155 / 363
第8章 もっと寮が欲しい
153話 面接開始
しおりを挟む
プリントを書き終えた応募者たちは、一様に姿勢を正していた。
36人の呼吸が一つの部屋にこもり、わずかな空調の音まで聞こえるほど静かだ。
「それでは、順番に確認をさせてもらいます」
俺の合図で、スタッフが回収したプリントを6人の面接官に配布。確認を始めた。
理事は目を細めて履歴書とプリントを見比べ、山野課長は書き込みの字の癖までじっと観察している。
花井部長は手際よく赤ペンで丸をつけ、山科看護部長は「勤務可能日」の欄を特に念入りに見ていた。
宮本師長は、応募者と目を合わせながら優しく声をかける。
「夜勤は可能とありますが、ご家庭のご事情は大丈夫ですか?」
笑顔に安心したのか、答える声が次第にほぐれていった。
一方で――
緊張で顔をこわばらせたまま、曖昧な返事を繰り返す者もいる。
「直近の職場はどちらでしたか?」と聞けば、目が泳ぎ、声が上ずる。
その様子はすかさず隣の面接官のメモに記されていった。
*
全体の確認が終わると、今度は一人ひとりに個別の質問が始まった。
宮本師長が前に出て、真剣な声で問う。
「病院清掃は、普通の清掃とは違います。
例えば病室のトイレが汚れていたら、あなたはどこから手をつけますか?」
応募者が答える。
「まず…床から、ですかね」
「いいえ、違います。感染源になりやすいのはドアノブや水道の蛇口です」
淡々とした訂正に、場が一瞬引き締まる。
師長「分からないことは、これから学んでいきますから大丈夫ですよ」
次に看護部長。
「患者さんやご家族と廊下ですれ違う時、あなたならどんな態度を取りますか?」
「……目を合わせないで通ります」
「それは困りますね。小さな挨拶や会釈が信頼につながりますよ」
応募者の表情が赤くなった。
ベテラン清掃スタッフも立ち上がる。
「もし防護具を忘れて作業を始めてしまったら?」
「……そのまま続けます」
「だめです。必ず取りに戻る。それがあなたを守ることになります」
答えに詰まる人もいれば、的確に返して評価を得る人もいた。
静かな攻防の中で、少しずつ“ニセモノ”と“本物”の輪郭が浮かび上がっていく。
*
最後に理事が笑顔を見せた。
「どうして菜の花で働きたいと思ったのか、率直に教えてください」
「近所だから便利で…」と答える人もいれば、
「医療現場の清掃を学んで、自分の力を試したい」と言う人もいる。
その言葉を、面接官全員が黙ってメモした。
*
会場の空気は、最初の緊張とは別の意味で張りつめていた。
ただの質問ではない――これは本当に“仲間”になれるかどうかを見極める場。
俺は心の中でつぶやいた。
「さあ、ニセモノを探し出すのはここからだ」
36人の呼吸が一つの部屋にこもり、わずかな空調の音まで聞こえるほど静かだ。
「それでは、順番に確認をさせてもらいます」
俺の合図で、スタッフが回収したプリントを6人の面接官に配布。確認を始めた。
理事は目を細めて履歴書とプリントを見比べ、山野課長は書き込みの字の癖までじっと観察している。
花井部長は手際よく赤ペンで丸をつけ、山科看護部長は「勤務可能日」の欄を特に念入りに見ていた。
宮本師長は、応募者と目を合わせながら優しく声をかける。
「夜勤は可能とありますが、ご家庭のご事情は大丈夫ですか?」
笑顔に安心したのか、答える声が次第にほぐれていった。
一方で――
緊張で顔をこわばらせたまま、曖昧な返事を繰り返す者もいる。
「直近の職場はどちらでしたか?」と聞けば、目が泳ぎ、声が上ずる。
その様子はすかさず隣の面接官のメモに記されていった。
*
全体の確認が終わると、今度は一人ひとりに個別の質問が始まった。
宮本師長が前に出て、真剣な声で問う。
「病院清掃は、普通の清掃とは違います。
例えば病室のトイレが汚れていたら、あなたはどこから手をつけますか?」
応募者が答える。
「まず…床から、ですかね」
「いいえ、違います。感染源になりやすいのはドアノブや水道の蛇口です」
淡々とした訂正に、場が一瞬引き締まる。
師長「分からないことは、これから学んでいきますから大丈夫ですよ」
次に看護部長。
「患者さんやご家族と廊下ですれ違う時、あなたならどんな態度を取りますか?」
「……目を合わせないで通ります」
「それは困りますね。小さな挨拶や会釈が信頼につながりますよ」
応募者の表情が赤くなった。
ベテラン清掃スタッフも立ち上がる。
「もし防護具を忘れて作業を始めてしまったら?」
「……そのまま続けます」
「だめです。必ず取りに戻る。それがあなたを守ることになります」
答えに詰まる人もいれば、的確に返して評価を得る人もいた。
静かな攻防の中で、少しずつ“ニセモノ”と“本物”の輪郭が浮かび上がっていく。
*
最後に理事が笑顔を見せた。
「どうして菜の花で働きたいと思ったのか、率直に教えてください」
「近所だから便利で…」と答える人もいれば、
「医療現場の清掃を学んで、自分の力を試したい」と言う人もいる。
その言葉を、面接官全員が黙ってメモした。
*
会場の空気は、最初の緊張とは別の意味で張りつめていた。
ただの質問ではない――これは本当に“仲間”になれるかどうかを見極める場。
俺は心の中でつぶやいた。
「さあ、ニセモノを探し出すのはここからだ」
4
あなたにおすすめの小説
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
女性が少ない世界でVTuberやります!
dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉
なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。
※初日一気に4話投稿してから恋愛大賞エントリーしたため文字数5万これから(´;ω;`)みんなも参加するときは注意してね!
※忘れてなければ毎週火曜・金曜日の夜に投稿予定。作者ブル
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる