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第一章 こうして俺は少女を救い、魔王と戦うハメになった
今度は救い主とか何なんだよ!?
しおりを挟む農夫達に担がれた俺は、抵抗を止めて森の中をものすごい勢いで移動していった。
最初はどうにか抜け出そうともがいていたのだが、下手に落ちるとまた怪我する恐れもあるし、無茶はしない方が良いと考えおとなしくする事にした。アイシャとは強制的にはぐれてしまったが、もうなるようにしかならない。
高速で流れていく森を眺めていると、唐突に視界が開けて、辺りは一面草原へと姿を変える。そこはまるで『アルプスの草原』みたいな広大さで、見渡す限り草地が延々と広がっている。
そこから更に進むと、木造の小屋が幾つも群集しているのが見えた。そのどれもが、アイシャが暮らす小屋と大差ないサイズだったが、遠めに見てもあそこまではさすがに痛んだものは無かった。そこは簡単な木の柵で囲われていて、どうやらそこが彼らの村らしい。
担がれたまま村の敷地へと入ると、俺は唐突に地面に下ろされる。
そこは通り過ぎた小屋よりも一回り大きく、薄汚れてはいるがアイシャの小屋と比べると大分生活観のある場所だった。
俺が小屋を観察していると、農夫達はさっと周囲に広がって土下座した。
「到着しました、救い主様」
先ほど号令したオッサンが一人顔を上げて言う。
「いや、あの。到着って何処に?」
「村長! 救い主様をお連れしました!」
困惑気味の俺の問いを無視して、オッサンは小屋に向けて叫ぶ。
いや、問答無用で拉致って、何の説明もしないとか酷くね?
「おお! でかしたぞ、クレマン」
などと考えていると、小屋から草臥れた農夫姿の老人が出てきた。
老人はそのまま俺の前にやってくると、そこに正座して土下座した。
「よくぞおいで下さいました、救い主様。お待ち申し上げておりましたぞ」
「あ、あの……」
いい加減この展開にも疲れてきて、俺はこめかみを抑えつつ口を開く。
「さっきからよくわかんないんですけど……救い主って、何の事ですか?」
「ッ!」
俺の質問に、周囲の人々が一斉に顔を上げる。彼らの顔には深い困惑の色が見える。
「と、言いますと?」
「いや。その、いきなり救い主とか言われてもわけわかんないって言うか……何の事やらさっぱりなんですけど」
「もしや、何もご存知無いのですか?」
と、どうにか理解してもらえたらしく、クレマンと呼ばれたオッサンが恐る恐ると尋ね返してくる。
「は、はい。そうです。いきなり救い主とか言われても困るというか……」
「なんと!?」「そんな馬鹿な!」
困惑気味に答えた俺に、周囲に平伏す人々は愕然とした様子で口々に告げる。まるで世界が滅亡するぐらいの勢いで、彼らの表情が絶望に塗り潰されるのが分った。
う~ん。ホントこの人達は一体何なんだ? ヤバイ薬とか決めてたりしないよね?
