カラスの志垣くん

まめ

文字の大きさ
3 / 4

03

しおりを挟む

 今日の夕食は、豚のしょうが焼き定食。甘辛いタレに、ついつい食が進む。ぼくは、ごはんを二杯もおかわりして、食後に牛乳も飲んだ。大きくなあれ、ぼく。

 満腹のおなかを抱えて、部屋に戻る。
 苦しくてベッドに横たわれば、隣に志垣くんがもぐりこんできた。想定の範囲内だ。

「わたるん、俺の肩揉んでくれるって言ったのに」

「さっきお風呂で背中ごしごししたじゃん。今、おなかぽんぽんだからムリ。はぅ……ちょっと待ってて」

「そんな無理して食べなくてもいいのに」

 志垣くんは不服そうだ。タッパあるやつにはわかんないんだよ。この悩み。

「ぼく、もっと大きくなりたいもん」

「ああ、そうだね、わたるん。大きくおなりよ」

 そう言いながら、志垣くんが、ぼくの頭をやさしく撫でるから、ついついすりよってしまう。気持ちいい。えへへ。
 ぼくは眠りの国へと足を踏み入れた。

「わたるん、もっと育って。俺のために……」

 遠くで志垣くんの声が聞こえた――

 ◇◇◇

 目が覚めたら朝だった。昨日宿題済ませといてよかったー。
 志垣くんは、今日もぼくのベッドで眠っていた。背中に貼り付いた彼から心臓の鼓動が伝わってくる。穏やかな寝息も聞こえる。とくん、とくん、すー。とくん、とくん、すー。
 なんだかとても落ち着くリズム。もう一眠りして、志垣くんに起こしてもらおう。

 そして、ぼくは夢を見た。
 真っ黒なカラスが、頭上の木の枝に留まっている。なにもせず、ただぼくを見ている――

「わたるん、朝だよ……」

 志垣くんが、ぼくの髪に顔をうずめて、耳元でささやく。やさしい声だ。君の声、ずっと聞きたいって思っていたよ――カチリと記憶のピースがはまった音がした。
 ――わかってしまった。彼はあのカラスだ。前世の話は本当だったんだ。ぼくが美しい薔薇だったかどうかは置いといて。
 そのとたん、ぼくの体の奥からこみあげるものがあった。うれしい、悲しい、もう会えない、さようなら。
 ぼくは、体の向きを変えて、志垣くんと向かい合った。そのまま、彼の背中に手を回して、少し泣いた。

「わたるん、どうしたの?すごくいい香りだ。やっと目覚めたんだね。俺の薔薇」

 ぼくは自分が何だったか知らない。
 ただ、生まれてその短い一生を終えるまで、ずっとそばにいた君のことは――今、思い出した。

 そのあと、ぼくは熱を出してしまった。
 志垣くんが学校に連絡してくれて、彼も看病のためと、休みをとった。

「ごめんな、志垣くんまで休ませちゃって」

「大丈夫だよ。わたるんのそれは、発熱というより発情だ。甘い蜜の香りがする……」

 ぼくは、ぼーっと熱に浮かされたまま、志垣くんの手をとった。ひんやりしたその手に頬擦りをする。気持ちいい。

「わたるん、そんなに蕩けちゃってかわいい……食べてもいい?」

ぼくの全身の毛穴が、ぶわっと開いた。
花の香りが、部屋中に充満する。

――食べて……
あなたに、食べてほしい……。

ばか。
そんなこと、思ってないよ。

ぼくは、貧弱なちびで、
なにもかも普通で、
君になんて、ふさわしくないんだ。

きっと、いつか……
ぼくの元から、いなくなって……。

いや……
イヤだ。

――志垣くん、
いなくなったら……やだ。
離れちゃ……やだ。

 
「……っ、もう、……我慢できない」

 志垣くんが、ぼくの顔を両手で包む。その瞳は真っ黒で、熱をはらんだ視線は――あの頃と同じだった。
 ぼくたちはキスをした。
 最初は軽くついばむ程度だったそれは、回を重ねるほどに深くなり、ぼくの舌はきつく吸われた。
 あ、食べられてる……

 上手に息継ぎも出来ず、ぼくははくはくと溺れるような呼吸をしながら、身体中からよろこびが香りとなってあふれでるのを感じていた――
 
  
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大工のおっさん、王様の側室になる

くろねこや
BL
庶民のオレが王様の側室に?! そんなのアリかよ?! オレ男だけど?! 王妃様に殺されちまう! ※『横書き』方向に設定してお読みください。 ※異母兄を『義兄』と表記してしまっておりました。『兄』に修正しました。(1/18・22:50)

サファヴィア秘話 ー満月奇談ー

文月 沙織
BL
満月の夜、将軍サルドバは得体の知れない兵たちに襲われる。彼らはサルドバに降伏の儀式を受けさせるという。 これは前作のおまけです。前作でのサルドバのイメージが壊れるのが嫌、という人は絶対に読まないでください。 性描写もありますのでご注意ください。

平凡高校生の俺にイケメンアイドルが365回告白してくる理由

スノウマン(ユッキー)
BL
高校三年生の橘颯真はイケメンアイドル星宮光に毎日欠かさず告白されている。男同士とのこともあり、毎回断る颯真だが、一年という時間が彼らの関係を少しずつ変えていく。 どうして星宮は颯真に毎日告白するのか、そして彼らの恋の行方は?

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

αに軟禁されました

雪兎
BL
支配的なαに閉じ込められたΩ。だがそれは、愛のはじまりだった――。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

鳥籠の夢

hina
BL
広大な帝国の属国になった小国の第七王子は帝国の若き皇帝に輿入れすることになる。

声なき王子は素性不明の猟師に恋をする

石月煤子
BL
第一王子である腹違いの兄から命を狙われた、妾の子である庶子のロスティア。 毒薬によって声を失った彼は城から逃げ延び、雪原に倒れていたところを、猟師と狼によって助けられた。 「王冠はあんたに相応しい。王子」 貴方のそばで生きられたら。 それ以上の幸福なんて、きっと、ない。

処理中です...