平凡な俺が異世界送りとかありえない

最果ての気球

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第一章 こうして俺は少女を救い、魔王と戦うハメになった

一難去らずに、また一難

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 森の中、足場が悪い状態で全力疾走すると、程なく少女の華奢な背中に追いつく。

「ッ!? ジロー!」

 俺に気付いて、アイシャが驚いたように此方を見る。

「待っててって言ったのに」
「悪いけど無理! あんなあからさまな悲鳴聞いて見過ごすとか無理!」

 こんな状況だというのに、人助けをせずにはいられない自分の性分には呆れるよ。

「お人よし」
「うぐっ」
「だ、誰か! 誰かぁぁ!」

 などと下らないやり取りしている間に、再び悲鳴が聞こえてくる。同時に森の開けた場所へ出て、反射的に足を止めた。

 広場の先、丁度中央くらいの場所で、腰を抜かした女性の背中が見えた。
 それと対峙するように、人間の大人くらいの巨大なハスキー犬みたいなのが、ぐるぐると喉を鳴らしている。『みたいなの』と言ったのは、上半身に比べて下半身がやけに小さく細い。記憶が正しければ、アレ多分――

「狼」
「だよな……」

 アイシャの呟きを聞いて、血の気が引いていくのを感じた。
 狼なんて見た事もなかったけど、犬の数倍は凶悪に見えるな。口も長けりゃ牙も異様に鋭く長くみえる。その牙の隙間から涎を垂らしながら、鼻息荒く今にも飛び掛らん勢いだ。

 こりゃ、ヤベェ。
 思った瞬間、勝手に体は動いていた。恐怖とかよりも寧ろ、あの人を助けないとっていう感覚が先立った。

「ジロー、待って!」
「待ってられる状況じゃねぇだろ」

 アイシャの制止を振りきり、俺は女性と狼の間に滑り込んだ。
 途端、俺の肌が粟立つのを感じる。それが狼の撒き散らす殺気によるモノだと直感的に理解し、改めて戦慄する。

 滅茶苦茶怖い。コレ、冗談抜きに死ぬ。

「グルゥゥゥゥゥゥ~。ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ~~~~!!」

 威嚇するように唸り、狼は大きく体を沈めて勢いよく飛び掛かってきた。

 ヤバイ!
 そう思った瞬間、俺の体は動いていた。
 一直線に飛び掛る狼の腕が肩に触れた瞬間、後方へと倒れ込む。同時に、狼の肩口をガッチリと掴んで此方へ引き寄せ、その腹部を全力で蹴り上げた。

 これぞ柔道の妙技、巴投げ!!

「でりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~!」

 投げ飛ばされた狼は、何が起きたか分らないと言った様子で宙を舞い、そのまま地面に背中から勢いよく激突。

「ギャァァァァァオォォォォ~~~~ン」

 甲高い悲鳴を上げ、狼は派手に地面に激突、そのまま泡を吹いて倒れた。
 ふぅ~。危ねぇ。体験入部説明会で柔道部主将に巴投げ教えてもらってて良かった。

 ありがとう、主将!

 その後の執拗な勧誘には困ったが、役に立った! 
 『お前は天才だ!』とか色々言われたが、俺みたいな平凡人間にも技を教えられる偉大なだけじゃん! 実際すごく綺麗に技を実演して貰ったから、再現するのに困らずに済んだ。

 それはともかく、身につけた技のお陰でどうにか死なずに済んだようだ。ホント、よかった。

「……ねぇ」

 と、一息ついて立ち上がった俺に、アイシャの声がかかる。振り返ると、彼女は目を丸くして俺を見上げていた。

「……今、どんな魔法を使ったの?」
「いや、魔法じゃなくて、ただの巴投げだけど……」

 おずおずと答えると、アイシャはきょとんと首を傾げた。

「トモエ……ナゲ?」
「ああ。ただの柔道の技だ」
「ジュードウ?」

 怪訝そうに眉を潜めるアイシャ。何を言ってるのと、顔に書いてある。
 あ~、ごめん。ここ異世界だった。いきなり狼に襲われたせいで気が動転してたわ。

「俺のいた国に伝わる格闘術、素手で戦う戦闘技術の一つだよ」
「そう。狼を吹き飛ばす技を使えるなんて、ジローは凄いんだね」
「全然凄く無いって。こんなの柔道やってる人なら誰でも出来る筈だし」

