平凡な俺が異世界送りとかありえない

最果ての気球

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序章 -魔王との死闘-

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「でぇやぁぁぁぁぁ~~~!」

 異世界セントアリムの魔大陸アルナル最奥の魔王城。

 その最上階に位置する玉座の間で、青い光を纏った俺、佐藤次郎は城の主たる魔王目掛け、大上段から渾身の力を込めて剣を振り下ろした。

 突進と跳躍の勢いが乗った一撃は、当たる寸前に飛びのいてかわされる。そのまま振るった剣は空を切り、魔王の代わりに石造りの床を派手に抉りとる。床は破片すらも残らず粉微塵に吹き飛び、剣は支えを失って俺の体制が大きく崩れた。

 その隙に、敵は右手に巨大な火の球を作り出す。火球はさながら小型の太陽のようで、周囲の光景が陽炎の如く歪んだ。

「ハッ!」

 鋭い声と共に火球を投げつけてくる魔王。同時に周囲の景色が揺らめき、既にぼろぼろになった城の床や壁、倒れた柱などがその熱だけで灰に変わっていく。

 まともに当たれば一瞬で消し炭どころか、塵一つ残らないだろう。

 だが、今の俺にそんなモノは通じない!

 俺は躊躇いなく盾を構えて突進。火球は盾に触れた途端、跡型も無く消滅した。

 その突進の勢いのまま直線上の魔王へと走り、全力で飛び掛かり一直線に剣を突き出した。一直線に伸びていく剣線は瞬く間に距離を詰め、魔王へと迫る。

 よし! もらった!

「甘い」

 と、切っ先が敵に触れた瞬間、魔王の姿は薄く消えてしまう。

「ッ!?」

 虚をつかれ、俺の体勢は大きく崩れる。同時に、俺の身体を覆う光が急速に薄れる。

 ヤバい!

「こっちだ」

 声の方を振り返ると、俺の頭上に巨大な氷塊と雷を纏う巨大な無色の球体を抱える魔王の姿があった。氷塊は豪華客船を沈没させられそうなくらいのサイズで、雷の球体も先程の火球と同じぐらいのサイズだ。あんなモノ喰らったら、確実に死ぬ!

「ハァ! ディヤ~!」

 焦る俺に、魔王は容赦なく氷塊と雷球を投げつけた。それを必死に飛びのきギリギリで回避すると、突然目の前に黒い大剣を握る魔王が姿を現す。

「チェェェェェェェァァァァァァ~~~~!!」

 驚愕する俺目掛け、魔王は大剣を容赦なく振るう。その一撃に空間が抉られ、押しのけられた大気が悲鳴を上げるように低く唸った。

「くぅっ!」

 その一撃を盾で受け止めると、特大の鉄球がぶつかったような衝撃が全身に伝播する。鋭くも重い、とてつもない一撃。細身の体の何処にそんな力があったのかと疑う程だ。

 斬撃によって俺の動きが完全に抑えつかられている間に、魔王の周囲に小型の真っ黒な球体がいくつも出現する。それらは、圧倒的な死の気配を撒き散らし、その威力を全身で訴えていた。

「食らえ!」

 魔王の号令に従って、黒い球体が一瞬で距離を詰め、俺目掛けて殺到する。
 ヤバい、ヤバい、ヤバい!

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~!!」

 そう思った瞬間、俺は全身を震わせて気合いの雄叫びを上げた。それに呼応する形で、全身から青い光が解き放たれる。

 それらは一瞬で拡散し、闇色の球体もろとも辺り一帯を飲み込み消滅させた。

「はぁはぁはぁ……」

 光が収まると、俺の立っていた一帯は大きくクレーター状に抉られていた。そのクレーターの中心で、俺は肩で息をしながらも、安堵の吐息をもらした。

 ふぅ~。今のは危なかったぜ。

「やるな、サトージロー」

 と、いつの間に広間の奥に逃れた魔王がそんな事を言い出した。魔王の顔には、楽しくて仕方ないと言った笑いが浮かんでいる。

「末恐ろしい男だとは思っていたが、やはり余の眼に狂いはなかったようだ」

「そりゃどうも。一発も喰らってない奴に言われても嫌味にしか聞こえないけどな」

 魔王の物言いに、俺は肩を竦めて思ったまま答える。

「ふむ。まぁ、そう言うな。今のなれの攻撃は、一撃で致命傷なのだから。一撃でも貰うわけにはいかない状況というのは、中々のスリルだ。ここまでの緊張感を余に与えているだけでも、十分誇っていい事だ」

