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王子様?
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どうしてもこのままでは嫌だった。何か言いたくて、何かをしたくてもどかしかった。
それでも私は部屋から追い出されてしまうから、粗末な馬車に乗り込む。
王子の婚約者ではなくなった私はなんの価値もないただの女へと成り下がったのだ。
元々可笑しい話だった。身の程知らずの両親が勝手に結んだ婚約だった。王子と醜い女なんて釣り合わない。
だからなのだろうか? だから、私はこのような仕打ちを受けているのだろうか? 私は誰かに聞きたい。誰でもいい、それが乞食だったとしても、メイドだったとしても、誰だっていい。私の行動について正しい意見を述べてくれるのならば、誰だって。私が一度だって間違ったことをしただろうか?
私はしてないと思うのだ。何一つとして間違ったことはしていない。
人を愛したからといって、それがどうして悪いことなのだろうか? どうして辱めを受けなければならないのか? どうして貶されなければならないのか?
可笑しい、可笑しい、可笑しい、可笑しい。
私はあの人を愛しただけ。あの人は私だけの王子様だったのだから、私がどうしたって良かったはずなのに。
ガタン、と大きな音がする。粗末な馬車だから、座席もふわふわではないし道を走ればガタガタと今にも壊れそうな音がする。馬車を引いている馬だって年老いてあまり力のないものだから、スピードも付かない。
私はその音を聞いて、やっと正気を取り戻した。
私は、考えなければならない。これからの私の身の振り方を、真剣に考えなければいけない。そうしないと人生が狂ってしまう。今よりももっと悲惨なものになってしまう。狡猾な両親と冷たい世間の人々から勝たなくてはいけない。
もし殿下が私のことを醜いと言わなければ、きっと私はそのまま何もしないで流れに身を任せていただろう。でも、殿下が私のことを醜いのだと言ったから、殿下の鼻を明かしてやりたいと思っている私が生まれた。
私は修道院なんて行きたくない。あんなジメジメとした古臭いところに閉じ込められて、贅沢なことも一切できずに一人で寂しく死んでいくのなんて耐えられないだろう。子供に慈悲深く接する事なんて出来ないし、他人を思いやってなんでも許してあげられる立派な人にもなれない。それに、私は神というものを信じていない。教会にも行くし、お祈りだって毎日欠かさずするけれど、神様は一度だって私を救ってくれやしなかった。
かといって、誰かに殺されるのも嫌だった。
昔の彼に会いたい。私だけの王子様にすがりたい。
妖精姫と一緒に私を裏切った私だけの王子様は、いつまでも私の王子様のままなのだから。
この顔さえなかったのならば、この顔が異常でなかったなら! そうして彼と出会えたのならば、どんなに幸せだったろう?
私は妖精姫には敵わない。それは仕方のないことだ。だけど、もう一度だけ優しい殿下に会うことができるになら、私はその後自分がどうなったっていい。
もう一度、私に向かって優しげな視線を送ってくれたのなら、キスをしてくれたなら。
その考えは、無謀なものではない気がした。
屋敷に戻っても、誰も迎えに来る者はいない。私は誰にも付き添われずに屋敷へと入る。そっと、誰にも気がつかれないように。
屋敷の中はなぜか静まり帰っていて、私がどれだけ足音をたてないように意識して歩いても、大理石の床に音が響き渡った。
だから気づかれた。今まで閉まっていたドアが開いたのだ。
そこに居たのは、ニヤついた母。何が面白いのかニヤニヤと笑い続ける。
「あなた、王子様に捨てられたんですって?」
私は何も言えずに黙り込んだ。
「まぁ、元々釣り合ってなかったもの。仕方ないわよ、貴女と王子様よ?」
ねっとりと笑う母の目は私を見て嘲笑っている様だった。
「……お母様」
「母親にそんな目をして……本当のことを言っただけよ」
私を見る目が、急に鋭いものへと変わる。そんなつもりで母を見たわけではないのに。
「もう、いいわ。私は部屋に戻ればいいんでしょう? 貴女は修道院に入るのよ。もう旦那様がお決めになったわ。1週間後に貴女はアントワーヌ修道院へと入るのよ。厳しい修道院だというから、貴女の醜い心根も、その顔の醜さもどうにかなると思うの。」
ふふふ、と母は笑った。私の醜い心根が、私の醜い顔が、どうして修道院に入れば直ると思うのだろう?