 実際、柔道の選手なら、狼投げ飛ばすくらい簡単に出来るに違いない。少し柔道齧っただけの平凡な俺にだって出来るんだから。

「そうなんだ……その人達はどうして技を覚えたの?」
「う~ん。必要に迫られてかな? 出来ないと生活出来ないだろうし」

 柔道の師範とか一通りの技が出来ないとなれないだろうからさ。
 などと考えていると、アイシャは思いつめたように顔を伏せ、ポツリと呟く。

「……ジローのいたニホンって、危険な場所だったんだね」
「いや、あんな平和な国、他に無いけど……世界一治安の良い国なんだぜ?」
「ソレはジローがあんな事が出来るからだよ。私じゃとても生きていけそうにない」

 う~む。なんか変な勘違いされてる気がするんだが……。どんな勘違いされてるか分らんので、誤解の解きようもなくて困るんだけど。

『キシャァァァァァァァァァァ~!』

 と、噛み合わない会話をしている俺達の耳に、今度は気味の悪い奇声が聞こえた。
 振り返ると、視線の先の茂みから奇妙な生き物が現れた。

 それは、一言で言えば異様に足が太く短い巨大なクラゲだ。サイズ的には大型犬ぐらいで、進行方向にエイリアンみたいな口と鋭い牙が生えている。クラゲの透明な傘の中にバスケットボール大の真赤な球体とテニスボール大の青黒い球体が蠢いている。
 なんだ、アイツ。

「……肉食スライム」

 俺が声を無くしていると、アイシャが真っ青な顔で震えながら呟いた。

「なんでこんなところに……」
「知ってるのか?」
「うん……凄く危険な生物。アイツに狙われたら、多分あの狼も」
「え?」

 俺が驚いて聞き返そうとした瞬間、恐ろしい事が起きた。
 スライムは触手の一本を伸ばして気絶した狼を絡め取り、その巨体を自身の前に運んだ。そのまま、口を巨大化させて丸呑みにしてしまった。
 飲み込まれた狼は一瞬で白骨化、骨もすぐに溶けて消滅する。

「マジ……でか」

 頬を伝う冷や汗を感じつつ、俺は恐怖をそのまま吐き出した。

「洒落にならねぇぞ、アイツ」

 恐ろしい光景だった。あのサイズの狼を一瞬で食い殺すとか常軌を逸してる。

「……早く逃げないと」
「だな」
『キシャアァァァァァァァァ~~~~~!』

 そんな相談をしていると、再び耳を塞ぎたくなるような奇声が響く。スライムは足代わりの触手をうねうねと蠢かせ、此方に口を向けてゆっくり近づいてきていた。

 どう考えても、そのまま逃がしてくれそうもない様子だ。この状況だと、誰かがアイツの足止めをしなきゃいけないそうだ。
 で、誰がその役目を引き受けるか。って、もうそんなの分かり切ってるか。

「……ったく」

 深くため息をつき、俺はアイシャ達を庇うように、スライムの方へと歩み出た。

「ジロー?」
「アイシャ。時間稼ぐから、そこの人を連れて先に逃げててくれ」
「ッ!」

 何気無く言うと、背後で息を呑む少女の声が聞こえた。

「待って。いくら貴方が強くても、相手が肉食スライムじゃ」
「とは言っても大人しく逃がしてくれそうもねぇからな。な~に、無茶はする気はないから心配すんな。少し時間稼ぎしたら俺も逃げる。先に行って待っててくれ」

 逡巡するように言い募るアイシャを安心させるように言って、俺は周りに落ちていた少し大きめの石を拾ってスライムの方へと駆け出した。

「こっちだ、クラゲ野郎!」

 渾身の力を篭めて、スライム目掛けて投げつけた。
 が、石はゼラチン状の肉体に突き刺さってそのまま飲み込まれてしまった。
 ただ、一直線に此方へとやってきた。とりあえず、注意を引き付ける事には成功したらしい。視界の隅では、アイシャが腰を抜かした女性に肩を貸してヨタヨタと森の中に消えていくのが見えた。
 ともかく、二人が無事に逃げる時間を稼がないと。後の事はそれから考える。

「おりゃぁぁ!!」

 相手の動きに注意しながら、立て続けに拾った石を投げつけるが、先程と同じく飲み込まれてしまうだけだった。かと思ったら、飲み込まれた石が溶け消えてしまった。
 同時に、スライムの体が少し大きくなっていた。狼を食ったせいもあるのか、もう大人の腰ぐらいのサイズまで巨大化している。