「お告げがあったのです」
その混乱を収めるように、小屋から現れた禿げの老人――多分、村長――が厳かに告げる。
「お告げ?」
「はい。今朝方、ここにいる者達全員の夢枕に神がおいでくださったのです」
どこか恍惚と興奮した様子で村長が続ける。
「そして神はお告げ下さいました。”我が神殿に異なる世界より黒髪黒瞳の救い主を使わす”と」
「黒髪黒瞳の異世界人……ね」
言われて苦笑する。黒髪黒瞳で顔つきも違う異世界人て、俺しかいないじゃん。
そして、この話を信じるなら、あの妙な夢の中で話した相手は、此方側の神って事? あんないい加減そうな神様、嫌なんだけど……。
俺が顔を引き攣らせていると、村長は一人立ち上がって歩み寄ってくる。
「詳しい話は我が家で致しましょう。どうぞ中へ」
中は外から見るよりも少し広かった。綺麗に片付いた一室に通された俺は、数人掛けの食卓の椅子に腰掛ける。
「どうぞ、お掛け下さい」
薦められるまま席につくと、対面に村長――アルベールさんというらしい――が座った。
「さて、何から御話すればよろしいでしょうか?」
「あ~。こっちの世界の事とか何も知らないんで。出来れば、誰でも知ってるような話から御願いしたいです。」
早速尋ねてくるアルベールさんに、俺は少し思案しながら答えた。こういう場合は、まず此方側の世界の事を聞く方が良さそうだからね。
「分りました。では、世界創世の神話から御説明しましょう」
話そのものは、どこかで聞いた事のあるような神話だった。
曰く、この世界は名も知られない古の神が誕生したところから始まったという。神は世界を創造する為、混沌の渦を掻き混ぜ、純粋なモノと不純なモノへと分離した。
純粋なモノは、人やおとなしい野生動物達、そして豊穣の地『エルドラッド』になり、不純なモノは醜悪で獰猛な怪物『魔人』や魔物、不浄の地『アルナル』になったという。神は天にそれぞれの大地の為に『輝きの星』を天に浮かべ、世界を去った。
争いを好まず、平穏で豊かな大地に感謝する人間達。不浄の大地で同族同士互いを憎み殺しあう魔人達。長い間、彼らは互いの事を知らずにいたが、魔人達は人間達の住まうエルドラッドの存在に気付き、その豊かな大地を我が物にせんと醜悪な魔物達を率いて人間に戦いを挑んできた。以来、エルドラッドとアルナルは長きに渡り争い続けているという。
「それが古の時代から今に伝わる伝承です」
長々語られたけど、横文字だらけで今一ピンとは来なかった。まぁ、自分から話して欲しいと言った手前、なんとも言えないけど。
「で、その魔人っていうのと、今回の件は何か関係が?」
ただ、これ以上長々話して貰うのも悪い気がするので、此方から質問する事にした。
「ええ。それは勿論です」
アルベールさんは頷き、重々しく話を再開した。
「事の始まりは、魔人達に強力な王が現れた事でした」
「魔人の王?」
「正確に言えば、魔人達にも王は昔からおりました。しかし、彼の王は纏まりの無い魔人達を全て従え、アルナル全土を制覇したのです」
緊張と畏怖に震える声に、どれだけ途方も無い話か理解出来た。神話の通りなら、同族同士で延々争った種族だ。それが本当なら団結とか従属とか考えられない。
「魔人達は互いに手を取り、エルドラッドに侵攻を開始しました。結果、瞬く間にエルドラッドは火の海と変わり、魔人達に蹂躙されました。未曾有の危機に瀕し」
「ちょっと待って!」
剣呑な話を続けるアルベールさんに対し、俺は椅子から立ち上がって割り込んだ。
「まさか……御願いって、その魔人達の軍団をどうにかして欲しいって事ですか?」
呆けた顔で俺を見上げる老人に、俺はそのまま捲くし立てる。
このままの流れだと言い出しかねないが、怪物軍団の相手なんて出来るわけない。
「ご安心下さい。幾らなんでも、そんな無理は申しません」
しかし、アルベールさんは俺を安心させるよう笑みを浮かべて言った。
「じゃあ、何を?」
「この話には続きがあります。魔人達の侵攻は苛烈を極め、エルドラッドの運命は最早風前の灯だと思われました。しかし、そんな矢先魔人達に異変が起こったのです」
そこで一度言葉を切り、アルベールさんは話を続けた。
「魔人達の王、シャリアフルが突然布告を出したのです。『エルドラッドへの侵攻は中止する。その決定に不服な者は、我に挑んで来るがよい』と」
「……何、ソレ?」
唐突な話の転換に、俺は思わず呟く。
「王様が指揮してた大陸征服を……諦めたって事ですか?」
「ことの真偽は分りません。ですが、王の突然の布告によって、戦況は大きく乱れました。結果、魔人達はエルドラッド、アルナルの二つの大地で血で血を洗う内乱を引き起こし、その混乱に乗じて我ら人類も魔人達に反撃を加え、奪われた土地を奪還する事に成功しました。王は自軍の全ての反対勢力を片付けた後、自らの王城へと帰還したと聞いています。その際、『エルドラッドの民達よ。私はいずれまたこの大地を奪いに来るつもりだ。阻止したくば、そなたらの手で予に挑んでくるがよい。いかなる者の挑戦も、予は歓迎する』と残したとの事でした」
「……ぬぅ」
聞けば聞く程、分らない話だ。世界征服の直前に投げ出した魔王。意味分らん。
ってか、待てよ?
