医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語

スピカナ

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998話 早業の裏話

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 驚いたことに――早く入寮したいと声を上げていた医師たちも含め、この二日間で全員の引っ越しが終わってしまったという。

「ウソだろう? 二日間でどうやって……?」

思わず声に出てしまうほどだった。

五日目と六日目は大物の搬入が少なかった。

だから、その合間に“ちょこちょこ”と荷物を運び続けたらしい。

引っ越しトラックを朝から横付けし、まず技師が終わったら次は医師。

その繰り返しで、皆が助け合い、一軒一軒を着実に終わらせていったという。

「とりあえず部屋に荷物を押し込んでおけば、あとはゆっくり片付ければいい」

――その割り切りが早業の秘訣だった。

うちのスタッフ、本当に涙ぐましいほどに一致団結している。

いつの間にこんな統率力を身につけたんだ? 

感心を通り越して、胸が熱くなった。

どうしても裏話を聞きたくて、放射線技師の佐藤啓介君と田村大地君を呼ぶと、すぐに姿を見せてくれた。

佐藤「はい。御用でしょうか?」

「皆、医師も技師も引っ越しが終わったと聞いたよ。すごいと思ってさ。まるで早業だ。一体いつからそんな計画を立ててたんだ?」

二人は少し緊張した面持ちで顔を見合わせ、どちらが話すか譲り合うように小さく笑った。

田村「いや、計画を立てていたわけじゃないんです。朝礼で“寮母さんが家を出た”と聞いた時から、助けたいなと思ったんですよ。
で、二日目でしたかね……、寮母さんに“引っ越しを手伝いましょうか?”って声をかけたら、もう終わったっていうんです。
まだ引き渡しされた初日の夜だったじゃないですか?

院長先生がもう運んでくれたって聞いて、“俺たちすげえな”って思って(笑)。それをすぐチャットで流したんです」

佐藤「それと、瑛太君。ずっと宿直室で寝てたじゃないですか? 前から“かわいそうだな”って思ってて。

だから、早く荷物を運んであげようとチャットに書いたら……初日の夜に、また院長先生と理事が動いてくれたって流れてきたんです」

田村「そうそう。それを流したら、サテ医師たちが“すごい、うらやましい”って言い出して。

でも医師たちは診療があるから、思うように動けない。

だから“技師寮が早く終わりそうだから、こっちが片付いたら医師たちの分も手伝います”ってチャットに書いたんです」

佐藤「そしたら、四人とも“頼む!”って返してきて。

だから“早くトラックを横付けできた人から順番に片付けます”って書いたんです。

それでみんな診療をうまく休みにして、順番にトラックを呼んで、エレベーターの隙間を狙って少しずつ運んだんですよ」

田村「そういうわけで、気がついたら一気に終わってたんです。サテ医師たちも行動が早かったんですよね」

「そうか……本当にありがとう。なんだか感動して泣きそうだよ」

気づけば目頭が熱くなり、言葉がかすれていた。

うれしくて、誇らしくて……いつの間に、こんなにも助け合う仲間たちになったんだろう?

サテライトのスタッフなんて、採用してまだ一か月も経っていないのに。

「本当に良く助け合ってやってくれたね。心から感謝します」

深く頭を下げると、二人も照れくさそうにペコリと一礼して戻っていった。

……ああ、院長が泣いてたって、またチャットで流されるのかな?(笑)

まったく、しょうがないなあ。

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