「……マジでか」

 苦虫を噛み潰したような声が自然と漏れる。投石とか通用するとも思ってなかったけど、まさかモノを吸収して巨大化するとは。やっぱりヤベェな、コイツ。注意をひきつければ良いだけでもかなり厳しい気がするんだが。
 と、そんな事を考えていると、スライムが触手を発射してくる。

「うおっと!」

 全力で飛び退き、ギリギリ触手を回避する。触手はすぐにスライムの元に戻り、口元へと運ばれる。
 あっぶね。さっき狼が食われた所を見てたお陰で上手く避けられた。

「悠長に考えてる暇はねぇな」

 一瞬でも気を抜いたら即死亡コース。
 とてつもない緊張感に、胃がキリキリと痛む。なんでこんな状況なんだか。

 でも、倒さなきゃいけないわけじゃない。とにかく時間を稼ぎさえすれば良いんだ。注意がそれない程度に動いて、時間を稼ぐだけ稼いだら後は全力で逃げる! それならやりようはある筈だ。

 見たところ、アイツは何かを取り込んで吸収・巨大化している間は動きが止まるようだ。この性質を利用して、上手く相手の動きを止めながら触手から逃げ回る。幸い触手の動きはしっかり見えてるし、これならどうにかなりそうだ。

「そうと決まれば話は早いぜ」

 気を取り直し、俺はスライム目掛けて走り出し、地面に転がっていた小石を思い切り蹴飛ばした。
 石を飲み込んだスライムは一瞬動きを止める。
 その間に、俺は相手の側面に向けて走る。すると、そちらへ向けて一番近くの触手が飛んできた。

 それを前方に転がりながらかわし、すぐに次の石を投げつける。石を取り込んだスライムはまたしても動きを止める。その間に、俺は相手の口がある裏側へと走った。

 暫く間、その繰り返しで俺はスライムに石を投げ込み、飛んでくる触手をどうにかかわし続けた。
 しかし、その攻防もやがて終わりを告げる。逃げ回っていた俺は、いつの間にか広場に転がっていた石の殆どを使い切ってしまっていた。

 そんな俺の劣勢とは反対に、大量の石を取り込んだスライムは最初のサイズから既に二周り程巨大化し、次第に触手攻撃の速度も上がり始める。スライムは根を張るようにじっと動かず、間断なく前後左右上下から触手の雨を降らしてきた。

 そろそろ逃げようかと考えるが、飛び交う触手攻撃に阻まれて上手く動けない。
 このままじゃまずいな。
 そう思った矢先、飛び退いた先の地面から、突如別の触手が飛び出した。

「ッ!!?」

 気付いた時にはもう遅く、俺は触手に足を絡め取られてしまう。

「うぉ!!」

 片足を絡められたまま持ち上げられ、俺は逆さに宙ぶらりん状態にされてしまう。同時に地面の下に隠れていた触手が土を持ち上げながら姿を現した。
 どうやら、先ほどから全く動かなかったのは、これを狙っての事らしい。

「この! 離せ~~!!」

 どうにか拘束を解こうと全力で暴れ、地面に落ちていた木の枝を掴んで触手を滅茶苦茶に叩く。しかし、まるでびくともしない。その代わりに、枝は折れてしまった。
 くそ!

「ジロー!」

 その時、悲鳴にも似た少女の声が背中にぶつかった。首だけで振り返ると、アイシャが背後の茂みの中から顔を覗かせていた。彼女は見た事のないような必死の形相で叫び、茂みを飛び出してきた。

「来るな!」

 そんな少女に向け、俺は懸命に叫び返す。

「俺に構わず逃げろ! こんなモノ、すぐに脱出するから!」

 まるで根拠の無い事を叫び、更に暴れまわる。こんなわけ分らん場所に連れてこられて、あんな死に方はごめんだ!

「離せ、このクソゼラチン!」

 しかし、頑張り空しく俺はスライムの眼前に引き寄せられた。そのままスライムは先程のように俺の体を飲み込まん勢いで口を広げた。

 それでも、俺は諦めない!

