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しおりを挟む私はゆっくりと覚醒した
あなたを探すために
あなたに会いたい
あなたの芳しい香りを胸いっぱい吸い込みたい
貪るようにあなたを愛したい
今度こそ、あなたを離しはしないだろう
どこまでもいっしょに連れていく
◇◇◇
「また、変な夢を見ちゃった」
食堂で朝ごはんを食べながら、ルームメイトの志垣くんに言うと、彼はにっこり笑った。
「それはわたるんが愛らしいから、誰かの恋心が夢に届いちゃうんだよ。俺のかな?」
そんなことってあるのかなあ。志垣くんは、いつもいい加減なことばかり言う。
彼はほんとにいい加減、おまけにいじわるだ。
このまえ授業が突然変更になっても教えてくれなかった。ぼくは彼と机をくっつけて、教科書を見せてもらうはめになった。
美術の先生が前日に絵の具を持ってくるように言ったのも黙ってた。友だちの顔を描く授業だったから、絵の具を借りる手前、しぶしぶ彼の顔を描いた。うんとブサイクにしてやった。
「ぼく、志垣くんのこと、信用しないから!」
「わたるん、俺のこと嫌いなの?俺泣いちゃうよ。みんなの前で号泣するよ」
「志垣くんのそういうとこ嫌い」
すると、志垣くんはしくしく泣き始めた。かっこいいのに、イケメンなのに、全部台無しだ。
ぼくが彼の背中を撫でながら、「うそだよ」って言うと、拾われた捨て猫みたいな顔で見上げて「俺のこと捨てないでね」って、すがりついくる。そもそも拾ってないし。
志垣くんとの関係は、ぼくが幼稚園に入ったときから始まる。
入園式で、お母さんたちが、すごく顔が整った幼児がいると、キャーキャー騒いでたから、ぼくも見に行ったんだ。
一人でジャングルジムに登って、遠くの空を見ている彼は、小さいくせに、確かにイケメンで、人を寄せ付けない凛とした風格があった。
何を見ているんだろう。ぼくもジャングルジムに登ったらわかるかな?好奇心で近くまで行ってみると、彼がこっちをキッってガン見したんだ。
そして、すごい早さでジャングルジムを降りてくると、ぼくの前に跪いた。
「けっこんしてください!」
男同士で結婚出来ないの知らないんだって思って、教えてあげたんだ。
「それは、むり」
彼の黒目がちな大きな瞳に、みるみるうちに涙が盛り上がって、ぼくが驚く間もなく「ギャー!」て泣いた。怪獣みたいだった。
お母さんたちが飛んできて、大騒ぎになったけど、ぼくは何もしてないし、結婚を断っただけだと言うと、一人のお母さんが、ぼくと志垣くんをぴとってくっつけたの。なかよくしなさいって。
志垣くんは、たちまち泣き止んで、ぼくに後ろから抱きつくと、頭のにおいを思いっきし嗅ぎはじめて、うっとりしてた。キモ。
お母さんたちは、「仲がよいのね!」って喜んで、幼稚園、小学校、中学校と腐れ縁。いつの間にか、朝はうちに迎えに来て、帰りはうちに送ってくるついでに晩ごはんまで食べるというルーティンが出来上がっていた。
「志垣くん、うちで毎日晩ごはん食べるのおかしくない?食費かかるじゃん?」
ってお母さんに言ったら、志垣くんは"心の栄養"だからいいんだって、不思議な返事がかえってきたっけ。
全寮制の高校に入っても、志垣くんはついてきて、同室のルームメイトになってしまった。
それはいいんだけど、毎朝ぼくのふとんにもぐりこんで、耳元に「おはよう」ってささやくのやめてほしい。
◇◇◇
志垣九郎くんは、美しい。髪はカラスの濡れ羽色、肩までサラリと流れるような見事なストレート。
ぬばたまのような瞳、古典の授業で先生が"ぬばたまの実"を見せてくれたから知ってる。真っ黒でつるつるで光を反射する実、まさしくあんな感じ。彼のぬばたまは、長いまつ毛の奥で、いつも輝いている。
色素の薄い白い肌と、血を透かしたような赤い唇は、西洋の吸血鬼みたい。彼が平凡な高校生と一線を画すのは、このミステリアスな色合いもあるのかもしれない。
しかし、残念なことに、志垣くんは、ぼくのことが大好きな変態イケメンだ。おかげで、ぼくは『独占欲』と聞けば、志垣くんを思い出すし、『執着心』と聞いても、やっぱり頭に浮かぶのは、志垣くんなのだった。
ぼくに近づくものは、クラスメートでも、学校の先生でも、間に志垣くんを挟むことになっている。挟まないと――志垣くんが「ギャー!」って叫ぶ。おかしい。ほんとやめてほしい。
ぼく、茨木恒はと言えば、普通の黒髪に普通の黒目、平凡の凡だ。唯一のとりえは、体から、なんか花のようないい匂いがすること。そんなの人に教えたくないから、なんのとりえもなくていいのだ。
中学校の課外授業で訪れた、動物園の昆虫館では、ぼくの匂いを感知して、体に留まろうと群がる大量の蝶と、それを阻止しようとする志垣くんで、結構な騒ぎになった。ぼくは隣でギャーギャー叫ぶ志垣くんを見ながら、蝶って音が聞こえるのか気になった。後で調べてみたら、前肢に音を感じる器官があるらしいよ。
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