「って事は、今は平和って事なんじゃ……」
「仰るとおり、魔人の軍勢は大陸から去りました。今はもう平穏そのものです」
俺が問うと、アルベールさんは深く頷いた。
「ですが……」
じゃあ何も問題が無いんじゃ、と続けようとした俺が口を開く前に、アルベールさんが眉間に皺を寄せて呻いた。ただならぬ雰囲気に思わず息を呑む。
「大陸から去った魔人達ですが、まだ残った者がいたのです」
アルベールさんは真剣な面持ちで俺をまっすぐ見詰める。その顔には、はっきりとした恐怖が浮かんでいた。
「数日前の事です。我らの下に、一体の魔人が現れたのです。奴は村に現れ、我々を襲いました。村外れに住む狩人が戦いを挑みましたが呆気なくやられ、我々は成す術なく奴の蹂躙を受けているのです」
そこまで言って、アルベールさんは大きく身を乗り出した。
「御願いです! どうかこの魔人を討伐していただけませんでしょうか?」
「ちょちょちょ、ちょっと待って!」
目前に迫る老人の顔から身を反らし、俺は慌てて待ったをかける。
「落ち着いて下さいよ。やっぱり無理があるでしょ」
神話の話を信じるなら、魔人というのは相当恐ろしい怪物らしい。人間よりも遥かに凶暴で、同族同士での殺し合いを延々と続けているなんて、まともな筈が無い。
そんな化け物の相手を、まだ十四歳の俺みたいなガキにさせるとか正気じゃない。しかも、戦闘のプロ『狩人』がやられてるとか、どんな無理ゲーだよ。
「カトリーヌから聞きました。貴方は無傷で魔獣を退けたと」
「いやいや。どうにかなったのはただの偶然で、運が良かっただけですから」
期待に満ちた視線を浴びせられ、俺はすかさず反論する。
魔獣というのは、あのスライムの事を言ってるんだろうけど、どう考えても勝てたのは偶然だ。ついでに、無傷じゃないし! 危うく死にかけたし!
「御願いします! このままでは」
急な申し出に狼狽する俺に、アルベールさんは身を乗り出し深々と頭を下げる。
「このままではアイシャが、アヤツの餌食に!」
「えっ!?」
突如告げられたアルベールさんの言葉に、俺は息を呑む。
「どういう事ですか?」
「魔人は村を襲った際、これから四日以内に若い女を嫁に差し出せば命を助けてやろうと言われました。ですが、若い者達は先の戦に借り出されたまま帰らず、村には年老いた者しか……中央に使者を出そうにも時間が無く、もう救い主様に頼るしか!」
アルベールさんの言葉にふと思い出す。そういえばさっき俺を運んできた人達も皆中年か老人ばっかりだったけど、まさか若い人いなかったなんて。
「それで、アイシャを?」
呻くように尋ねると、アルベールさんは額を机につける勢いで頭を下げた。
「どうか、どうか私達を! そして、アイシャを御救い下さいませ」
その姿に、俺は思わずたじろいでしまった。
アイシャは、ここに来た時から親切にしてもらった相手だ。見ず知らずの俺を家に招いて服まで貸してくれた。そんな相手が困っているなら黙ってられない。
……でも、今回ばかりはちょっと無理があるし。どうすりゃ良いんだ?