「こんなところで死んでたまるかァァァァァァァ~~~~~~~~!!!!!」

 俺は叫ぶと同時に、無我夢中で握っていた枝を化け物の口へと突き出していた。
 その瞬間、何かを貫くような手応えを感じる。
 そして――

『ギィェェェェェァァァァァ~~~~~~!』

 耳をつんざくような悲鳴が響き渡り、俺の体がいきなり宙に投げ出されてしまった。

「ァァッ」

 ろくに受身も取れず地面に叩きつけられ、声にもならない吐息が口から漏れる。

「いってぇぇぇ~」

 苦痛を堪えてどうにか体を起こすと、その視界にぶよぶよと蠢くスライムが映った。先程までと違い、外殻が水のように振動している。

 苦しんでる?
 俺はどうにか全身に力を篭めると、ヨタヨタと立ち上がった。見ると、偶然にも先程突き出した枝が赤い球体に突き刺さっていた。球体は明滅しながら、激しい光を放っている。
 もしかして、アレがアイツの弱点?
 いや、それはともかく今がチャンスだ!
 俺は残った力を振り絞り、スライムへ駆け寄ると、スライムに刺さった枝に全体重をかけた。

「ウオォォォォォォォ~~~~~~!!」
『ギィィィィィィエェェェェェェェェェェヤァァァァァァァァァァ~~~~~!』

 途端、不気味な叫びと共に、スライムはドロドロに溶け始める。
 溜まらずスライムは残った体を俺の手足に絡みつけ、締め上げてきた。

「この……負けてたまるかぁぁぁぁぁ~~~~!!」

 苦痛に耐えつつ叫び、全体重を掛けて核に刺さった枝を押し込んだ。

「くたばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~!!」

 意地で苦痛に耐えていると、やがて絡んだ触手が解け始めて拘束が緩む。
 そしてスライムは氷みたいに跡形もなく溶けてしまった。残ったのは牙だけだった。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 どうにかなったと思った途端、全身から急に力が抜けその場にへたり込んでしまう。

「ジロー!」

 と、立て膝でぜぇぜぇ言ってる俺の傍らに、華奢な少女が駆け込んでくる。彼女は不安げな様子で俺の顔を覗き込んでくる。

「大丈夫?」
「なんとかな」

 ホント、ギリギリだったけど。

「いてッ」

 立ち上がろうとすると、鈍い痛みが全身に広がり駆け上がり俺は再びへたり込んでしまう。これはどこか痛めたな。

「動かないでッ!」

 もがく俺に鋭い声がかかる。顔を上げると、少女が両手を俺の顔の前に構えていた。そして、その両手から白く淡い光が溢れて出す。

「え?」

 驚く俺の体をその光が静かに包み込んでいく。そして、体の痛みが和らいでいった。徐々に体も軽くなり、痙攣していた膝も元の状態に戻っていた。
 何だ、コレ?

「動かないで。手元が狂う」

 顔を上げて尋ねようとするが、またしても諌められた。仕方なくじっとしていると、ゆっくりと光は収まった。

「もう大丈夫」

 光が完全に消えると、アイシャは両手を下げ普段の平坦な表情で立ち上がる。
 今の何?

「アイシャ」

 と、俺が再び彼女に尋ねようとした時、背後の茂みからしわがれた声がした。
 振り返ると、 先程スライムに襲われていた中年の女性が草むらから顔を出した。
 改めて観察するが、アイシャと同じくどう見ても日本人じゃなかった。白髪混じりの茶毛や碧い瞳、白い肌に彫りの深い顔立ちは、どう見ても欧州人そのもの。服装もやや古めかしい中世風の農夫っぽい恰好だったが、どう見ても外人だ。

「カトリーヌ叔母さん」

 アイシャが言うと、その女性は俺達の方へと歩み寄ってくる。

「助かったよ。アンタのとこに行く途中、化け物に襲われてもう駄目かと思った」
「……怪我は?」
「大丈夫。この通り、何とも無いよ」
「そう」

 彼女がアイシャに礼を言うと、無口な少女は素気なく返す。その様子は完全に今までどおりで、先程までの取り乱した様子は一切無かった。完全に無感情ってわけでも無いのだろうが、此方が素なのだろう。

「それと、そっちの人も。誰か知らないけど、たすか……」

 と、女性の視線が膝をついたまま二人のやり取りをしていた俺に向かい――何故か、視線が交差した瞬間、人の良さそうな笑みが無表情に凍った。

「?」

 突然の事に、俺が疑問符を顔に浮かべ首を傾げる。
 しばらく、彼女は目や口を大きく見開いて固まっていたが、徐々に全身を小刻みに震わせ――

「た……」
「た?」
「大変だぁぁ~!!!!」

 一目散に森の中へと駆け出していった。
 思いもよらない行動に、俺は呆気にとられて女性を見送る。
 何が起きたか、またしても理解出来なかった。っていうか、せっかく命がけで助けたのにその反応酷くない?

