医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語

スピカナ

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751話 皆に励まされて

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 このまま一人でいるのは、やっぱりつらいんじゃないか……?

「夏、ここに一人でいるのはつらいか?」

思ったことを、そのまま口にする。

「日中だけでも、クリニックの5階の部屋に移ろうか? そこなら、誰かしら見てくれると思う。俺の仕事が終わったら、また一緒に帰ろう。どうする? 皆もすごく心配してくれているよ」

少し間をあけて、言葉を続けた。

「……日中は、5階に移ろうか? 一人じゃ寂しいだろう?」

夏の肩がわずかに動く。迷っているのか、それともただ、声を出すのが難しいのか。

「それに……今、下痢が続いているだろう?」

話しながら、彼の顔をじっと見る。

「俺が来れない時間は、男子ナースに交換を頼みたいんだ。それでもいいか……? いやか?」

夏は返事もできず、顔をしかめてつらそうに唸っていた。

そして、絞り出すような声で「……行く」と言った。

その言葉に、俺は静かに頷いた。「うん、分かった。行こうね」

「12時になったらまた戻るから、その時に身体を拭いてあげる。その後で移ろうね」

夏は、小さく頷く。力のない動きだったけれど、どこか覚悟したようにも見えた。

タオル、着替え、おむつ……、5階の部屋にも、必要なものをすべて準備しておいたほうがいいだろう。

一人で動くよりは、莉子にも手伝ってもらおう。

莉子もきっと、何かできることを探しているはずだ。

12時になり、自宅へ戻った。

まずは、点滴の交換、おむつの交換、清拭を済ませ、着替えさせる。

それから、うがいをさせて氷を含ませた。

夏を5階で日中過ごさせるために、必要なものをそろえる。

着替え、タオル、おむつ、洗面器、蓋付きバケツ、ビニール袋、使い捨てグローブ。消毒液、ティッシュ――ひとつずつ確認しながら準備した。

氷はクーラーボックスへ入れる。

コップと吸い飲み、スリッパも用意した。

これだけ揃えば、まるで普通の入院生活のようだ。

看護部長に伝える。

「浅田が痛みと孤独で、精神的に不安定になっています。そこで、5階の個室に日中だけ入院させようと思います」

それと、おむつ交換について相談する。

「自分が来られない時間は、男子ナースに頼めませんか?」

「すぐに手配します」

そして3階の男子ナース、岡本翔太君に依頼してくれた。

対応の速さに、胸の奥が少しほっとする。

看護部長が続けた。

「着替えや荷物があるでしょう? 誰か一緒に運んでもらいましょうか?」

いつもながら、気が利く人だ。

ありがたくお願いすると、彼女はインカムで呼びかけた。

「誰か理事のお迎えと荷物運びを手伝ってくれませんか?」

その声が響くや否や、本居君と荻野君――放射線技師コンビが手を挙げてくれた。

ほどなくして、車いすを持ってきてくれ、夏をベッドからゆっくりと移してくれた。

移動の途中、いろんなスタッフが顔をのぞかせ、次々に夏へ声をかけてくれた。

「浅田理事、無理しないでね」

「痛みが少しでも落ち着いたらいいんだけど……」

それぞれの言葉が、さりげない励ましと気遣いに満ちていた。

莉子も一緒に荷物を持って、ついてきてくれた。

そして声掛けをしてくれたスタッフに、身内として御礼を言ってくれた。

それが俺にはすごくうれしかった。

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