「あの子は……あの子は可哀想な子なのです」
と、俺が答えあぐねていると、アルベールさんは訥々と語り始めた。
「あの子は、元々この村の者ではありません。幼い頃、母親と共にここへ流れつきました。その時の二人は今と変わらず粗末で、母親は傷の痕だらけでした。魔王の戦火を逃れ、長い旅の末にここへ流れ着いたのだと話しておりました。しかし、私どもには二人を養ってやれる余裕も無く、森の奥に住むロドリゴさんが二人を引き取る事となりました。二年前に母親も亡くなり、以来あの子はロドリゴさんと二人暮らしで」
そこまで言われて、アイシャの小屋で見た弓や剣が脳裏を過ぎった。
「まさか、さっき魔人にやられたって言ってた狩人って……」
「はい。アイシャの住む家の元々の家主であるロドリゴさんです。彼は年老いておりましたが、獣を狩っては私達の村にも分けて下さったり、何かとお世話になっていた方でした」
『触らないで』
出来心でつい俺が部屋のモノに興味を示した時、アイシャは鋭く俺を呼び止めた。もしかしてあれは、故人の形見に触られたくなかったって事だったのか。
「それじゃ、アイシャはその魔人のせいで、今は一人であそこに……」
「はい。見ての通り、私どもは非常に貧しく質素な暮らししか出来ません。あの子を引き取る事も出来ませんでした。それでもあの子は文句の一つも言わず、日々を耐え協力しておりました。ですが……、魔人はあの子を差し出せと」
苦しげに顔を歪めて語られたのは、聞けば聞くほど酷い話だった。
戦火を逃れ母親と長旅し、ようやく落ち着ける場所が出来たと思えば、母親を亡くし、魔人に同居人まで殺されて……挙句、同居人の仇である魔人と結婚しろって。
「ですが、私達にあの子を救う術はありません。私達は田舎の農民に過ぎないのです。最早神に祈りを捧げ助けを求める以外に無かった。そんな折、神はお告げ下さったのです。貴方と言う救い主の出現を!」
そう言って、アルベールさんは俺の両手を取って涙の滲む目を向けてくる。
「どうか、どうか私達をお救い下さい。あの哀れな少女をお救い下さいませ!」
対して、俺は戸惑うばかりだ。
見知らぬ世界に問答無用で飛ばされたと思ったら、女の子の裸に出くわすし、いきなり凶暴なスライムに殺されかけ、どうにか生き延びたら今度はコレか。
正直一杯一杯だ。他人の事どうこう以前に、俺自身がどうして良いかわからない。
ただ……アイシャの窮状を聞いてしまった手前、そうも言ってられない。
だからって、そんな聞くからに化け物な『魔人』と戦って勝てるかと言えば無理だ。
でも、どうにかしないと確実に事態は悪くなる。どうすりゃ良いんだよ、一体!
《あ~、もうじれったいね~》
その時、弱気になっていた俺の耳に、聞き覚えのある声が響いた。
「え?」
顔を上げると、そこには先程までと同じくアルベールさんが立っていた。ただし、その目は黄金に輝き、心ここにあらずといった風情だ。寧ろ、誰かに操られているような――
《さっさとOKしちゃってくれよ。じゃないと夢は叶わないんだよ?》
「アンタ、まさか夢の中の!」
突如話を始めたアルベールさんを乗っ取っている夢の中の誰かの登場に、俺は椅子を倒して勢いよく立ち上がった。
《そうだよ。アタシがアンタをここに連れて来た張本人さ》
「張本人さ、じゃねぇよ! 早く俺を元の場所に帰してくれよ!」
俺は夢の中の声の主――神(?)――に詰め寄り頼む。
《おや、夢を叶えてやるって約束したのに、帰りたいってか?》
「当たり前だ! 明日も学校があるし親も心配する。頼むよ!」
泣きそうな気持ちで、俺は懇願した。既にとんでも無い目にしか遭ってない。これで帰りたくないわけがない。
《でも、アンタがやらなきゃ、今困ってる連中は確実に不幸になるんだよ?》
「うっ」
痛いところを突かれ、うろたえる。確かに現在進行形で困ってる人がいるのに、ソレを見捨てて帰るのは忍びないってのは確かだった。
「で、でも。流石に人には出来る事と出来ない事が」
