スキルテスター!本来大当たりなはずの数々のスキルがハズレ扱いされるのは大体コイツのせいである

騎士ランチ

文字の大きさ
6 / 55
第一章バカヤロウやらかし編

やらかし5:バカヤロウ、アイテム増殖で体内の食べ物倍々ゲーム。後、大賢者うるさい

しおりを挟む
「今日のスキルはアイテム増殖や」
「オロロロロ!」

 テスターの耳にはヒースの説明は入ってこない。目が覚めてからずっと嘔吐が止まらないからだ。アイテム増殖のスキルのせいで腹の中のご飯が倍々ゲームで増え続け、いくら吐いても腹が膨らみ続けるのだ。

「おーい、馬鹿金髪。大丈夫かー?」
「だず、げ、で」

 口と尻から未消化の食べ物を出し続けるもアイテム増殖のペースには追いつかず、腹だけではなく全身が肥大化していく。そして、遂に限界は来た。

「あ、ば、ぶぇ」

 意味の通じない悲鳴を漏らし、テスターは破裂した。無論即死である。しかし、地獄はまだ終わらない。

「オロロロロ!」
「おっ、復活したか」

 自動復活によりテスターの死体は消え、数秒後ベッドの上に出現する。当然、昨日の夕飯は腹の中で、アイテム増殖も健在だ。

「オロロロロ!」 

 破裂。

「オロロロロ!」

 窒息。

「オロロロロ!」

 破裂。

「オロロロロ!」「オロロロロ!」「オロロロロ!」

 大量出血。破裂。破裂。

「頑張れー、後二十二時間で日替わりスキルが別のになるでー」
「でめ、え!あどで、ごろず」
「何時どんなスキルを授けるかは神様の判断なんや。アタシは関係なくない?」

 その後、十二時間が経過した。テスターは五分に一度のペースで死に続け、ヒースは床に散らばる吐瀉物を掃除し続けた。

「はい、バケツとナイフ」

 テスターが再出現した場所に、ヒースは慣れた手つきでバケツとナイフを渡す。

「サンキュ。よっと」

 テスターは受け取ったナイフで、自らの心臓を一突きする。死亡回数が百を超えた辺りからテスターはこの状況からの生還を諦め、いかに苦しまずに翌日を迎えるかに考えをシフトした。そして、ナイフによる自害を繰り返し、心臓を一突きするスタイルに到達したのだった。

「あー、意識が遠のいていって何も感じねー。ははっ俺の腹、妊婦みてー」
「妊婦さんはそんなキモくないわ」
「だよなー」

 自分の腹が膨張し蠢くのを、他人事の様に観察しながらテスターは眠る様に死んでいった。

■ ■ ■

「なあ、何でナイフやバケツはスキルの効果で増殖しなかったんだ?」

 死にまくりの一日を無事に乗り越えたテスターは、自害ループの間に浮かんだ疑問をヒースに聞いてみた。

「ああ、それはな」
『解説しましょうぞ!アイテム増殖のスキルは!一度に一種類のアイテムしか増やせず!優先順位は!貴方の肉体により密着している!より意識しているアイテムから増殖の対象になるのだからですぞおおおお!』

 ヒースからの回答を掻き消す勢いで、頭の中に凄くやかましい回答が響く。声はすれど姿は見えず。まるで、初めて会った時のヒースの様だとも思ったが、この声は自分の傍ではなく完全に頭の中から響いている。

「誰だお前!」
『申し遅れましたぞ!吾輩はマーガレット!そこにいるヒースどのと同じく神によって作られた天使の一体ですぞ!そして、スキル大賢者として!貴方様の疑問に何でもかんでも答える役目を与えられし存在ですぞおおお!』
「た、大賢者?」
『本日の日替わりスキルですぞ!さっきも申しましたが、質問に答えますぞ!後、吾輩との会話は言葉は不要ですぞ!脳内で質問内容を思い浮かべたら、吾輩がお返事する仕様ですぞ!』

