医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語

スピカナ

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778話 白昼の騎士・診療所に現る

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 身内の大きなイベントも無事に終わり、ホッとひと息ついた。

……が、その余波にいまだ苦しめられている。

死ぬほど恥ずかしかった「騎士」の扮装。

あれを見たスタッフたちに、クリニックでどれだけからかわれたことか!

もう、どこか遠くへ逃げ出したい……。

というか、なんでみんな知ってるんだよ?

昼休みに父から電話があった。

「お前、見たぞ! 派手にやってたなあ~感心したよ。莉子のために身を削って尽くしてるのがよく分かった。あははは」

___まとめると、そんな内容だった。ふん。

診療中、俺の顔を見るなり、患者さんがぷっと吹き出す。

かと思えば、苦しそうに顔を引きつらせている人もいる。……どういうことだ?

俺のほうが困惑した顔になるっての。

仕方なく看護部長に、患者さんの様子について聞いてみた。

すると、彼女は吹き出した。ぷーっと! 「ちょっと、何なんですか?」

「だって、無理ですよ、あれは……。知らないんですか? 院長の勇姿、テレビで放映されてましたよ。それも何回も!」

笑いをこらえながら、そう言った。

「ええっ? どういうこと?」

俺が戸惑って聞き返すと、今度は得意げな笑顔でこう言った。

「ちなみに、せっかくの院長の晴れ姿なので録画しておきました。たまに観て楽しませてもらってます。……多分、みんなそうだと思いますけど?」

そう言いながら、スマホを操作して録画データを俺の携帯に転送してくれた。

御礼を言って、院長室へ大急ぎで戻った。

そこで、あの録画を観た——。

ええっ? これ……なんだよ!?

莉子や桃香の扮装は可愛く映っている。が、俺の騎士姿はどうだ?

恥ずかしさの極みだろ……。

しかも顔がバッチリ大写しで、俺だってバレバレじゃないか。

その瞬間から、めまいと吐き気が襲ってきた。

どうしてくれるんだ……俺の肖像権、返せ! 一億円じゃ足りないぞ!

すぐさま夏に電話した。

「お兄さん、今寝ようとしてたんですけど……何ですか?」

「おい、夏! 俺の恥ずかしい姿がテレビで流れてんだぞ!患者さんたちが、俺の顔を見るたび笑い出すんだよ!これで診療なんてできるか!? 恥さらしの見世物じゃないか!もう人前に出られないよ。一億円で済む話じゃないからな!」

そう怒鳴って、捨て台詞とともに携帯をガチャッと切ってやった。

憤懣やるかたない……。どうすりゃいいんだ?

もう、何も考えられなかった。

とにかく、こうなったら、まるで何事もなかったかのような顔で診療を終えた。

それにしても……今日一日で、どれだけエネルギーを消耗したことか。

早く帰ろうと思った矢先、莉子から電話がかかってきた。

「春ちゃん、大変よ! 早く帰って来て!」

あわてて看護部長に後を頼み、急いで帰宅した。

すると……リビングには外国人の子どもたちがぎっしりいた。

「春ちゃん、みんな桃香のインターのクラスメイトなの。春ちゃんの“カッコいい姿”がすごかったって言って、サインが欲しいって来ちゃったのよ。で、親御さんたちが下で待ってるから、早くサインして渡してくれない? もう夜なんだからさ」

ええっ!? ちょ、ちょっと待てよ……サインって何だよ。

そこへ夏が起きてリビングにやってきた。

「はあ? なんだ、これは……?」俺とまったく同じことを言っている。

莉子が今度は夏に事情を説明していた。

すると夏が英語で、「Okay, he’s going to sign now, so please line up one by one!これからサインするから順番に並んでね」と子どもたちに言った。

そしたら、さーっと整列してさ……。

みんなノート持参で来てるし、もう、しょうがないからサインしてあげたよ。

アルファベットでさ~……もう、ほんとに勘弁してくれって。

なんで俺はこんなアホなことをやっているんだ?

桃香はご機嫌で、玄関で一人ひとりに「イエ~イ!」とハイタッチしてバイバイしていた。

最後の子が帰ったあと、俺は桃香に聞いた。

「桃香、これ……いったいどういうことなの?」

莉子も横で頷きながら、「ほんと、どういうこと?」と一緒になって聞いている。(笑)

向こうの方で、夏が腕を組んでニヤニヤしていた。くそ夏め……!

「だって、学校に行ったら、みんなが私を取り囲んで『すご~い!』って。私、スターになっちゃったんだもん。
しかも、『パパが最高にカッコいい!』って言われて、『会いた~い!』ってみんなが言うから、『じゃあ会いにくれば?』って言ったら、本当に来ちゃったんだもん。
でもね、パパってほんとに最高にカッコよかったよ! パパ、だ~い好き!」

そう言って、桃香が俺の腰にぎゅっと抱きついてきた。

……はあ。

向こうで、夏と莉子がヘラヘラ笑っていた。くそーーっ!
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