アントワーヌ修道院は、時に死者まで出している劣悪な修道院だ。飢え死にして死ぬ者もいれば、凍死して死ぬ者も、激しい折檻の末に死ぬ者もいると聞く。そんな修道院に入れられるのは、家族から不要と見なされた女達。要らないと言われた女。
私は「家族」に死ねと言われているのだ。
私が醜いから、なのだろうか。私は捨てられて不用品になったからだろうか。使えない、使わない物になったからなのか。この家の完全な荷物になった。荷物よりも酷いかもしれない。今の私はただのゴミだ。だから死ねと。私に、死ねと言うのか。
この醜さのせいで、このせいで私はめちゃくちゃになった。めちゃくちゃに、ぐちゃぐちゃに。私の生きている価値などないと知らしめられた。
醜ければ幸せになってはいけないだろうか? 醜かったら美しいものに近寄ることすらも許されないのだろうか? 醜ければ、死ぬしかないのだろうか?
私は周りにそう言われているのだ。
悔しくて、思わず手を握りしめる。皮膚に爪が食い込むのが分かったけれどそれほど痛みは感じなかった。
「……お母様、それは本当のことなのですか」
母と目が合わないように下を向いて聞く。私の目には、未亡人が着るようなグレーの色のドレスが映った。
「ええ、勿論。旦那様の口から直接聞いたのよ。貴女のこと、少しは気の毒だと思うわ。……可哀想にね? 来世は美しく生まれられるように願っているわ」
それでも笑みを絶やさずに、残酷に母は私に告げた。なぜ、と問う声も口にする前に消えてしまった。
美しく? 美しく生まれたらいい、と? なんでお前がそれを言うのだ、と罵りたくなる。
それでもそれは事実だから、何も言い返すことはできない。
だから代わりに告げた。
「ええ、わたくしもそう願っておりますわ。どうもありがとうございます、お母様。寛大な心に感謝致します。……でも、こんなに醜いわたくしを産んだのはお母様ですのよ。」
この人と会うのももう最後だろうから、私は笑った。
それでも私は部屋から追い出されてしまうから、粗末な馬車に乗り込む。
王子の婚約者ではなくなった私はなんの価値もないただの女へと成り下がったのだ。
元々可笑しい話だった。身の程知らずの両親が勝手に結んだ婚約だった。王子と醜い女なんて釣り合わない。
だからなのだろうか? だから、私はこのような仕打ちを受けているのだろうか? 私は誰かに聞きたい。誰でもいい、それが乞食だったとしても、メイドだったとしても、誰だっていい。私の行動について正しい意見を述べてくれるのならば、誰だって。私が一度だって間違ったことをしただろうか?
私はしてないと思うのだ。何一つとして間違ったことはしていない。
人を愛したからといって、それがどうして悪いことなのだろうか? どうして辱めを受けなければならないのか? どうして貶されなければならないのか?
可笑しい、可笑しい、可笑しい、可笑しい。
私はあの人を愛しただけ。あの人は私だけの王子様だったのだから、私がどうしたって良かったはずなのに。
ガタン、と大きな音がする。粗末な馬車だから、座席もふわふわではないし道を走ればガタガタと今にも壊れそうな音がする。馬車を引いている馬だって年老いてあまり力のないものだから、スピードも付かない。
私はその音を聞いて、やっと正気を取り戻した。
私は、考えなければならない。これからの私の身の振り方を、真剣に考えなければいけない。そうしないと人生が狂ってしまう。今よりももっと悲惨なものになってしまう。狡猾な両親と冷たい世間の人々から勝たなくてはいけない。
もし殿下が私のことを醜いと言わなければ、きっと私はそのまま何もしないで流れに身を任せていただろう。でも、殿下が私のことを醜いのだと言ったから、殿下の鼻を明かしてやりたいと思っている私が生まれた。
私は修道院なんて行きたくない。あんなジメジメとした古臭いところに閉じ込められて、贅沢なことも一切できずに一人で寂しく死んでいくのなんて耐えられないだろう。子供に慈悲深く接する事なんて出来ないし、他人を思いやってなんでも許してあげられる立派な人にもなれない。それに、私は神というものを信じていない。教会にも行くし、お祈りだって毎日欠かさずするけれど、神様は一度だって私を救ってくれやしなかった。
かといって、誰かに殺されるのも嫌だった。
昔の彼に会いたい。私だけの王子様にすがりたい。
妖精姫と一緒に私を裏切った私だけの王子様は、いつまでも私の王子様のままなのだから。
この顔さえなかったのならば、この顔が異常でなかったなら! そうして彼と出会えたのならば、どんなに幸せだったろう?