 そう言う魔王の顔には、何らウソ偽りを感じなかった。もしかしたら、そう見せているだけかもしれないが、こいつの言っている事自体は本心からなのだろうと思えた。

「今のなれは、末恐ろしいどころか、恐るべき存在だ。他ならぬ余が保障しよう。それ程の力を持ちながら、更なる高みを目指すとは、まったく欲深き男よな」

「アンタにだけは言われたかないね、全知全能。何でも出来て、その気になりゃ何でもすぐに手に入れられる癖に、無いモノ強請りねだりとか、どんだけ欲深いんだよ」

「それもそうか。余も汝も、共に欲深い」

 俺達の物言いは、現在命のやりとりをしているとは思えないくらいに和やかだった。まるで十年来の友人とでも話しているかのような互いを妙に信頼しているかのような安心感みたいなモノが、俺達のどちらからも流れていた。

(にしても、これからどうするかね、実際)

 そんな和やかな会話の中でこっそり上がった息を整えながら、俺は内心考える。

 現在の戦況は、圧倒的に此方が不利だった。

 既に長い事戦っているのだが、今のところ魔王には一撃も掠ってない。

 切り札として仲間から預かったアイテムはすべて試したが、完全に虚をついたと思っても相手の方が一枚上手で全て受け切られてしまった。

 目下、残った切り札、俺自身が激しい修行の末身に付けた一撃必殺の能力で戦っているが、身体能力や技術、戦闘経験の差からまるで攻撃を当てらない。どれだけ威力があろうが当てられなきゃ意味が無い。

 ついでにその能力自体、体力と精神を削られ為、そう長くはもたない。もう限界はかなり近い。戦況はかなり悪い、というか絶望的だった。

「ジロー……」

 なんとか打開策を見出そうと思考を巡らせていると、不安そうに俺の名を呼ぶ声が聞こえてきた。視線だけを巡らせると、ぼろぼろの室内に一か所だけ無傷の空間があり、そこに長い銀髪の華奢な美少女が魔女姿の銀髪の女性と共に立っていた。

 彼女は先程の声と同様に不安そうに此方を見詰めている。その瞳はいっぱいに潤んで揺れており、今にも泣きだしてしまいそうだった。

 ったく、アイツは。心配いらねぇって言ってるのに。

「大丈夫だ」

 だから、俺は彼女に聞こえるように、自分でも信じられない嘘をつく。

「俺は世界一になる男だからな! その目標達成目前で、負けやしねぇ!」

 何故なら彼女は自分にとって、何よりも大切な仲間なのだから。

「俺は絶対に勝つ! だから安心して待ってろ!」
「……ッ」

 力強く宣言すると、彼女が息をのむのが分かった。その顔により一層深い不安そうに揺らぐのが見えたが、無視して魔王に向き直る。

 アイツに勝つ。今はそれだけに集中すればいい。

「あの時を思い出すな」

 と、身構え直した俺に、魔王は目を細めてそんな事を言い出した。

「覚えているか? 余と汝が初めて会った時の事を……」
「あ……ああ」

 唐突に始まった話に一瞬呆気にとられながらも返答する。

「忘れられるわけないだろ。忘れてたら、今ここにいる筈もないんだからな」

 俺が答えると、魔王は『それもそうだな』と小さく頷き続ける。

「あの時も今と同じく、汝は似たように宣言し、果敢に挑んで勝利して見せた。汝が勝利をおさめた瞬間、余は戦慄せんりつし思った。この男と戦いたいとな」

「迷惑極まりない話だよ。おかげでこの一年、学校にも行けず行方不明なままなんだから。あっちに戻ったら大騒ぎになるだろ。どうしてくれんだよ、マジで」

「そうは言うが、汝も楽しそうに見えるのだが、これは余の錯覚かな?」

 大袈裟に肩をすくめて答える俺に、魔王はにやりと口元を持ち上げて尋ね返す。それを受けて、俺も同じくにやりと口元を持ち上げた。

「ああ。そりゃそうだ。こんなに分かりやすい目標が現れたんだからな。世界一なんてどうやってなりゃ良いか分かってなかった俺の前に、世界で一番強いアンタが」

 そう言って、俺は剣をまっすぐ魔王へと向ける。

「ってわけで、勝たせてもらうぜ、魔王シャリアフル。アンタの掲げるは俺が貰う!」

「面白い! あの時と同じように奇跡を見せてみろ、異界から来た少年!」

 互いに叫び、俺達は互いの元へと飛び込んだ。

 そして、再び俺と魔王の戦いは始まった。

 戦いはすぐに激しさを増し、再び地獄の如き様相となった。

 剣と剣が激突して火花を散らし、火球や氷塊が飛び交い、嵐が吹き荒れ、稲妻が迸る。互いの技を限界まで高めた戦いは、玉座の間を瓦礫の山へと変えていく。

 一瞬でも気を抜けば、すぐに命を落とすであろう極限状態。

 そんな中、俺の脳内を走馬灯の如く過去の映像が流れていく。

 それは魔王との因縁の始まり、異世界に飛ばされたばかりの頃の記憶だ。

 全ての始まりは一年前、あの日に遡る。
 思い出したくもない、目の前の目標すら達成できず、どうしたら夢が叶うかも分らなかったあの日に。
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