オレのこと嫌ってたくせに。

まめ

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夜の街、酒場の喧騒の中、アーチとゴーシュは冷たいエールで、ぎこちない乾杯をした。
一緒に酒を飲むのは初めてだったし、卒業してからテーブルを共にしたことすらなかった。
喉奥を冷えたエールが通り過ぎる爽快感と、空きっ腹にアルコールがまわる酩酊感。酔っぱらいたちのにぎやかな笑い声も、二人の緊張を緩ませた。
エールがぐいぐい進む進む。アルコールがまわるまわる。アーチは酒に弱かった。

「ゴーシュ、今日はありがとう!」

「ん……」

「で、今日の発言に関して聞きたいんだが……」

「ん……」

「おまえってオレのこと嫌いだったよな?」

「そんなことはないが?」

「はぁ?」

「嫌いじゃないと言っている……」

「はぁ?お前が俺を苦手だって言ってたの知ってるんだぞ!見たし!聞いたし!ふざけんなぁ!」

「……ん?」

「あの日!士官学校の合格が決まった日!おまえが後輩に話してたの聞いてるんだよ!」

アーチはのらりくらりするゴーシュの返事に、だんだん腹が立ってきた。喧嘩するつもりで酒に誘ったんじゃないのに。
あの時の悲しみや、今まで圧し殺してきた思いが腹の中でぐるぐる渦巻き、アルコールに火をつけられて爆発、暴発した。

「おっら!聞けよぉ!!!
オレはおまえと一緒に士官学校で過ごすの楽しかったし、同じ職場で働くの楽しみにしてたんだ! 
なのに、おまえがオレのこと『苦手』って言うのを聞いたから、希望通りに近づかないようにしてやったんだよ!」

「…………」

「なんだよ、わけわかんねぇよ! なのに、みんなの前で『俺のもの』なんて叫ぶし、おまえの頭の中どうなってんだよ!」

ゴーシュは理解した。
そして、呆然としたあと、暗い笑みを浮かべた。

「何を聞いた……」

「後輩ちゃんに、オレが苦手だとか、気が強いとか、言ったよな?」

「ああ……、あの時の」

「わかってんじゃねぇか。……なんかオレだけ期待して馬鹿みたい。もうやだっ!帰るっ!」

アーチの瞳が潤み、つーっと頬を一筋の涙が流れた。
この涙は酔いのせいじゃない。俺が傷つけたせいだ。
ゴーシュはめちゃくちゃ後悔した。
今まで思いを伝えなかった自分を、うまく言葉にできないからと逃げていた自分を。
きっとこの機会を逃したら、アーチの手は二度と掴めない。

「行かないでくれ!!!アーチ、ごめん!好きなんだ!!!」

勢いよくゴーシュは頭を下げ、テーブルに思い切り頭突きした。
ゴンッ!!!
木でできたテーブルが真っ二つに割れ、ゴーシュの頭に飲みかけのエールがこぼれる。
つまみの皿が割れ、床にはポテトが転がった。

酒場の空気が止まった。

――アーチは半笑いを浮かべながら割れた皿を拾い、床に落ちたポテトをゴーシュの口にねじ込んだ。

「……ゴーシュ、おまえ馬っ鹿じゃねえの?はんっ!」

酒場の店員と客に場を乱したことを謝り、二人は一緒に店を出た。


酒場の近くにある公園に足を運ぶ。
夜の公園は人通りも少なく、こういう話には最適だ。
同じベンチに腰掛けると、アーチはゴーシュの顎をつかみ、顔を自分に向けさせた。

「……ゴーシュ。じゃあさ、どれだけオレのこと好きか語ってみろよ」

「……うう……」

「言えねえのかよ!おまえ、オレを振り回すのいい加減にしろよ!!!」

「わかった……言う…」

ゴーシュは腹を決めた。体も大きく、武術にも優れ、怖いものなしの自分だというのに──アーチへの思いだけは、言葉にすることが怖くてたまらなかった。
どうしようもなく好きなのに避けられ続けて、アーチに向けた執着心は濁りきったあげく真っ黒だ。もちろんアーチは気づいていない。気づかれたら間違いなくドン引きレベルだ。
しかし、こじれまくった自分たちの関係を修正するのは、今しかない。
言え!言うのだ!そしてアーチを取り戻せ!
ゴーシュは、自分の奥にあるアーチへの膨大な感情の中から、器用に美しい上澄みだけを掬いとった。
愛しい彼に怯えられることのないように。

「……アーチの顔が好き。髪が好き。声が好き。俺より小さい体も好き。いつも話しかけてくれるのも好き。笑うとかわいいのも好き。喧嘩っ早くて勝気なところも好き。でも優しいとこも好き。真面目に仕事に励むとこも好き。美味しそうにメシ喰うとこも好き。俺から逃げるアーチは嫌いだけど、でも好き。ずっと好き。今も好き。きっとこれからも好き。好き!!!!!」

アーチは勝ち誇ったように、ニヤリと笑って言った。

「……じゃあ、ご褒美にキスしてやんよ」

ぐいっとゴーシュを引き寄せ、口の横に軽くキスをした。

ゴーシュは驚きで固まった。アーチを抱きしめようと、思わず手を伸ばす。
アーチはぐんにゃりと引き寄せられて、そのまま――寝落ちした。


ゴーシュは眠ってしまったアーチを担いで、いそいそと宿舎へ戻った。
そして、自分の部屋に連れ込んで、ベッドに寝かせ、後ろからぎゅっと抱え込んだまま眠った。


――――


朝、陽の光に目を覚ましたアーチは、なにかが おかしいことに気づいた。
ゴーシュに抱きしめられている……おまけにとても酒臭い。

「はぁ!?なんじゃこりゃーー!?」

「ん……もーちょい寝ろ……」

そう言って、さらにぎゅっと抱きしめてくるゴーシュ。

「なに寝ぼけてんだ、このやろー!!!」

アーチは思い切り頭突きした。ゴツン!!

「いってぇ!おまえこそ何すんだー!」

しばらく二人は睨み合う。
睨み合ってたんだが、昨晩のことを思い出し、二人ともなんだか照れてきて目元がゆるくなる。
アーチがそわそわと赤面しながら言う。

「……まぁ、好きだっつーなら、とりあえず付き合ってやんよ」

「……」

ゴーシュはとても悪い笑顔を浮かべて言った。

「俺さ、おまえの気持ち聞いてないんだが……」

「ぎゃー!ゴーシュのバカ!そんなんわかれよー!」

アーチの顔がさらに赤くなり、目を潤ませてシーツに潜り込んでしまう。
ゴーシュはため息をついて、ちょこんとのぞく頭にやさしいキスをした。

「……また、よろしくな。アーチ」
(もう絶対離さないんだが……)

「ん……、ゴーシュ」
(この感じなつかしい)


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