私は妖精姫には敵わない。それは仕方のないことだ。だけど、もう一度だけ優しい殿下に会うことができるになら、私はその後自分がどうなったっていい。
もう一度、私に向かって優しげな視線を送ってくれたのなら、キスをしてくれたなら。
その考えは、無謀なものではない気がした。
屋敷に戻っても、誰も迎えに来る者はいない。私は誰にも付き添われずに屋敷へと入る。そっと、誰にも気がつかれないように。
屋敷の中はなぜか静まり帰っていて、私がどれだけ足音をたてないように意識して歩いても、大理石の床に音が響き渡った。
だから気づかれた。今まで閉まっていたドアが開いたのだ。
そこに居たのは、ニヤついた母。何が面白いのかニヤニヤと笑い続ける。
「あなた、王子様に捨てられたんですって?」
私は何も言えずに黙り込んだ。
「まぁ、元々釣り合ってなかったもの。仕方ないわよ、貴女と王子様よ?」
ねっとりと笑う母の目は私を見て嘲笑っている様だった。
「……お母様」
「母親にそんな目をして……本当のことを言っただけよ」
私を見る目が、急に鋭いものへと変わる。そんなつもりで母を見たわけではないのに。
「もう、いいわ。私は部屋に戻ればいいんでしょう? 貴女は修道院に入るのよ。もう旦那様がお決めになったわ。1週間後に貴女はアントワーヌ修道院へと入るのよ。厳しい修道院だというから、貴女の醜い心根も、その顔の醜さもどうにかなると思うの。」
ふふふ、と母は笑った。私の醜い心根が、私の醜い顔が、どうして修道院に入れば直ると思うのだろう?
アントワーヌ修道院は、時に死者まで出している劣悪な修道院だ。飢え死にして死ぬ者もいれば、凍死して死ぬ者も、激しい折檻の末に死ぬ者もいると聞く。そんな修道院に入れられるのは、家族から不要と見なされた女達。要らないと言われた女。
私は「家族」に死ねと言われているのだ。
私が醜いから、なのだろうか。私は捨てられて不用品になったからだろうか。使えない、使わない物になったからなのか。この家の完全な荷物になった。荷物よりも酷いかもしれない。今の私はただのゴミだ。だから死ねと。私に、死ねと言うのか。
この醜さのせいで、このせいで私はめちゃくちゃになった。めちゃくちゃに、ぐちゃぐちゃに。私の生きている価値などないと知らしめられた。
醜ければ幸せになってはいけないだろうか? 醜かったら美しいものに近寄ることすらも許されないのだろうか? 醜ければ、死ぬしかないのだろうか?
私は周りにそう言われているのだ。
悔しくて、思わず手を握りしめる。皮膚に爪が食い込むのが分かったけれどそれほど痛みは感じなかった。
「……お母様、それは本当のことなのですか」
母と目が合わないように下を向いて聞く。私の目には、未亡人が着るようなグレーの色のドレスが映った。
「ええ、勿論。旦那様の口から直接聞いたのよ。貴女のこと、少しは気の毒だと思うわ。……可哀想にね? 来世は美しく生まれられるように願っているわ」
それでも笑みを絶やさずに、残酷に母は私に告げた。なぜ、と問う声も口にする前に消えてしまった。
美しく? 美しく生まれたらいい、と? なんでお前がそれを言うのだ、と罵りたくなる。
それでもそれは事実だから、何も言い返すことはできない。
だから代わりに告げた。
「ええ、わたくしもそう願っておりますわ。どうもありがとうございます、お母様。寛大な心に感謝致します。……でも、こんなに醜いわたくしを産んだのはお母様ですのよ。」
この人と会うのももう最後だろうから、私は笑った。
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