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3章 京都動乱
17、憑依の刻 参
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-憑依の刻-
「うおお!」
少年に覇気が宿ったことを感じ取った父はニヤリと笑い、「おもしろくなってきやがった」と呟いた。どうやら、強い相手との勝負を楽しむタイプらしい。
少年は力を込めて剣を振るい、お互いに一歩も引かぬ打ち合いが始まった。手を緩めようものなら、相手に一方的に攻められるような雰囲気があった。
そのとき、父は呟いた。「これではらちがあかねえ。元親、俺に憑依してくれ」
その瞬間、父の体がぶるぶるっと大きく震えて、目がカッと開かれた。
そして少年に向かって、さらに激しく剣を振るった。
もともと高い実力を持っていた父は、元親が憑依することで、その眠っていた潜在能力をさらに発揮したのだ。
その様子は、まさに土居宗珊と長宗我部元親、戦国時代の2人が現世で打ち合っているかのようだった。
しかし剣術というのは、その体格によって大きな差が生まれる。背が低く、リーチの短い少年は劣勢に立たされたのだ。
父は真正面から間合いを詰め、間髪を入れずに次々と斬りたてた。少年は寸でのところでそれを防ぐが、勢いに押されてどんどん退がっていった。
少年は父の打ち込みの激しさに手も足も出ない。これは技術だけの差ではない、度胸の差だ。
「トドメだ」
父はそう言って、大きく振りかぶった木刀を少年の頭上に振り下ろした。
「うおぉ!」少年は自分の刀の鍔で受け止め、力を振り絞って耐えた。
鍔り合いだ。2人は顔と顔を近づけ、刀を押しあった。
長い間、鍔迫り合いをしていると、構えあっているときよりも緊張感が薄れてくる。しかし心の隙を見せると、その隙に勝負が決まるのだ。
父は、少年に向かって言い放った。
「よう、土居宗珊。450年ぶりくらいか?」
「そうじゃなあ、長宗我部元親。しかしまさか、親子に乗り移って儂らが戦うことになるとはのう…」
「いいじゃねえか。お前への恨み、450年越しに晴らすぜ!」
そして父は、刀に渾身の力を込めた。腕力に劣る少年は、耐えきれずに腰を落としてしまうが、横に転がったあとすぐに立ち上がった。
「そろそろ勝負を決めようか」父はそう言うと、刀をやや下段に構えた。
「下段じゃと…」少年はその構えを不審に思った。
刀は基本的に上から下に動くものであり、下段にはあまり利点が無かった。
刀を下に構えていると、切り込むまでに時間がかかるのだ。
コンマ単位の勝負をする剣の世界で、このロスは致命的だった。それにもかかわらず下段に構えているということは、足への攻撃に備えているか、それとも…
少年は難しく考えることをやめた。ただシンプルに、父の胸に向かって突きを放ったのだ。
しかしそのとき、父の木刀は恐ろしく早い速度で弧を描き、巻き込むように少年の竹刀を捉えた。そして大きな音を上げ、木刀を上空にはじきとばしたのだ。
その瞬間、父は少年の頭上に切り込んだ。戦いを見守っていた雪は、天井に突き刺さった木刀と、その場に倒れこんだ少年をみて、大粒の涙を流した。
「安心しろ、手加減しているさ。自分の息子を殺しはしねえよ」
「最後の忠告だ。これ以上、俺の邪魔をするな。次こそ、本当に消すぞ。
お前は俺の息子だが、俺は自分の部下たちを喰わせないといけねえんだよ…」
父はそう言ったあと、部屋の端にある梯子に登り、部屋の上部にある屋根裏に身を潜めた。まるで獲物を狙うハンターのように木刀を構えて、侵入者を待っていた。
父は、ほどなくトシがここにやってくることに気付いていたのかもしれない。
月はまるで空に張り付いているかのようだった。銀紙の星が揺れている。
「うおお!」
少年に覇気が宿ったことを感じ取った父はニヤリと笑い、「おもしろくなってきやがった」と呟いた。どうやら、強い相手との勝負を楽しむタイプらしい。
少年は力を込めて剣を振るい、お互いに一歩も引かぬ打ち合いが始まった。手を緩めようものなら、相手に一方的に攻められるような雰囲気があった。
そのとき、父は呟いた。「これではらちがあかねえ。元親、俺に憑依してくれ」
その瞬間、父の体がぶるぶるっと大きく震えて、目がカッと開かれた。
そして少年に向かって、さらに激しく剣を振るった。
もともと高い実力を持っていた父は、元親が憑依することで、その眠っていた潜在能力をさらに発揮したのだ。
その様子は、まさに土居宗珊と長宗我部元親、戦国時代の2人が現世で打ち合っているかのようだった。
しかし剣術というのは、その体格によって大きな差が生まれる。背が低く、リーチの短い少年は劣勢に立たされたのだ。
父は真正面から間合いを詰め、間髪を入れずに次々と斬りたてた。少年は寸でのところでそれを防ぐが、勢いに押されてどんどん退がっていった。
少年は父の打ち込みの激しさに手も足も出ない。これは技術だけの差ではない、度胸の差だ。
「トドメだ」
父はそう言って、大きく振りかぶった木刀を少年の頭上に振り下ろした。
「うおぉ!」少年は自分の刀の鍔で受け止め、力を振り絞って耐えた。
鍔り合いだ。2人は顔と顔を近づけ、刀を押しあった。
長い間、鍔迫り合いをしていると、構えあっているときよりも緊張感が薄れてくる。しかし心の隙を見せると、その隙に勝負が決まるのだ。
父は、少年に向かって言い放った。
「よう、土居宗珊。450年ぶりくらいか?」
「そうじゃなあ、長宗我部元親。しかしまさか、親子に乗り移って儂らが戦うことになるとはのう…」
「いいじゃねえか。お前への恨み、450年越しに晴らすぜ!」
そして父は、刀に渾身の力を込めた。腕力に劣る少年は、耐えきれずに腰を落としてしまうが、横に転がったあとすぐに立ち上がった。
「そろそろ勝負を決めようか」父はそう言うと、刀をやや下段に構えた。
「下段じゃと…」少年はその構えを不審に思った。
刀は基本的に上から下に動くものであり、下段にはあまり利点が無かった。
刀を下に構えていると、切り込むまでに時間がかかるのだ。
コンマ単位の勝負をする剣の世界で、このロスは致命的だった。それにもかかわらず下段に構えているということは、足への攻撃に備えているか、それとも…
少年は難しく考えることをやめた。ただシンプルに、父の胸に向かって突きを放ったのだ。
しかしそのとき、父の木刀は恐ろしく早い速度で弧を描き、巻き込むように少年の竹刀を捉えた。そして大きな音を上げ、木刀を上空にはじきとばしたのだ。
その瞬間、父は少年の頭上に切り込んだ。戦いを見守っていた雪は、天井に突き刺さった木刀と、その場に倒れこんだ少年をみて、大粒の涙を流した。
「安心しろ、手加減しているさ。自分の息子を殺しはしねえよ」
「最後の忠告だ。これ以上、俺の邪魔をするな。次こそ、本当に消すぞ。
お前は俺の息子だが、俺は自分の部下たちを喰わせないといけねえんだよ…」
父はそう言ったあと、部屋の端にある梯子に登り、部屋の上部にある屋根裏に身を潜めた。まるで獲物を狙うハンターのように木刀を構えて、侵入者を待っていた。
父は、ほどなくトシがここにやってくることに気付いていたのかもしれない。
月はまるで空に張り付いているかのようだった。銀紙の星が揺れている。
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