?」
「こちら、マネージャーの本部さん」
「古賀と言います。よろしくお願いします」
「そうそう……津上さん、この商品ねぇ……目玉商品なんだけどね……」
「もっと、ポップに力を入れたらどうですか……並びも、こうですかねぇ……」

 大手『太平スーパー』のマネージャー本部は、挨拶もそこそこに、今月の目玉商品の陳列について、さっそく話を始める(新人は、眼中にないか……)。

 メモ帳を広げて、真摯に話を聞き、アドバイスをする津上の姿は、イキイキとして、輝いて、見える。

「そうねぇ……見栄えが、いいわね! さすがだわ……」
「えぇ、いけると、思いますけど……」

 商品を売り込むだけが、営業の仕事ではなく、いかに店が、売る上げを上げていくか、アドバイスをしていく。これも、営業の仕事である。良太は、メモを取りながら、話を聞き洩らさない様に、耳を傾ける。

「さぁ、次に、行こうか!」

 いくつか、都内の大手スーパーを回っていく。

 どの営業先でも、津上は、露骨な営業をしない。

「お願いしますよ」と、がっつく事もしないし、おべんちゃらを言うわけではない。

「さすが……ですね……」
「何が?」
「何か、売れるような、気がします!」
「バカね! 売ってもらわないと、私達の卸す商品も、売れないのよ!」
「そっ、そうですね……!」

『店の為になる事をする』は、やがて、回りまわって『自分達の為になる』と、定食屋で、男性サラリーマンに混じって、鯵の開き定食を食べながら、話す。

 何となく、納得できる。

 納得できるが……彼女の選ぶ店って、この前の居酒屋といい、おじさん臭いところがあるのは、気になる。

 まっ、気を使わないから、いいか……。

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