診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第5章 2号館、屋上から動き出す

97話 川瀬サイド・二人だけの夜

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 西村主任が倒れてから今日で六日目になる。

ようやく熱は下がり、平熱に近づいてきた。

だが採血の結果は、まだ炎症が残っている。

ここで無理をして以前の生活に戻してしまえば、慢性化してしまう。それだけは避けたい。

院長と話をした。

「主任の病状なんだけどさ……」

院長「分かってるよ。まだ炎症が残ってるし、無理はさせない。もう一週間くらい養生してもらうよ。

でもどうしても仕事をしたがるなら、朝食だけは手伝ってもらう。

その他の料理は三輪さんたちに任せれば負担は少ないはずだよ」

「うん、悪い。頼むよ」


院長「主任のことが気になるなら、今のうちに告白してしまえば? 今がチャンスだよ」

「お前、何を言ってるんだよ。臥せってる相手にそれはないだろう?」

院長「お前は不器用だなあ。弱ってる時だからチャンスなんだよ。

元気な時に言っても、『離婚したばかりだから』って相手にされないか、蹴っ飛ばされるかのどっちかだよ。

とにかく健闘を祈るよ」


……北原は何なんだよ……でもそうかもしれないな、俺も少し戸惑う。


主任の部屋に入る。俺の診療カバンはこの部屋に置いたままだ。

カテーテルもまだ入っている。そろそろ歩けるようなら外してもいい頃だ。

主任は目を開けていた。

「具合はどう?」

俺は熱を測り、血圧も確認した。

西村「川瀬先生、いつもありがとう。こんなに親切にしてもらって、お返しするものがないわ」

俺はくすくすと笑った。「いっぱいあるよ」と答えた。

西村「えっ、なに?」

思い切って言った。

「俺に、主任をくれないか? 大事にするから」

一瞬、空気が止まった。

だが俺は主任の瞳をじっと見つめ続ける。かわいい目だ。

主任は、目を合わせると、さっと掛け布団を引き上げて顔を隠した。

ふふ……可愛い。たまらない。

布団をかぶったまま主任は言った。

「私が病で寝込んでるからって、弱ってる隙を狙ったでしょう?」

思わず笑いが漏れた。

久しぶりに心から笑った気がする。なんて可愛いんだ。

「そうだと言ったらどうする?」

「ヤダ! 知らない」 まだ布団をかぶっている。

「俺は本気だ。結婚したい。ずっと君のそばにいて気づいた」

「なに?」

「君のそばにいると落ち着く。違和感がない。ずっと一緒にいられる。君がどう思うかはわからないけど」

しばらく返事がない。俺はじっと待った。

「それだけ?」

ぷーっと笑った。可愛すぎる。

「なんで笑うのよ」

「だって君は最高にかわいいよ。人に言われたことない?」

「ない」

「じゃあ俺が毎日言うよ。可愛いって。だから一緒になろう。俺のこと、嫌じゃない?」

「別に……」

「嫌じゃないならどうかな? 俺は荷物持ちにはぴったりだと思うよ」

「それだけ?」

また笑いが止まらなくなった。

ついに、布団の中から顔を出した主任に、思わずキスをした。何度も重ねてしまった。

「もう~、まだ歯磨きもしてないのに……」

うふふ、 面白い。

「ねえ、返事してくれないの?」

「だって離婚したばかりだもん」

「だから急いでるんでしょう? 早くゲットしないと人に盗られちゃうよ」

向こうが笑う。これはOKということかな、そんな気がした。

「ダメ? ダメって言われたら泣いちゃうよ」

主任はぷっと笑う。

「じゃあ考えておく」

「ダメ。こういうのは即断即決だよ。明日になったら気が変わるかもしれないから、今決めてほしい」

主任は大きくため息をついた。

「うん、わかった。結婚する。でも、後で後悔しても知らないからね。それにもう離婚はしないよ」

「当たり前だろ。ありがとう。佳代ちゃんって呼んでもいいかな? 大好きだよ。愛してる」

俺は寝ている彼女の上半身を起こして抱きしめた。絶対に離さない。

なんだか泣けてくる。口を一文字にしたけど、でも零れてきた。

早く北原や岩城にも教えてやりたい。


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