診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第5章 2号館、屋上から動き出す

98話 川瀬サイド・アラーム

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 抱きしめたあと、どうしても放したくなかった。

「俺、今夜はここにいてもいい? いたずらはしないから」

佳代ちゃんはふふふと笑った。

「そうだ、歯磨きする? 本当は前から体を拭いてあげたかったんだ。熱が高かったから」

「それっていたずらって言わないの?」

「言わないさ。医者だもん」 彼女がぷーっと笑う。

「もう……じゃあ、歯磨きしたいです」

「はいはい、よく出来ました」

洗面器と歯ブラシ、歯磨き粉を持ってくる。部屋のポットに水を入れ、コップも用意した。タオルも洗面所から取ってきた。

恥ずかしそうに歯を磨く佳代ちゃんを見ていた。

「見たら悪いのかな?」

「うん」

ぷっ、と笑ってしまう。

仕方なく後ろを向くと、やがて「終わりました」と声が聞こえた。

洗面器一式を片付ける。

「お水飲む?」

「うん」

「飲ませてあげようか?」 俺がそう言うと、彼女はぷーっと吹き出した。

えっ? 可笑しいかな……。

「明日、朝にカテーテルを抜くからシャワーを浴びていいよ」

「それ、誰が抜いてくれるの?」

「亜衣さんに頼もうか」

「うん、わかった」

「最初に立つときは亜衣さんのいるときに移動して。めまいで頭をぶつけたりしたら大変だから」

彼女はまた笑った。

「本当は俺が洗ってあげたいんだけどね」

「エッチ」

今度は俺が笑う。

「なんだよ、男は皆エッチに決まってるだろ?」

「もう知らない」

「じゃあ寝よう。俺も歯を磨いてくるから、先に寝てていいよ」

一旦部屋を出て自室へ戻り、歯を磨いた。

ふと考える。――明日の朝、二人で寝ているところを北原に見られたら恥ずかしいな。

「待てよ。四時にアラームをかけて、自室に戻れば見られないな」

そう思って、忘れそうだから携帯のアラームをセットした。

彼女の部屋に戻り、念のためドアに鍵をかける。

でも今は鍵をかける方が怪しいんだけどさ。

佳代ちゃんは眠った‥‥‥ふり? まあいいさ。

俺は彼女の布団に入って、首の下にそっと手を入れて腕枕をした。

抱き寄せると、本当に幸せだった。

髪を撫で、頬にそっとキスをして、眠った。

なんて安らかで幸せなんだろう。

翌朝、アラームで目が覚める。

ああ……睡眠不足だ。仕方なく静かに起き、自室へ戻る。

もう一度だけ眠ろうと、もう一つ目覚ましをかけてまた寝た。



次に起きたときは、全然寝た気がしない。

あくびが止まらない。まずい、仕事中にあくびが出るぞ。

今日は水曜日か? ああ、本館はまだ休みだ。地獄だ。

佐久間先生の昨夜の食器は、トレーに乗せていつも受付カウンターに置いてある。

それを持って寮のキッチンに行くと、北原がせっせと働いていた。

感心する。俺がそばに寄ると、彼が耳元でささやく。

「夕べはお楽しみだったんだねえ? そりゃ良かったねえ~」

えっ、と思って顔を向けると、北原は続けた。

「朝方、監視カメラのアラームがビービー鳴っちゃってさ。俺、睡眠不足だよ」

頭を抱えた。もう笑うしかない。

「お陰様でね。俺たち、結婚するよ」

「ええ?!」

あははは。今度はこっちが高笑いする番だ。

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