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【3】氷の修道院
【3】氷の修道院……③
しおりを挟むミアはふと、洞窟でのことを思い出していた。
(……あの洞窟で、私は何をやってたんだ)
動物同士の交尾は首都でも見かけた。犬の交尾だ。雌犬の尻に陰茎を挿入させた雄犬が、腰を振って種付けしていた。もっと驚愕したのは、馬の交尾でーー。
(交尾とは、少し違うな……。雄同士だったし)
陰茎の挿入はなかった。断じて、それは言いきれる。記憶は定かではないが、あんな大きさの物を挿入されたら、死ぬに決まってる。
あの時の身体の変化が何だったのか、分からない。アヌスから体液が溢れる感覚も身体の芯に入り込んだ熱も今はなく、いつも通りだった。
「それはまずい。ミアの美しい身体が誰かに見られるのは、僕も嫌だ」
思いに耽っていたミアはハッとした。シャノンは部屋にあるクローゼットへ向かい、何やら漁っている。
「これなら着られるかな」
「はい」
「ミア。顔が少し赤いけど、大丈夫?」
「だ、だ、だ、大丈夫です」
ろくな荷物を持たずに首都を離れてしまったから、当然ながら着替えなどない。地下へ帰るときに着用する勲章がついたままの制服が失くなったりしないか、ミアは心配だった。
「感謝します」
「着せてあげるね」
何から何まで甘やかすシャノンに、ミアは戸惑っていた。が、今はそんな事に構っている場合ではない。
ブラウスを肩にかけられたミアは窓の外を気にしながら、急いで袖を通した。シャノンはまだ裸だが、ここは貧弱な身体を晒さないためにも、自分の操だけは死守したい。
いいんだ、筋肉がある奴は。基本的に見せたくて仕方ないのだから。
シャノンが一緒に持ってきた靴下と膝までのショートパンツ。首都で耳や尻尾の生えた獣人の子供たちの定番スタイルだった。
アバヤ着用の厳守が派遣規定にあったかどうか覚えがない。が、背に腹は代えられず、シャノンがブラウスのボタンを留める傍からショートパンツを穿いた。靴下も履いてみたが、スルッと落ちてしまう。
「ミア、ベッドへ腰かけて」
「そんな時間ないです。もう着きますよ、あの鳥」
「ああ、アルマは僕が合図を送るまでは旋回を続けるよ」
「今、アルマ様の話はしていませんよね」
「飛んでるじゃない?」
ミアは改めて窓の外を見た。大きな大きなシロフクロウだ。真昼の陽射しを浴びた真っ白な羽根を輝かせながら、城の周りを確かに旋回している。
「シロフクロウですよね」
「さすが、ミア。動物に詳しいね」
シャノンはミアの膝下にソックスバンドを締め、パチンと靴下を止める。そして綺麗に磨き上げられた見慣れたブーツを履かせ、何度かやり直して蝶々結びにしてくれた。
「僕が小さい頃に着ていた服、今のミアにぴったりだと思ってヴィラジーミルに出してもらって正解だった。立って見せて、ミア」
シャノンがミアを頭の先からつま先まで眺め、ふわっと微笑む。胸元にリボンがついた真っ白なブラウスに、同色のショートパンツ。ミアの右手を上へ引っ張ったシャノンは、クルッと回ってみてと言う。
人肌に触れることに嫌悪感を持っていたはずなのに、手を握られても不思議と嫌ではなかった。
わけが分からず、ミアは右足を軸にしてふらつきながらクルッと回る。長い髪がまるでスカートのように放射線状にふわっと広がり、シャノンが嬉しそうに手を叩いていた。
「可愛い!ミア」
身体に少しだけ違和感を感じた。
運動神経は悪くない。派遣研修でもそれなりに上位に食い込んでいたと言うのに、片足で回るだけなのにふらついた。単に慣れないことばかりで少し疲れているのか、少しだけ気になる。
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