「はぁ~」

 と、深い溜息が聞こえる。
 振り返ると、アイシャがいつもの淡々とした表情を若干冷淡に変え此方を見ている。

「だから待っててって、言ったのに」
「ど、どういう事?」

 若干の罪悪感を覚えつつ、俺は此方を見つめる少女に問いただす。彼女は冷淡な表情のまま口を開いた。

「どうもこうも……黒い髪に黒い目の人間なんて、急に現れたら皆びっくりするに決まってるじゃない。そんな人、皆観た事も無いんだから」
「え? そうなの?」

 あまりにも意外で、俺は思わず聞き返してしまった。
 いや、黒髪黒瞳くろかみこくどうなんて欧州にもいなかったっけ? ここじゃ、そんなに珍しいの?

「ここら辺じゃ見ないもの。というか、見た事無いよ、そんな人」
「初対面の時に何も言ってなかったじゃん」
「私はどうでもよかったから」
「そこは気にしようぜ!」

 淡々とした少女の物言いに、なんだか頭痛がしてきた。なんだってこう面倒臭いことばっかりなんだ?

「ってか、今の人どう見ても大人だったけど、大人いないんじゃなかったのかよ?」
「そんな事より、早く隠れないと大変な事になるよ」

 頭を抱えている俺に対し、アイシャは淡々と告げる。

「何で?」
「すぐに他の人達を連れて戻ってくる。そしたら、何されるか分らない」
「マジで!?」

 少女の告げた剣呑な情報に、俺は完全に嫌気がさしていた。今でさえいっぱいいっぱいなのに、この上まだ何かあるのかよ。

「とりあえず、急いで家に戻ろう。なんとか誤魔化」
「アイシャ~~~~!!!!!!!」

 と、俺達が相談していると、。先ほどの叔母さんを先頭に農夫の恰好をした男女十人あまりが押し寄せてきた。

 彼らは慌てた様子で周囲を見回し、俺を見つけるなりジリジリと詰め寄ってくる。
 押し寄せてきた人々の表情は妙な緊張感と焦りに満ちており、いかにも動転して何をやらかすか分ったものじゃない様子だった。

 おいおいおいおい。
 こんなわけの分らない場所に来させられて、死に掛けたと思ったら今度はコレ?
 何の罰ゲームなんだよ、一体!
 俺は迫ってくる人々から逃れようと後ずさる。が、気が動転していたせいか木を背負う形に追い詰められてしまう。

 し、しまったぁぁぁ~!
 あっという間に、俺は押し寄せてきた人々によって取り囲まれてしまった。

「あ、あの、ちょっと……」
「待って、その人は……」

 俺もアイシャも慌てて彼らを止めようと口を開き、

間違いない。救い主様だ!」

 ――

「はっ?」

 首を傾げる俺に、農夫達の一団から茶髪で小太りのオッサンが歩み寄ってくる。

「ようこそおいで下さいました。救い主様」

 オッサンは俺の手をとって、もう一度意味不明な言葉を告げる。その瞳はやけに輝いて異様に熱い視線だった。
 オッサンは俺の手を取ったまま振り返り、背後の人々に視線を向ける。

「皆。救い主様を我々の村にお連れしよう」
「おぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~!」

 オッサンの号令に、周囲に控えていた農夫達が俺目掛けて殺到する。

「え? あ! ちょっ!」

 抵抗する間もなく、俺は彼らに担ぎ上げられてしまった。丁度胴上げみたいな状態で、両手両足がっちり掴まれて身動き一つとれない。

「いざ! 私達の村に!」

 オッサンが再び号令すると、村人達は足並みを揃えて猛然と走り出した。

「ジロー!」
「うぉぉぉぉぉ~~~~! 助けてくれぇぇぇぇ~~~~~~!!!!」

 慌てて駆け寄るアイシャに手を伸ばしたが、その手は届く事なく俺は農夫達に担がれてあっという間に連れ去られてしまった。

 何の説明もなしにこの状況とか頭おかしいだろ。誰か説明してくれ!
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