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しおりを挟む今日の夕食は、豚のしょうが焼き定食。甘辛いタレに、ついつい食が進む。ぼくは、ごはんを二杯もおかわりして、食後に牛乳も飲んだ。大きくなあれ、ぼく。
満腹のおなかを抱えて、部屋に戻る。
苦しくてベッドに横たわれば、隣に志垣くんがもぐりこんできた。想定の範囲内だ。
「わたるん、俺の肩揉んでくれるって言ったのに」
「さっきお風呂で背中ごしごししたじゃん。今、おなかぽんぽんだからムリ。はぅ……ちょっと待ってて」
「そんな無理して食べなくてもいいのに」
志垣くんは不服そうだ。タッパあるやつにはわかんないんだよ。この悩み。
「ぼく、もっと大きくなりたいもん」
「ああ、そうだね、わたるん。大きくおなりよ」
そう言いながら、志垣くんが、ぼくの頭をやさしく撫でるから、ついついすりよってしまう。気持ちいい。えへへ。
ぼくは眠りの国へと足を踏み入れた。
「わたるん、もっと育って。俺のために……」
遠くで志垣くんの声が聞こえた――
◇◇◇
目が覚めたら朝だった。昨日宿題済ませといてよかったー。
志垣くんは、今日もぼくのベッドで眠っていた。背中に貼り付いた彼から心臓の鼓動が伝わってくる。穏やかな寝息も聞こえる。とくん、とくん、すー。とくん、とくん、すー。
なんだかとても落ち着くリズム。もう一眠りして、志垣くんに起こしてもらおう。
そして、ぼくは夢を見た。
真っ黒なカラスが、頭上の木の枝に留まっている。なにもせず、ただぼくを見ている――
「わたるん、朝だよ……」
志垣くんが、ぼくの髪に顔をうずめて、耳元でささやく。やさしい声だ。君の声、ずっと聞きたいって思っていたよ――カチリと記憶のピースがはまった音がした。
――わかってしまった。彼はあのカラスだ。前世の話は本当だったんだ。ぼくが美しい薔薇だったかどうかは置いといて。
そのとたん、ぼくの体の奥からこみあげるものがあった。うれしい、悲しい、もう会えない、さようなら。
ぼくは、体の向きを変えて、志垣くんと向かい合った。そのまま、彼の背中に手を回して、少し泣いた。
「わたるん、どうしたの?すごくいい香りだ。やっと目覚めたんだね。俺の薔薇」
ぼくは自分が何だったか知らない。
ただ、生まれてその短い一生を終えるまで、ずっとそばにいた君のことは――今、思い出した。
そのあと、ぼくは熱を出してしまった。
志垣くんが学校に連絡してくれて、彼も看病のためと、休みをとった。
「ごめんな、志垣くんまで休ませちゃって」
「大丈夫だよ。わたるんのそれは、発熱というより発情だ。甘い蜜の香りがする……」
ぼくは、ぼーっと熱に浮かされたまま、志垣くんの手をとった。ひんやりしたその手に頬擦りをする。気持ちいい。
「わたるん、そんなに蕩けちゃってかわいい……食べてもいい?」
ぼくの全身の毛穴が、ぶわっと開いた。
花の香りが、部屋中に充満する。
――食べて……
あなたに、食べてほしい……。
ばか。
そんなこと、思ってないよ。
ぼくは、貧弱なちびで、
なにもかも普通で、
君になんて、ふさわしくないんだ。
きっと、いつか……
ぼくの元から、いなくなって……。
いや……
イヤだ。
――志垣くん、
いなくなったら……やだ。
離れちゃ……やだ。
「……っ、もう、……我慢できない」
志垣くんが、ぼくの顔を両手で包む。その瞳は真っ黒で、熱をはらんだ視線は――あの頃と同じだった。
ぼくたちはキスをした。
最初は軽くついばむ程度だったそれは、回を重ねるほどに深くなり、ぼくの舌はきつく吸われた。
あ、食べられてる……
上手に息継ぎも出来ず、ぼくははくはくと溺れるような呼吸をしながら、身体中からよろこびが香りとなってあふれでるのを感じていた――
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