18 / 83
第18話 鉢合わせ
しおりを挟む
机と椅子が届いた。
颯太はものすごく喜んでいた。
子供って、親が買ってやるとこんなにも喜ぶものなのか。
初めて知った。
颯太の部屋には、あとは「仕舞うだけ!」という状態で荷物が整えられていた。
並んでいる順番通りに本棚へ丁寧に並べていく。
へえ……結構几帳面なんだな。
俺は椅子を持ってきて、ただ見物していた。
だって、颯太を見ているだけでかわいくて飽きない。
時々目が合うと、あの大きなかわいい目でにこっと笑う。
ああ……どうしよう。かわいすぎる。
頬が緩みっぱなしだ。兄妹には絶対に見せられない。
今日も午前は事務仕事をして、午後はオンコールにして自宅で論文を書くと看護部長に言っておいた。
医者は「論文を書く」と言えば、一生使える言い訳になる。(笑)
こういうのは世間的に何て言うんだ?
骨抜き状態か‥‥‥。
まあ、何と言われてもいいさ。
そうだ。おやつでも作ってやろう。
何がいいかな?
甘いぜんざいにしよう。颯太のお疲れ休みだ。
白玉粉を練って丸め、ゆでて冷水で冷ます。
小豆は缶詰で十分。お湯を入れて白玉団子を放り込む。
そして熱々に仕上げる。
俺は熱々が好きなんだ。ぬるいのはダメ。
颯太の部屋に行って声をかけた。
「颯太、おやつにしようよ。ぜんざい作ったよ」
えー?という笑顔で駆け寄ってきて、ぎゅっと抱きついてきた。
もう……可愛い。
余計に骨抜きになるじゃないか。
そのまま抱きついた状態でダイニングへ移動する。
絶対に人には見せられない。
そして顔を上げたら――そこに妹がいた!
あっと口を開けたまま絶句していた。
いや、こっちだって絶句だよ。
頭が真っ白になった。
颯太はそっと俺から離れて、俯いてしまった。
「颯太、とにかくダイニングに行こう。おやつ食べよう」
手を引いて席に連れていく。
こうなったら破れかぶれだ。
妹は無視して、ぜんざいをよそった。
「楓も食べるか?」
「食べる」
そう言ってさっさと座った。
「颯太ね、こっちは俺の妹で楓(かえで)。耳鼻咽喉科の専攻医だよ」
颯太が頭を下げる。
「あ、楓。この子は颯太って言うんだけど、今俺が保護者になって預かってる。もううちに住んでるからよろしく。それと声が出ないから、話しかけても返事はできないよ」
颯太はぱっと席を離れ、タブレットを持ってきて猛烈な勢いでタイピングした。
<初めまして、立花颯太です。先生にはお世話になっています。よろしくお願いします>
楓に差し出すと、それを読んで、
「はあ~ん、なるほどね。でも何で声が出ないの?」
「ある日突然だよ。多分パニックで声を失ったんだと思う。
まだ全身状態が悪くて静養中なんだ。この一週間でだいぶ良くなったけど、まだ目が離せない。長年の過労とストレスだと思う」
「へえ~、診てあげようか?私専門医だから」
颯太はペコリと頭を下げた。
「まあ、いずれ楓と淳一にも診てもらおうと思ってたんだけど、事情があって保険証が使えなかったから、まだ何も検査してないんだ」
「ふ~ん、今はどうなの?」
「昨日ようやく自由になって、保険証が使えるようになった。でも住所変更してないな……やばい。また市役所行かないと」
「そうなんだ。颯太君はいくつ?」
<18歳で大学1年です>
「颯太君は俺と同じ大学だよ。偶然だけど」
「ふ~ん、論文という名の子育てね」
ぷっと吹き出した。
颯太も照れくさそうに微笑んでいる。
「楓、何か用でもあったの?一応颯太のことは内緒にしてよ」
「さあ~どうしよっかなあ?颯太君を私の症例にしてくれたら内緒にしてあげる」
「よし。こうしよう。淳一も呼んで事情を話すから、二人で颯太の具合を診てくれない?ずっと熱が続いて、吐いたり気を失ったりして寝込みっぱなしだったんだ」
「そりゃまずいね。じゃあ閉院してから私のところに連れてきて。兄貴も呼んでおく」
「マイナンバーカードの住所変更がまだだけど……いいの?明日にしようか?」
「OK、明日でいいよ。カルテ作れないし」
「うん、じゃあ明日住所変更しておくよ」
楓は喋りながらも、ぜんざいをあっという間に食べ終わっていた。
颯太は緊張のあまり、一口も食べられていない。
かわいそうに……。
颯太はものすごく喜んでいた。
子供って、親が買ってやるとこんなにも喜ぶものなのか。
初めて知った。
颯太の部屋には、あとは「仕舞うだけ!」という状態で荷物が整えられていた。
並んでいる順番通りに本棚へ丁寧に並べていく。
へえ……結構几帳面なんだな。
俺は椅子を持ってきて、ただ見物していた。
だって、颯太を見ているだけでかわいくて飽きない。
時々目が合うと、あの大きなかわいい目でにこっと笑う。
ああ……どうしよう。かわいすぎる。
頬が緩みっぱなしだ。兄妹には絶対に見せられない。
今日も午前は事務仕事をして、午後はオンコールにして自宅で論文を書くと看護部長に言っておいた。
医者は「論文を書く」と言えば、一生使える言い訳になる。(笑)
こういうのは世間的に何て言うんだ?
骨抜き状態か‥‥‥。
まあ、何と言われてもいいさ。
そうだ。おやつでも作ってやろう。
何がいいかな?
