カラスの志垣くん

まめ

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 一度、冗談で聞いてみたことがある。

「志垣くん、ぼくたちは、前世でなにかつながりでもあったのかな?」

「わたるん、やっと思い出してくれたのか。俺はうれしい……」

 いつものように、志垣くんの麗しの瞳に涙が浮かぶ。いや、ぼくは尋ねただけで、思い出したわけじゃないし。え?そんなつながりがあるの?ぼくたちに?
 ぼくの頭の中でロックバンドが歌を歌い出した――君の前前前世からー♪

 そして、志垣くんは、ゆっくりと語り始めた。それは壮大にバカらしいお話だった。

「んんっ、それではご期待に応えまして。……俺は前世でカラスだった。自分でいうのもなんだが、見事なクチバシと美しい漆黒の羽を持った立派なカラスだったんだ。
 わたるんは、愛らしい薔薇のつぼみだった。固く閉じたピンク色の花弁、端にいくにつれ、ほんのりと赤く染まっていく、実に魅力的な、そう!マーベラスなつぼみだった。……ふぅ。
 カラスは光るものを好むというが、俺はそれだけじゃない、美しく芳しいものが好きだった。
 初めてわたるんを見かけた日から、気にかかって、毎日俺は公園に通ったものだよ。君が花開く日を待ち望んでいたのさ。
 そして、時が来て君は、ついにその美しい内海を開いてくれたんだ。はぁっ、……えにいわれぬ芳香を放つ、ピンクと赤が交差する可憐なラビリンスが、そこにあった。はにかむように、俺に真の姿を見せる、初々しい君……。
 俺は、そんな君――わたるんに、一目で恋に落ちたんだ……」

「ふーん、志垣くん、その話まだ続くの? ぼく、数学の宿題がしたいんだけど」

「ひ!ひどいよ、わたるん。今、俺たちの知られざるベールが剥がされる、めちゃいいとこなのにぃ!」

 志垣くんがとても悲しそうだ。いつの間にか、ぼくは、志垣くんのそんな表情が大好きになっていた。いじめっこの心理がちょっとわかる。
 彼にそんな顔をさせられるのは、ぼくだけだから。

「ぼく、数学苦手なんだよ。教えてくれたら、肩揉んであげる」
 
「ぐはっ、わたるんのご奉仕っ!うれ死ぬっ!もちろん喜んでっ!」

 同じクラスのぼくたちは、当然宿題の量も同じはずなんだけど、志垣くんは目にも止まらぬ速さで宿題を終えた。そして、そのノートを使って、丁寧に問題の解説を始めた。
 ぼくが真剣に考え始めると、さりげなく肩や髪に手が伸びてくる。もー、やめてよ。気が散るー。ぺシペシッと叩き落とす。ようやくぼくが宿題を終えたのは、お風呂時間の直前だった。

「あ、もうお風呂の時間だ!志垣くん、行こう!」

「えー、俺はまだご褒美をもらってないー」

「じゃっ、代わりに背中を流してあげるよ」

「そんなっ!……神に感謝しますっ!」

 今月のぼくたちのお風呂時間は、午後六時から六時半。夕食はお風呂の後になる。夕方が慌ただしいけど、その分食後はたっぷりのんびり出来るタイムスケジュールだ。
 
 ぼくたちは、洗面器やバスタオルを抱えて、共同浴場に走った。シャワーの前を陣取りたいのだ。
 脱衣場に入ると、もうたくさんの生徒があふれていた。ぼくは一番すみっこのロッカーに、荷物を入れた。志垣くんは、ぼくの隣のロッカーに素早く荷物を入れると、さっさと脱いでタオルを腰に巻き、ぼくを人目に触れぬよう、大きな体でガードした。ああ、誰もぼくの裸になんて興味ないのに。
 周りのみんなは、面白がってこっちを向いたりしない。ぼくにちょっかいをかけると、志垣くんが奇声を放つのは、身をもって経験済みだ。
 ぼくもさっさと服を脱ごうとすると、志垣くんは言った。

「わたるんはゆっくり脱いでいいんだよ。ぼくが見守っててあげる」

 そして、ぼくの脱衣をじっと観察した。こういうの、見守るっていうより、視姦って言葉がふさわしいと思うよ。

「わたるん、少し乳輪がふくらんだね。開花が近いのかな」「わたるんの薔薇のつぼみ、今日も愛らしいね」「足の爪、伸びたね。そろそろ切ってあげるね」

 周りがドン引きしているのがわかるけど、ぼくはもう慣れっこだ。幼稚園に入った4歳のときから、今までかれこれ14年間、志垣くんと一緒にいるのだから。
 彼が成長するにつれ、語彙が増え、言葉がだいぶ攻め気味になったけど、言ってる意味はたいして成長していない。

「志垣くん、準備できたー」

「わたるんと一緒のお風呂、何回入っても興奮するよ」

 志垣くんの腰に巻いたタオルが、内部からの干渉で、ぐんぐんと持ち上がっていく。

「志垣くん、ちんちんたてるのやめて」

「これは不可抗力なんだよ。さあお風呂に行こう」

 ぼくたちは、お風呂につかり、お互いに背中をごしごししあった。
 成長期の男子は、みるみるうちに育つもんだ。昔は細く薄かった志垣くんの体は、まんべんなく筋肉に覆われ、細マッチョに仕上がっていた。
 ぼくはずっとやせっぽっちでちびのままなのに、悔しい!悔しい!志垣くんの背中を思いっきり、真っ赤になるくらい擦った。
 それでも志垣くんは怒らない。「今日のわたるんは激しいね」ってほほえまれた。くそぅ。
   
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