二十歳過ぎても処女ってバカにされても、私には自分の溺愛してくれるツンデレ王子がいるので問題ありません

朱之ユク

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私だって好きで処女をしているわけではないのだけれど

「あら、カルラ。久しぶりね。ちょっとお茶してかない?」

 カルラが街のデパートで買い物を楽しもうとしていたところにいきなり、そんなことを言ってくる人間がいた。彼女の名前はスカーレットであり、カルラが一応表面上は仲がいいのかなと思っている相手であった。
 どうして表面上は仲がいいのかな、と疑問に思っているかと言うと、それはスカーレットはカルラと会うたびにいつも彼女のことをバカにしているかのようにマウントを取るからだ。
 「お茶してかない」と誘われたかた一応その誘いに乗って彼女は二人でカフェに入るが、彼女の第一声はカルラは知っていた。

「そういえば、あなたは処女を捨てれたの?」
「それはまだ……」

 スカーレットはカルラの言葉を遮って、まるでバカにしような顔で話を続けていた。

「まあ、そんなものは聞くまでもないものね。あなたなんかが処女を捨てれるはずがないわ。というかあなた男性恐怖症なんでしょ? それじゃあ男とセックスなんてできるはずもないわ」
「別に男性恐怖症とまでは言ってな……」
「まあ、別に恥ずかしいことじゃないわよ。別に二十歳過ぎても処女の行き遅れは結構いるからね。まあ、私が知っている限り、そいつらは全員不細工だから可哀そうだけど。あっ、別にあなたのことをブスって言ったわけじゃないから勘違いしないでよね」

 カルラはスカーレットと話をするのは苦手だ。
 苦手なら普通にお茶の誘いを断ればいいのだが、彼女はそもそも人間関係があまり得意ではなく、そのせいで他人からの誘いを断るということをあまりできなかった。

「ねえ、そうだ。あの話をもう一回聞かせてよ。メチャクチャ面白いからまた聞きたいんだよね」
「ええー。その話は前にしたからもういいでしょ」
「だめ。いいから速く話してよ」

 カルラは嫌々ながらも口を開いて言葉を紡ぎ始めてしまう。

(本当はこんなことはもう二度と誰にも言いたくないんだけど)

 しかし、今この場にその思いを吐き出せる人間はいないし、いたとしても直前で怖気づいて、言葉に出せないのがカルラだろう。

「あれは私がまだ学園に通っていたころの話よ。あの頃の私には男の子の幼馴染がいたんだけど、その子とは婚約の話までしていたの。だけど、その子は私に対して「君以外は見れない」とか「君が世界で一番好き」とか言っていたのに、私以外にも彼女を作って日ごとに女の子を替えて遊んでいたのよ」
「はっはhっはっは。なにそれ面白すぎなんですけど。やっぱり何回聞いても最高に笑える。大好きだよ、本当に」

(そんなに面白いのかな?)

 心の中にもやもやが残るカルラとしては、自分の過去の話をこんな風に笑われるのは納得がいかなかった。どうしてこんな風に笑われないといけないのだろうか、という思いが込み上げてくる。
 カルラは何も悪いことはしていないはずなのに、まるで昔のカルラをバカにされているような気分になってあまり気持ちよくない。
 
(どうして自分はこんな人とお茶なんてしているんだろう?)

 その時に最近出会ったとある一人の男性の言葉が蘇る。「俺は自分の嫌いな人間には何もしないが、自分のことを嫌いな人間にはなんだってできるぞ」
 その言葉の通りなら、私はスカーレットのことをあまり嫌がることはできないかもしれない。
 だって、彼女のことをいくら嫌いでも、何もすることができないのだから。

「いいから速く話の続きをしてよ」
「……それから浮気がバレて、私が彼を問い詰めたの。そしたら、彼が「ああ、もう君って面倒くさいな。愛を囁けば嬉しそうな顔しているんだからそれでいいと思ったのに」って開き直って、挙句の果てには「もう君のことは好きじゃないから好きに生きてよ」って言って。私のことを振ったのよ」
「あっはっはっは。まじウケる。そんなこと現実にあるんだね。私はそう言うの絵本の中だけだと思ってた。本当に面白いわ」

 カルラは自分が不甲斐なくて涙があふれてきそうだった。

(自分は悪くないはずだ)
(浮気した彼がずっと悪い)

 そう思って今まで生きてきたんだ、と自分で自分を納得させて会話の続きをしようとした。

「でもさあ、浮気ってされる方も悪いと思うんだよね。だって、そうじゃん。あなたが彼氏にずっと体を許してなかったから彼もあなたに愛想尽かして浮気したんだって。自分の欲望を満たしてくれない相手なんで大事にするわけないじゃん」
「違う! そんなわけっ!」
「違くない。知ってる? 不倫される妻の多くはセックスレスなんですって! 付き合ってたのにセックスの一つもさせてあげなかったあなたと何か違うのよ」
「そ、それはっ!」

 (いや、なにも違わないかもしれない。私がエッチなことの一つでもしてあげたら彼は浮気していなかったかもしれない)

 結局正しいのはスカーレットの方かもしれないと思うと、カルラのなにかが壊れていく。
 
「なに? 何で泣いてんのよ、カルラ? 恥ずかしいからやめてよ」
「ごめんっ」

 嗚咽が混じり、涙があふれてくる。もう止まらないと言わんばかりに激流となって押し押せてくる。

「あっは。おもしろ。この子泣いてるんだけど。自分勝手に泣かないでよ。気持ち悪い。でもなんかアンタが泣いてるの面白いんだけど。あと、あなたが泣いたのはあなたのせいよ。別に私は事実を言っただけだからね」

 カルラが涙であふれて言葉がでない、その時だった。

「そんなわけないだろ。お前が泣かせたんだ。他の誰でもない、お前がな」
「誰っ!」
 
 白馬に乗ってさっそうと登場した男はカルラに向かって悠長に手を振り、金髪を揺らめかせながら、カルラを馬にむりやり乗せる。

(あ、この人は)

 この男はカルラが最近町で出会った最低な男だった。
 初対面は買い物をしている最中であり、いきなり、カルラの買った食材から今日の晩御飯を当てるという推理を披露して、みんなに褒められていた。だけど、カルラの食のセンスがないだとかいろいろと言われたために、カルラとしては苦い思い出になっている。
 だけど、それからというもの何度も縁があり、お話をしたことがあった。

「部外者が調子に乗って割り込まないでくれる?」

 スカーレットは喧嘩腰で、この人に食ってかかるが、そんなことをしてもこの人には意味がないとカルラは知っていた。

「最初から見ていたぞ。カルラを見つけたときのお前の表情。会話の内容。お前のその顔。どこをどう切り取っても醜い心の姿が現れている。気持ちが悪いことありゃしない。カルラ! 俺は前に言ったよな。俺は自分が嫌いな人間には何もしないが、自分のことを嫌いな人間にはなんでもできると。その言葉が今の状況だ。カルラのことを嫌いなこの人間には俺は何でもできるぞ」
「え?」

(スカーレットって私のことを嫌いだったんだ)

「だから、あなたは無理やり話しに入ってこないで。せっかく面白い話を聞けたのに、気分が台無しじゃない。どうせこの女は処女で男性恐怖症で貰ってくれる男もせいぜいスラム街にしかいないんだから意味はないわよ。どう頑張っても私よりもグレードの高い男をひっかけられないんだから意味ないわ」
「ほう。ならば俺の正体を明かそう」

 そういって男は一つの証を取り出す。イーグルの姿に金の丸バッチ。
 カルラはこの証をみて驚愕した。

「これって王族の証じゃないの!」

(もしかして彼は王族なの?)

「ふん。で、だれがカルラがお前の男よりもグレードの低い男しか捕まえられないだって? 勘違いも良いところだな」
「な、ず、ずるいわよ。あなたが王族だって知ったら、私は何も言い返せないじゃない。権力を盾にして自分よりも弱い相手をいたぶるなんて強者のやっていいことじゃないわよ」
「その言葉をそっくりそのまま返そう。お前は自分が経験豊富だからと言って、経験のないカルラをいたぶってバカにしていたじゃないか。それと今の俺とお前はどう違うんだ?」
「くっ」
「ビッチが何か言っていると思ったら品も知恵もない愚かな発言だったか。行くぞ、相棒。こんなところはもうこりごりだ。カルラもついてこい」

 そのまま、馬に乗せられてカルラは王子様と一緒に運ばれていく。

「話聞いてたんですね」
「ああ」
「私って男性恐怖症なんですよ」
「しっている。愛を囁いてくる男に特に強い嫌悪感を持っていたからな」
「はい。あなたは全然私に優しくないし、別に私のことを好きじゃないのは分かっていますけど。私は本当にトラウマで優しい言葉とか愛を囁くタイプの言葉を言う男性が無理なんですよ。だから、せっかくアプローチしてくれている男性がいても断っちゃうんです。きっとこんな私を好きになってくれる人なんてどこにも居ませんよ。まあ、でも王子様は別ですよ。いっつも私にきついことばっかり言って私のことを好きじゃないのは分かっているので」
「そうか」

 カルラは結局は男性とあまり関わってこない人生を送ってきたせいで男の気持ちと言うのに鈍感なのかもしれなかった。
 だからこそ王子のカルラへの気持ちに気付くことは無い。

(馬鹿者が。お前が優しい言葉を、愛を囁く言葉を苦手だというからこんなツンデレを演じているというのに)

 そして、それの鈍感さがいったいどこまで続くのか。それは王子の努力次第で変わってくるだろう。
 彼女が王子の婚約者になるまで、あと100日。
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