歌えなくなったオメガを匿った夜から、ふたりの秘密が始まった

スピカナ

文字の大きさ
26 / 83

第26話 耳鼻科検査

しおりを挟む
 翌朝、ようやく颯太の熱は下がった。
もう点滴はしていない。

「颯太、トイレまで歩ける?歩けるならカテーテルは外すよ」

少し首をかしげてから、うなずいた。
「じゃあ、外すからね」

布団をめくると、颯太はまた掛け布団を頭からかぶった。
本当に恥ずかしがり屋だ。可愛すぎる。

「ちょっと気持ち悪いよ」
そっと管を抜き、尿バッグごとバケツに入れた。

その後、先端と周囲を軽く消毒する。
「颯太、違和感はない?先端が熱いとか、しみるとか」

布団から目だけをのぞかせて、ううんと横に振る。
……そのかわいい目だけ見せるの、反則だよ。

片付けを終えた。
「じゃあ、トイレまで歩いてみようか?」
そっとベッドを降り、ゆっくり立ち上がる。
ドアノブや壁に手を添えながら、なんとかトイレまで歩けた。

う~ん、本当は整形外科にあるような歩行器があると安心なんだよな。
後で借りてこよう。安定するまで必要だ。
時間がかかるようなら買ってもいい。

「颯太、今日は夕方から耳鼻科で検査だけど、大丈夫?無理なら明日にするよ」
少し考えている。

「そうだ、車で行って、病院に着いたら車いすで移動するよ。それならどう?」
ようやく頷いた。

やっぱり本調子じゃない。
それでも早く耳鼻科で検査してほしい。
結果がそろえば治療方針も決まる。

昼食後、4時まで寝かせておいた。
4時半に来てほしいと楓に言われている。

起こして洗面を済ませ、着替えを手伝った。
駐車場まで歩かせるのが心配だ。

「颯太、抱いて車まで行こうか?」
目を真ん丸にして首を横に振る。ぷっ。

「じゃあ、おんぶしていくよ。誰も見てないから」
これも拒否。……しょうがない。

「じゃあ、俺につかまって歩いて。いい?」
それは頷いた。よし。

颯太は両手で俺の腰にしがみつき、
抱き寄せるようにして駐車場まで歩いた。
大丈夫か……?

やっぱり早かったかなと後悔した。
病院に着くとすぐ車いすに乗せた。

これで安心だ。俺も白衣を着る。
耳鼻科に到着。
ナースが俺を見るとすぐ通してくれた。早い。

楓「よく来てくれたわ。具合はどうかな?」
颯太は少し首をひねる。

「じゃあ、これからいろいろ検査しますね」
最初に聴力検査、次に耳、鼻、最後に喉。

楓「ちょっと内視鏡で鼻から入れて調べますね」
ああ……かわいそう。

颯太はぎゅっと顔をしかめながら頑張っていた。
俺は片手を握って支えた。

モニターには内部の映像が映し出され、
次々と撮影ボタンを押していく。
しばらくして検査が終わった。

颯太はかなりつらかったようで、
終わった瞬間、もう寝込みそうな顔をしていた。

楓も気づいて俺を見る。俺は頷いた。
「そしたら、もう検査は終わりなので帰っていいですよ。
結果は今度お話ししますね。お疲れさまでした」

「楓、ありがとう。帰って寝かせるわ」
車いすに乗せ、早々に引き上げた。

実は車いすを借りてきた。
とても歩いて帰れる状態じゃない。
帰宅すると、
「トイレ行く?」
頷いた。

そのままトイレに連れて行き、
なんとか中に入れた。

しばらくして出てきたので、また車いすに乗せてベッドへ。
これはしばらく使いそうだ。しょうがない。
寝室に戻るとすぐ水を飲ませ、横にさせた。

俺は洗面所で手を洗い、消毒して診察する。
血圧は92。
あ~あ……倒れる寸前だ。
これでは食べられない。また点滴を開始した。

そこへ楓からメール。
「颯太君は眼振があるから、めまいの薬も飲ませてね」

俺は返信した。
「車いすを借りてきたけど、自宅用に買わないとダメだな。
行く前は伝い歩きがやっとだったけど、帰ったらもう無理。
またカテーテルだ。血圧92。危なくて歩かせられない」

すぐに“お手上げ”の絵文字が返ってきた。

病院の業者に車いすと歩行器、ポータブルトイレ、尿瓶、手すり、つい立てを1つずつ注文した。
車いすは幅が狭く、折りたたんでも嵩張らないタイプ。
颯太は小柄で細いから十分だ。

届いたら借りて自宅で使おう。院長権限だ。
でも理事である父には一言伝えておこう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷酷なミューズ

キザキ ケイ
BL
画家を夢見て都会へやってきた青年シムは、「体液が絵の具に変わる」という特殊な体質を生かし、貧乏暮らしながらも毎日絵を描いて過ごしている。 誰かに知られれば気持ち悪いと言われ、絵を売ることもできなくなる。そう考えるシムは体質を誰にも明かさなかった。 しかしある日、シムの絵を見出した画商・ブレイズに体質のことがばれてしまい、二人の関係は大きく変化していく。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。 勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。

薄紅の檻、月下の契り

雪兎
BL
あらすじ 大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。 没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。 しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。 鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。 一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。 冷ややかな契約婚として始まった同居生活。 だが、伊織は次第に知ることになる。 鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。 発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。 伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。 月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。 大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。

聖女を演じた巻き添え兄は、王弟殿下の求愛から逃げられない

深嶋(深嶋つづみ)
BL
谷口理恩は一年ほど前、妹と一緒に異世界に転移してしまった。 聖女として魔術の才を開花させた妹・世奈のおかげもあって、二人はアルゼノール王国の大教会に保護され、不自由のない暮らしを送ることができている。が、最近は世奈の奔放さに理恩は頭を抱えることもあった。 ある日、世奈の仕事を肩代わりした理恩は、病に臥せっている幼い第二王子・イヴァン王子のもとに参じることに。 ――「僕が大人になったら、僕の妃になってくれませんか」。 何度も謁見を重ねるうちに理恩に懐いた彼は、目の前の聖女が偽者であることに気付かぬまま、やがて理恩に求愛する。 理恩は驚き、後ろめたい気持ちを抱きながらも、「大人になっても同じ気持ちでいてくれたなら」と約束を交わした。 その直後、何者かの陰謀に陥れられた世奈の巻き添えとなり、理恩は辺境の地へと飛ばされてしまい……。 ――数年後、アルゼノール王国を出て世界中を巡っていた理恩は、とある国で偶然、王弟・イヴァンと再会する。 傷心の旅をしているのだという彼は、どういうわけか理恩との交流を持ちたがって――?

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

処理中です...