医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語

スピカナ

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749話 看病の始まり

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 看護部長から「時間を調整するから、ある程度の目安が欲しい」と言われた。

点滴の交換時間を逆算して、その時間を30分空けるようにしてくれるらしい。

少しだけ沈黙してから、看護部長が言った。

「理事は、絶飲食になるのでしょうか?」

「はい、最低でも約1週間続けて様子を見ようと思っています。その後はレントゲンの結果次第ですね。理事にとっては2回目のイレウスだから、分かっているとは思いますが……」

自分でも、声がわずかに強張ったのが分かった。

「朝はおそらく空腹が強く出ると思うので、6時から点滴を始めることにしました。

だから日中は、10時から30分間と、16時から30分間。それに18時から15分間を貰えると助かります」

患者の調整をしてその時間を空けてもらえるよう、看護部長にお願いした。


ふとした拍子に自分が上の空になっているのに気づく。

段取りの確認をしているふりをしながら、気持ちはずっと夏の枕元にいるようだ。


爪外来とフットケアについては、皮膚科の河野真知子先生に全面的にフォローをお願いした。

月・木・土曜の午前は、これまで通り心療内科。火曜は終日外科。

月曜と木曜の午後、それから金曜は終日、健康診断科を担当することにした。

金曜は、仁科先生が内視鏡に専念するため、花井先生の消化器内科をサポートする。

診察室は2階の健康診断科なので、患者さんの移動負担も最低限で済むはずだ。


今日の朝礼で、そのすべてをみんなに伝えないといけない。

伝えながらも、自分の声がどこか遠くに聞こえる。

冷静に振る舞えば振る舞うほど、自分の感情がコントロールできない。

「おはようございます。もうご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、浅田理事がイレウスを発症し、しばらく自宅療養となります。
午前10時から30分間、16時から30分間、そして18時から15分間、私が治療のため席を外させていただきます」

少し言葉を切ってから、静かに続けた。

「爪外来は、皮膚科の河野真知子先生に全面的にお願いしました。フットケアの皆さんにもご負担をおかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします。

また、火曜日の外科は終日私が担当します。健康診断科の診療時間にも変更があります。こちらにプリントを用意しましたので、後ほどお持ちください。

皆さんにはご迷惑をおかけするかもしれませんが、ご協力のほど、よろしくお願いいたします。――以上です。では、解散します」


朝礼が終わってざわめきが戻る中、足音を忍ばせるようにして近づいてきたのは管理の大野さんだった。

「……浅田理事は、大丈夫なのですか」

その問いかけは、形式的なものではなく、ほんの少し、沈んだ声だった。

「ありがとうございます。点滴治療なので、しばらく時間はかかりそうですが、大丈夫です。理事の不在中は、私がすべて対応しますので、何かあれば遠慮なくおっしゃってください」

平静を装って返したつもりだったが、自分でも分かる。

視線を合わせたまま維持することが、妙に難しかった。

そして心配するもう一人がいた。宮本君だ。

「院長、こんな大変な時に僕の代わりまでしていただいて、本当に申し訳ないです。理事が治るまで大学病院は休ませてもらいますから、その間は理事のそばにいてあげてください」

もう泣きそうな表情だった。

「大丈夫だよ。理事はもっと強い人だから心配しなくて大丈夫だから。それより大学病院は休んだらいけないよ。岩城がきっと系統立てて教えようとプログラムを組んでいるはずだからね。こっちの心配は要らないから、クリニックの為にもいっぱい覚えてきて欲しいよ。それが君の仕事だよ」

「はい、分かりました。頑張ってきます。ありがとうございます。理事をどうぞお大事にしてあげてください」

そういうと、吹っ切れたような足取りで帰って行った。

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