診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第14章 2号館がオープンへ

270話 山本君の爆弾

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  翌週の金曜の午後、美術出版社の山本君が取材にやって来た。

今日は一人だ。何事だろう?

夏も「一緒に聞いてほしい」と言うので、家ではなく、2号館10階の莉子の事務所に来てもらった。

「院長先生、オープンおめでとうございます」

「ありがとう」
ふふっ、なんだか照れくさいな。

桐生さんや音楽事務所のスタッフにも紹介した。
今日は、莉子と俺と夏に話があるらしい。
でも一応、音楽事務所のスタッフにも同席してもらうことにした。

山本君が口を開いた。

「前にうちの雑誌社で取材させていただいて、ゲーム本を出したら大ヒットしたんですよ。
あれからもう4年くらい経って、上からも“そろそろ何かあるだろう?”とせかされてまして……。

私自身も、また何か取材をお願いしたいと思ってるんです。
もし材料がなければ、逆にこちらから提案させていただきたいんですよ」

「えー?」
なんだろう?と、みんな顔を見合わせてニヤニヤしている。

莉子が胸に手をあてて、「何ですか~? 怖いなあ……」と笑った。

山本君は、少し身を乗り出して話し始めた。

「まず1つ目ですが。2号館がオープンしたということで、
莉子さんの事務所がある外の通路に、作品がたくさん展示されているなら、それを特集したかったんです。

病院なのにアート鑑賞ができて、11階のカフェでデザートを食べて、屋上のガーデンで癒される——
そんな特集を組みたいと思ったんです。

でも、残念ながら2~3枚しか飾られていませんでしたよね?
勿体ないと思いませんか?」

夏が答えた。
「そうなんですが、莉子の絵は高価なので、盗難が怖くて出せないんですよ」

山本「そこなんです。本物を出す必要はないんですよ。複製で十分です。
それを院内のエレベーター横や、1階の待合室、カフェなどに飾ったらどうでしょう?
院内美術館ですね。
それに、作品の絵ハガキを作って販売してもいいと思うんです」

夏が「あっ、そういえば莉子の絵の絵ハガキって、作ったことないよね?」と言うと、

莉子も「確かにないわ。現物を売ることしか考えたことなかったもん」と頷いた。

山本君は続けた。

「次に2つ目ですが。4年前にゲームと絵のイベントをされましたよね?」

「うん、やった」と莉子。

「あの時、一番売れたのは院長の顔のリトグラフだったと聞いたんですが、あってますか?」

夏が笑いながら答えた。

「そうなんですよ。あれはKAI君が買ってくれたことで人が押し寄せて、
結局500枚限定で後日リトグラフを作ったんだよね?」

「うん、もうあれは本当に大変だったよ」と莉子。

山本君は、少し声を弾ませて言った。

「それ、勿体なくないですか?
だって、ご本人がそこにいらっしゃるのに、描かないのは勿体ないですよ」

莉子が苦笑いしながら答えた。

「そうなのよ。売れるのは春ちゃんの顔ばかりだから、最近もデッサンしてるの」

「だったら、もっと顔だけじゃなくてバリエーションを増やして、
院長先生の特集ができるくらい描いてみませんか?
インスタもフォロワーが100万人いるじゃないですか。

展示もして、ネット販売したら、またブレイクすると思いますよ。
その過程や出来上がりを、取材させていただけたらと思ってるんです」

「ええ~!? 俺、恥ずかしいんだよね。なんで俺なんだよ」
皆がぷっと笑った。

夏が肩をすくめて言った。

「だってしょうがないでしょう? 絵になる顔なんだから。
この際、莉子に協力してくださいよ」

山本君は、さらに続けた。

「3つ目ですが——夏さんはプロとしてデビューされたじゃないですか?
これだけイケメンでカッコよかったら、絵になりますよ。

莉子さんに、いろんなショットを描いてもらったらいいと思うんです。
勿体ないですよ。写真とか、商品としてまだ出てないようですね?
オフィシャルサイトは拝見しましたけど」

桐生さんが笑った。
「確かにそうなんですよ。まだそこまで手が回らなくて。
急遽サイトを作っただけの状態なんです」

山本君は、少し身を乗り出して言った。

「いっそ、有名な写真家に頼んで写真集でも出したらどうですか?
うちでも扱っていますので、よろしければ、うちから出版させていただけないでしょうか?」

みんなでどっと笑った。
商売、うまいんだもん。

夏が笑いながら「先輩は商売がうまいなあ~。負けた」

まだみんながくすくす笑っている。

桐生さんが言った。
「それはいい考えですね。すぐ写真家にオファーして、写真集を作りましょうよ」

夏は少し照れながら、でも嬉しそうに言った。
「照れくさいけど……いいのかなあ?」

夏が久しぶりに笑った。
エージェント契約を解除して以来、夏はやっぱり笑顔が少なかったんだ。

村瀬さんがぽつりと言った。

「それは最高にいいですよ。今だったら時間もあるし、いいものができると思いますよ」

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