《ほう。ソレをアンタが言うのかい? 他でも無いアンタが》
出来そうもないと訴える俺に、神(?)は言う。
《”出来る出来ないじゃなくやるかやらないか”って言ってたんじゃないのかい?》
「……ッ!」
俺いつも言っている言葉を並べ立てられて、言葉に詰まる。
「……何処でソレを」
《アンタを知ってる人間なら、誰でも知ってる事さ。諦めの悪い奴だって、皆言ってるけどね》
此方をからかうような調子でニヤニヤ此方に顔を寄せてくる。いや、オッサンに迫られると怖いんだけど。
《それとも尻尾を巻いて逃げるかい? 寝台でガタガタ震える負け犬に成るかい?》
「何?」
《そうだろう? 得体が知れない化け物だって言うだけで、尻込みして逃げて、そんなんじゃ一番になんてなれる筈ないよ! アンタは負け犬だよ! 今逃げたら一生一番になれない負け犬のままさ。それで良いのかい?》
「くっ……」
俺を挑発的に煽る神(?)。それもわざわざ俺の嫌いな言葉を使って。
《や~い、負け犬~。負け犬~。尻尾巻いて逃げるつもりだってんなら、送り返してやっても良いよ。ただし挑戦してもない相手の影に怯えて一生を終えるんだね》
「……この」
好き勝手言われ、俺の中で何かが弾け飛んだ。こちとらアンタのせいで死にかけまでしたってのに、何だこの言い草は!
「黙って聞いてりゃ、好き勝手言いやがって! もううんざりなんだよ!」
力任せに机をバンバン叩き、俺は神(?)を威嚇するように叫んだ。
「アンタに俺の何がわかるってんだよ!」
《何でも知ってるさ。産まれた時から今の今までずっと知ってるさ》
「一体アンタは何なんだよ?」
産まれた時から知ってるとか、ホント何者だよ。まさかホントにコイツが神なの?
《そんな事はどうでも良いんだよ。さぁ、戦わずに負け犬になるか。それとも挑戦して夢をかなえるのか。どっちが良いんだい?》
「……」
そして、やはりはぐらかされる。まともに返答してくれる事ないし、分ってたけど。ホント、会話が成立しているようで全く成立してないから余計腹が立つな。
《どうなんだい?》
「そ、そりゃあ、挑戦した方が良いだろうけど。でも――」
《だったら、迷う事は無い! 大丈夫さ。これぐらい、アンタなら軽い軽い》
またしても強引に会話を押し通そうとする。しかも、全く根拠不明に俺の事を持ち上げてまで来て……。
「その自信は何なんだよ? 根拠無ぇじゃねぇか。分るように説明しろよ」
《根拠は、アタシがそう思ったからさ。アタシが言うからには必ず出来る》
「信用できるか、んな事!」
《なら、挑戦もせずに負け犬ままがお望みなのかい?》
尚も煽ってくる神(?)。もういい加減、怒りを通り越して疲れてきたぞ。さっきから思うけど、なんでここまで言われなきゃいけないんだよ!
「んなわけねぇだろ。俺は負け犬なんかじゃねぇ! 舐めた事ぬかすな!」
《だったら、やる事は決まってるじゃないか。アンタには最初から選択肢は無いよ》
「ああ、もう分ったよ。やるよ。やります! やれば良いんでしょ?」
「本当ですか!?」
「えッ?」
投げ槍に告げた言葉に反応したのか、唐突にアルベールさんの声がして振り向く。見れば、先程まで様子がおかしかったアルベールさんは普段通りの状態に戻っていた。
し、しまった!
「ぉお……おお! おお~!」
声の主に嵌められたと気付いた時にはもう遅く、アルベールさんは再び俺の手をとって顔の前に近付け頭を垂れた。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
それは大袈裟なリアクションで、もう断りようが無い状態だった。
「どうか。どうか、私達をお救い下さい!」
「が、頑張ります!」
彼がさめざめ泣くので、どうにか心にも無い事を捻り出した。顔が引き攣っているのが、自分でも分ってしまった。
くそぉぉ! もうどうにでもなれよ!
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