医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語

スピカナ

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777話 春樹の出演料

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 店の外がどれだけ騒がしかったのか、まったく知らなかった。

あとで、お父さんが録画係をしてくれていた映像データを見せてもらって、

「どのくらい並んでたの?」と尋ねてみた。

――やっぱりか。

前の晩から並び始めたらしく、列はずらっと長く続いていた。

通行人たちも、「何事か?」とキョロキョロ列を眺めている。

「こちらが最後尾です!」の立て看板をはじめ、

いくつも用意された案内板が、ちゃんと機能していた。

……なんだか、悔しい。

何もかも夏の読みどおり。

それが、妙に悔しい。

「そうですか……こっちは死ぬ思いなんですよ」と、俺はこっそり莉子に漏らした。

すると――

「春ちゃん、笑顔を忘れないで。桃香のデビューなんだよ? もし失敗したら、かわいそうでしょう?」

……笑顔のまま、さらりときついことを言ってくる。

莉子は、もしかして役者なのか??

そんな中、桃香がときどきにっこりと、嬉しそうに俺を見てくる。

「パパ! かっこいいよ~!」

……せいいっぱい褒めてくれてるのは分かるんだけどさ。

……あんまり、嬉しくないんだよな。


店頭のテーブルの上には、商品が山のように積み上げられていた。

それを販売するのは、カンパニーのスタッフたち。

そしてその横で、壇上でマネキンのように立たされる俺たち一行。

そこへ、女性の司会者が登場。

莉子や桃香へのインタビューで、ゲームの裏話やよもやま話を紹介し、

集まった人たちを楽しませる――そんなイベントらしい。

……なんだか、莉子も桃香も見世物扱いになっていた。

……いや、俺もだ。地獄だよ、これは。

いったい誰が、こんな企画を考えたんだよ……??

苦労して医者になったというのに。

俺はいま、いったい何をやっているんだ?

しかも、<>ってどういうことだよ。

許せん。絶対にあとで夏に抗議してやる。

けれど、並んでいた列は意外なほど整然としていて、販売はスムーズに進んでいた。

俺たちや司会者の声も、店内だけでなく、外からも聞こえるように音響が組まれていたらしい。

――そして、極めつけ。

ビルの壁の巨大なモニターに、俺たちの姿がばっちり映し出されていたらしい。

……それは、まったく知らなかった。

もしその場で気づいていたら……

きっと俺、一人でこっそり逃げ出してた。間違いなく。


あの様子を知ったのは――お父さんの録画だった。

……しかしまあ、お父さんはどう思ってたんだろうね。

今回も、お母さんが荷物番として手伝いに来てくれていた。

ほんと、どれだけ支えられてるんだか。

そんな感じで、俺はテレビカメラがどこで撮影していたのかなんて、まったく気づいていなかった。

あのイベント――2時間だったらしいけど、

……俺にとっては、とんでもなく長かった!


そして翌日、日曜日。

俺はさっそく夏に請求書を持っていった。

「夏。これ、俺の出演料だから。頼むよ」

――請求額:1億円。

ふふふ、内心で笑ってやった。

夏はと言えば、何事もなかったように「了解です」と澄ました顔。

……ふん、なんだよその態度。

俺は一世一代の恥をさらしたんだからな? 思い知れっての!

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