 今日のスキルにも苦しめられそうだという事は理解したテスターは、まずは改めてヒースにこの大賢者について聞く事にした。

「なあ、ヒース」
『吾輩は天使にして大賢者マーガレットですぞ!』
「今日のスキルって」
『吾輩はマーガレットですぞ!』
「いや、俺はお前じゃなくてヒースに」
『吾輩は!マーガレット!ですぞおおお!!』
「うがー!」

 テスターは頭を抱えた。何か思う度に、それに対する回答をマーガレットが頭の中で大声で叫ぶから、他人とのコミュニケーションどころじゃない。そんな風に苦しむテスターを見て、ヒースは腹を抱かえて笑っていた。

「うぷぷっ、その様子やとお前の頭ん中でマーガレットの奴が大暴れしとるみたいやな」
『ヒースどのは貴方様が苦しむ姿を見て心から喜んでますぞ!これは、ヒースどのがスキル試用者の反応を観察する事を目的として作られた天使だからですぞ!』
「お前ら二人共黙れ!…あ、そうだ。なあ、マーガレット。お前を黙らせるにはどうしたらいい?」

 最近苦労続きだったせいか、今日のテスターは珍しく頭の回転が速かった。問題を解決する為のスキルが煩いという問題を、問題を解決するスキル本人に解決させようと考えたのだ。いつものテスターだったら、この考えに至るまでに一日が終わっている所さんである。

『お答えしましょうぞ!吾輩の!声は!スキルの使用をオフにする事で消せますぞ!』
「スキルをオフ?つーか、スキルって俺の意思でオンオフできるモンなのか…?」

 テスターはこれまでの事例を思い返す。鑑定の時から今回の大賢者まで基本的にスキルを入手した瞬間か、朝ベッドで目覚めたタイミングか、スキルを自覚した時にスキルが発動し垂れ流し状態になっていた。

 いや、一度だけスキルをオフに出来た事がある。現代日本知識の時だ。あの時は頭の中に流れ続ける知識を必死に止めようとした結果、その時点で夢から覚め精神の崩壊を防ぐことが出来た。その代わりに、半端な知識を得たせいで自滅してしまったが。

 しかし、命の危険を感じた事でスキルのオンオフに成功したのだとしたら、何故無詠唱魔法の反動で天井に激突した時や昨日のアイテム増殖の時に止まらなかったのだろう。

『それは貴方様が本気で止めようと思わなかったからですぞ!』
「いや、本気で止めようとしたよ!だって死ぬんだぞ!」
『しかし!今の貴方様には自動復活がありますぞ!それに甘えるから!肉体の死は貴方にとって危機ではないですぞ!だから!貴方様はスキル出っぱなしなんですぞ!』

 マーガレットからの回答を聞き、テスターはハッとする。確かに、テスターは自動復活があるからと肉体の死を軽視していたフシがある。

「お前の言う通りだよマーガレット。俺はスキル自体への好奇心と死んでも生き返る余裕から試用者としての心構えをなくしていたのかも知れない。これからは、スキルをとりあえず使ってみるという考えじゃなく、スキルをどう使ったら強くなれるかを考えてみるよ」
『そうしてもらえると!吾輩やヒースどのも!神様も!助かりますぞ!』

 こうして、スキルに対する考え方を改めたテスターは、その日はずっと部屋に留まり、スキルのオンオフを切り替える練習をした。スキルの使用に集中し続けると、あれ程やかましかったマーガレットの声が次第に小さくなっていき、日付が変わる頃には自在に呼び出せる様になっていた。

『大賢者、質問するから出てきてくれ』
『吾輩に何の用ですかな?』

 直接声には出さず、心の中で呟くと程よい声量でマーガレットの声が返ってきた。

『もうすぐ、お前ともお別れだな。今日は色々とありがとう』
『こちらこそ、スキルの試用者様が真摯にスキルに向き合ってくれて感謝ですぞ』
『今日覚えたスキルのコントロールは、きっと明日以降も役に立つと思う。本当にありがおう。でもさ』
『どうしましたぞ?』
『ヒースが居るなら別にお前いらなくね?』
『それを言っちゃあ、おしまいですぞー』

 悲しそうな声と共にマーガレットの存在はテスターの脳内から消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

処理中です...