診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第8章 もっと寮が欲しい

153話 面接開始

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 プリントを書き終えた応募者たちは、一様に姿勢を正していた。

36人の呼吸が一つの部屋にこもり、わずかな空調の音まで聞こえるほど静かだ。

「それでは、順番に確認をさせてもらいます」

俺の合図で、スタッフが回収したプリントを6人の面接官に配布。確認を始めた。

理事は目を細めて履歴書とプリントを見比べ、山野課長は書き込みの字の癖までじっと観察している。

花井部長は手際よく赤ペンで丸をつけ、山科看護部長は「勤務可能日」の欄を特に念入りに見ていた。

宮本師長は、応募者と目を合わせながら優しく声をかける。

「夜勤は可能とありますが、ご家庭のご事情は大丈夫ですか?」

笑顔に安心したのか、答える声が次第にほぐれていった。

一方で――

緊張で顔をこわばらせたまま、曖昧な返事を繰り返す者もいる。

「直近の職場はどちらでしたか?」と聞けば、目が泳ぎ、声が上ずる。

その様子はすかさず隣の面接官のメモに記されていった。



全体の確認が終わると、今度は一人ひとりに個別の質問が始まった。

宮本師長が前に出て、真剣な声で問う。

「病院清掃は、普通の清掃とは違います。

例えば病室のトイレが汚れていたら、あなたはどこから手をつけますか?」

応募者が答える。

「まず…床から、ですかね」

「いいえ、違います。感染源になりやすいのはドアノブや水道の蛇口です」

淡々とした訂正に、場が一瞬引き締まる。

師長「分からないことは、これから学んでいきますから大丈夫ですよ」

次に看護部長。

「患者さんやご家族と廊下ですれ違う時、あなたならどんな態度を取りますか?」

「……目を合わせないで通ります」

「それは困りますね。小さな挨拶や会釈が信頼につながりますよ」

応募者の表情が赤くなった。

ベテラン清掃スタッフも立ち上がる。

「もし防護具を忘れて作業を始めてしまったら?」

「……そのまま続けます」

「だめです。必ず取りに戻る。それがあなたを守ることになります」

答えに詰まる人もいれば、的確に返して評価を得る人もいた。

静かな攻防の中で、少しずつ“ニセモノ”と“本物”の輪郭が浮かび上がっていく。



最後に理事が笑顔を見せた。

「どうして菜の花で働きたいと思ったのか、率直に教えてください」

「近所だから便利で…」と答える人もいれば、

「医療現場の清掃を学んで、自分の力を試したい」と言う人もいる。

その言葉を、面接官全員が黙ってメモした。



会場の空気は、最初の緊張とは別の意味で張りつめていた。

ただの質問ではない――これは本当に“仲間”になれるかどうかを見極める場。

俺は心の中でつぶやいた。

「さあ、ニセモノを探し出すのはここからだ」


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