甘いぜんざいにしよう。颯太のお疲れ休みだ。
白玉粉を練って丸め、ゆでて冷水で冷ます。
小豆は缶詰で十分。お湯を入れて白玉団子を放り込む。
そして熱々に仕上げる。
俺は熱々が好きなんだ。ぬるいのはダメ。
颯太の部屋に行って声をかけた。
「颯太、おやつにしようよ。ぜんざい作ったよ」
えー?という笑顔で駆け寄ってきて、ぎゅっと抱きついてきた。
もう……可愛い。
余計に骨抜きになるじゃないか。
そのまま抱きついた状態でダイニングへ移動する。
絶対に人には見せられない。
そして顔を上げたら――そこに妹がいた!
あっと口を開けたまま絶句していた。
いや、こっちだって絶句だよ。
頭が真っ白になった。
颯太はそっと俺から離れて、俯いてしまった。
「颯太、とにかくダイニングに行こう。おやつ食べよう」
手を引いて席に連れていく。
こうなったら破れかぶれだ。
妹は無視して、ぜんざいをよそった。
「楓も食べるか?」
「食べる」
そう言ってさっさと座った。
「颯太ね、こっちは俺の妹で楓(かえで)。耳鼻咽喉科の専攻医だよ」
颯太が頭を下げる。
「あ、楓。この子は颯太って言うんだけど、今俺が保護者になって預かってる。もううちに住んでるからよろしく。それと声が出ないから、話しかけても返事はできないよ」
颯太はぱっと席を離れ、タブレットを持ってきて猛烈な勢いでタイピングした。
<初めまして、立花颯太です。先生にはお世話になっています。よろしくお願いします>
楓に差し出すと、それを読んで、
「はあ~ん、なるほどね。でも何で声が出ないの?」
「ある日突然だよ。多分パニックで声を失ったんだと思う。
まだ全身状態が悪くて静養中なんだ。この一週間でだいぶ良くなったけど、まだ目が離せない。長年の過労とストレスだと思う」
「へえ~、診てあげようか?私専門医だから」
颯太はペコリと頭を下げた。
「まあ、いずれ楓と淳一にも診てもらおうと思ってたんだけど、事情があって保険証が使えなかったから、まだ何も検査してないんだ」
「ふ~ん、今はどうなの?」
「昨日ようやく自由になって、保険証が使えるようになった。でも住所変更してないな……やばい。また市役所行かないと」
「そうなんだ。颯太君はいくつ?」
<18歳で大学1年です>
「颯太君は俺と同じ大学だよ。偶然だけど」
「ふ~ん、論文という名の子育てね」
ぷっと吹き出した。
颯太も照れくさそうに微笑んでいる。
「楓、何か用でもあったの?一応颯太のことは内緒にしてよ」
「さあ~どうしよっかなあ?颯太君を私の症例にしてくれたら内緒にしてあげる」
「よし。こうしよう。淳一も呼んで事情を話すから、二人で颯太の具合を診てくれない?ずっと熱が続いて、吐いたり気を失ったりして寝込みっぱなしだったんだ」
「そりゃまずいね。じゃあ閉院してから私のところに連れてきて。兄貴も呼んでおく」
「マイナンバーカードの住所変更がまだだけど……いいの?明日にしようか?」
「OK、明日でいいよ。カルテ作れないし」
「うん、じゃあ明日住所変更しておくよ」
楓は喋りながらも、ぜんざいをあっという間に食べ終わっていた。
颯太は緊張のあまり、一口も食べられていない。
かわいそうに……。
10
あなたにおすすめの小説
冷酷なミューズ
キザキ ケイ
BL
画家を夢見て都会へやってきた青年シムは、「体液が絵の具に変わる」という特殊な体質を生かし、貧乏暮らしながらも毎日絵を描いて過ごしている。
誰かに知られれば気持ち悪いと言われ、絵を売ることもできなくなる。そう考えるシムは体質を誰にも明かさなかった。
しかしある日、シムの絵を見出した画商・ブレイズに体質のことがばれてしまい、二人の関係は大きく変化していく。
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。
勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。
薄紅の檻、月下の契り
雪兎
BL
あらすじ
大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。
没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。
しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。
鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。
一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。
冷ややかな契約婚として始まった同居生活。
だが、伊織は次第に知ることになる。
鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。
発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。
伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。
月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。
大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。
聖女を演じた巻き添え兄は、王弟殿下の求愛から逃げられない
深嶋(深嶋つづみ)
BL
谷口理恩は一年ほど前、妹と一緒に異世界に転移してしまった。
聖女として魔術の才を開花させた妹・世奈のおかげもあって、二人はアルゼノール王国の大教会に保護され、不自由のない暮らしを送ることができている。が、最近は世奈の奔放さに理恩は頭を抱えることもあった。
ある日、世奈の仕事を肩代わりした理恩は、病に臥せっている幼い第二王子・イヴァン王子のもとに参じることに。
――「僕が大人になったら、僕の妃になってくれませんか」。
何度も謁見を重ねるうちに理恩に懐いた彼は、目の前の聖女が偽者であることに気付かぬまま、やがて理恩に求愛する。
理恩は驚き、後ろめたい気持ちを抱きながらも、「大人になっても同じ気持ちでいてくれたなら」と約束を交わした。
その直後、何者かの陰謀に陥れられた世奈の巻き添えとなり、理恩は辺境の地へと飛ばされてしまい……。
――数年後、アルゼノール王国を出て世界中を巡っていた理恩は、とある国で偶然、王弟・イヴァンと再会する。
傷心の旅をしているのだという彼は、どういうわけか理恩との交流を持ちたがって――?
たとえば、俺が幸せになってもいいのなら
夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語―――
父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。
弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。
助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる