診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第8章 もっと寮が欲しい

154話 逆質問タイムと評価会議

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 全ての個別質問が終わると、会場の空気は一息ついた。

俺は前に立ち、笑顔を浮かべた。

「さて、最後に――皆さんからこちらに聞いておきたいことはありますか?

働く上での不安や疑問、なんでも構いません」

一瞬の沈黙のあと、控えめに手が挙がった。

「……清掃の仕事でも、キャリアアップってありますか?」

その問いに、面接官たちが一斉に頷いた。

山野課長が前に出て、胸を張る。

「もちろんです。病院清掃は一般の清掃より高度で、資格や研修を積めば責任者にもなれます。

誇りをもって取り組んでいただきたい」

会場から安堵の声がもれた。

続いて別の女性が笑顔で聞く。

「制服は……自分で選べますか?」

理事が堪えきれずに吹き出す。

「ふふっ、それは難しいけど……色分けはあるから、お楽しみに」

柔らかな笑いが広がり、張りつめた空気が少しほぐれた。

最後に年配の男性が手を挙げる。

「……私は体力に自信があります。でも、年齢が高いと不利でしょうか?」

俺は即座に首を振った。

「とんでもない。経験や責任感は大きな力です。体力があるなら心強いですよ」

その言葉に、男性の顔がぱっと明るくなった。

こうして「逆質問タイム」は和やかに幕を閉じた。



応募者が退室し、会場が静かになると――すぐに評価会議が始まった。

机の上にはプリントと履歴書。面接官全員のメモが並ぶ。

山野課長が切り出す。

「やはり、この4名は答えが曖昧すぎる。直近の職場もごまかしていた」

山科看護部長が頷く。

「同感です。シフトや夜勤の質問にまったく答えられませんでした」

宮本師長は別の資料を指でとんとんと叩く。

「逆にこの方々は良かったです。きちんと挨拶や礼儀ができていました」

理事が書類をめくりながら、にやりと笑う。

「やっぱり“業者枠”が混じってたな。でも何人かは本物だ。面白いものですね」

俺は静かに全員を見回した。

「今回は大変だったけど――こうして見えてきたものもありますね。

大切なのは“ニセモノを排除すること”じゃない。

本当に菜の花で働きたい人を、きちんと見つけていくことですね」

しばし沈黙のあと、全員が深く頷いた。

その時、ノックの音がした。桐生さんだった。

「失礼します。興信所からの正式な報告書が届きました」

分厚い封筒が机の上に置かれる。

全員の視線が一点に集まり、空気が再び張りつめた。


正直、見たくなかった。

最初からお金の為に騙そうとする人たちなんて顔も見たくないし、知りたくもない。

――しかし、そこには俺たちが知りたかった“真実”が記されているはずだった。


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