引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

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キタ村に三人が入ると、周りにいた村人たちにじろりと睨まれた。ソータはその視線の鋭さにびくびくしてしまうが、エンジとレントは慣れっこらしい。この村ではヒトを品定めするのが習慣になっているようだ。ソータにはその理由が分からなかった。

「何故ヒトを品定めをしなければならないのですか?神々がそれをお赦しになるのですか?」

聖職者としてソータが眉をひそめると、エンジとレントは見ていれば分かる、とソータに言い聞かせる。そこにピンク色の髪が目立つ男が鼻歌を歌いながらやって来た。後ろには強面の屈強な男が控えている。

「カモだ」

レントが低く呟いたので、ソータにはなんと言ったか聞き取れなかった。なんと言ったのか考えてみるが分からない。ソータはこれから何が起こるのだろうとドキドキしながら見ていた。ピンク頭の男の周りをぐるっと村人が取り囲む。もちろん屈強な男は彼を庇うよう前に出た。

「おい、あんた。いいボディガードを連れているな?」

村人の言葉に、ピンク頭は不機嫌そうな顔になる。

「ボディガードじゃない、ただの奴隷だ。体がでかいだけが取り柄のようなやつだから、こうして威嚇のために後ろを歩かせてるんだよ」

ぴりっと空気が張り詰める音がした。村人たちが腕まくりを始める。

「奴隷…ねぇ?この村も元々は奴隷の集まりよ。よう、あんちゃん。こんな馬鹿の言う事聞くのはやめて、俺たちと一緒に金持ちの用心棒しねえか?可愛いねーちゃんとも遊べるぜ?」

「ひ…おい!何をしてる!助けろ!!」

屈強な男は始めこそ迷ったような表情を見せた。だが、最終的に村人の側につく。ピンク頭はそれに青ざめた。

「ソーちゃんにはここまで」

ソータの耳と目をレントとエンジが塞ぐ。ソータが五感を全て取り戻した頃にはピンク頭はいなくなっていた。

「先程の方は殺されてしまったのですか?」

ソータが尋ねると、エンジが首を横に振る。

「大丈夫。村から追い出されただけだ」

死んでいればもっと強烈な血の匂いがしている。ソータはそれに気付き、ホッと息をついた。

「ここの村人たちは、ああやってここに来る強そうな人間を、用心棒に引き抜くために見ているのさ」

レントの言葉にソータは成る程、と頷いた。なら二人も引き抜かれてしまうのか、とソータはドキドキしてきてしまう。二人共、それだけ強いのだから有り得ない話ではない。

「お二人も用心棒に引き抜かれてしまうのですか?」

「それはないと思うな」

エンジがソータを安心させるように笑う。

「俺もそう思うよ」

レントも言葉を継ぐ。

「何故ですか?」

「ソータ/ソーちゃんがいるから」

エンジとレントが見事にハモり、お互いが嫌そうな顔をする。ソータはそんな二人の様子がなんだかおかしくて笑ってしまった。

「僕は周りから庇護対象に見られているのですね」

「ソーちゃんくっそ強いけどね」

「能ある鷹は爪を隠すってやつだな」

ソータはハッとなった。キョロキョロし始めたソータにレントが声を掛けてくる。

「どうしたの?」

「こっちです」

ソータがずんずん迷いなく歩き始めたので、エンジとレントも首を傾げながら付いて来た。

「おいおい、報酬がこれだけなんて本気か?」

「こっちもだ。これじゃ生活出来ねえよ」

ソータはその様子をじっと見守っていた。エンジとレントも静かにしている。

「何かあったみたいですね」

「俺の時もクエスト報酬少なかったよね。それにも関係あるのかな?」

ソータに応えるようにレントが呟く。エンジは腕を組み考えていた。

「もしかしたら…いや…」

エンジが何か言いかける。

「何か分かったのですか?」

「いや、気の所為だ」

ソータは何かあると確信したが、つつかないことに決めたのだった。誰にでもヒトに話したくないことはある。だからこそヒトは神に懺悔するのだから。
三人は宿に向かった。明日はいよいよ、隣国のスイギョクに入る。ソータはアオナを出たことがない。不安がないわけではなかったが、アオナのリーダーを探すため、出来る限り頑張ろうと決意を新たにしたのだった。

✢✢✢

ソータはシャワーを浴びて、宿が貸してくれた寝間着を着ている。一番小さなサイズがぴったりだ。しかも明らかにこれは子供用である。ソータはこれほどまでとはと鏡を見ながら思った。女性らしい胸の膨らみはあまり見られない。残念だ、と思う。だが、これからぐっと成長するに違いないと信じて疑わなかった。ソータは個人差というものを知らない。

コンコン、とドアをノックされ、ソータは驚いた。恐る恐る扉を開けると、レントがいる。

「レント様でしたか」

ソータはホッとした。知らない誰かだったらどうしようかと思っていたのだ。

「ソーちゃん、ちょっと話さない?今後の旅程について」

「俺もそれについてはよーく聞きたいな」

「げ、エンジ…なんで」

「お前の考えなんてガキでも分かるぞ」

レントが青ざめる。ソータはにっこり笑って二人を部屋に招き入れた。

「その寝間着、サイズがぴったりでよかったな。可愛いよ」

「本当ですか?」

「でも可愛いからその格好で部屋から出ないで欲しい。何かあったら困る」

「たまにはエンジもいいこと言うな」

ソータは可愛いことと部屋から出るなと言う言葉がどう繋がるのか分からなかった。だが二人の言うことは聞いた方がいいだろう。大事な仲間なのだから。

「分かりました。気を付けますね」

ふふ、と笑うと、エンジもレントもソータを見つめたまま動かない。ソータは首を傾げて尋ねた。

「どうされましたか?」

いや、と二人が顔を赤くしている。ソータにはますます分からなかった。中央都市へ向かうには、まずスイギョクの港から船に乗りセキヒに向かうのが最短ルートらしい。
アオナと同じくスイギョクも辺境の国だ。船の運行も一日に一度。上手く船に乗れるといい。アオナの王がソータの帰りを首を長くして待っているのだ。

「にしても、アオナは王政をやめるんだね」

レントが自分の髪の毛を弄りながら言う。どうやら彼の癖らしい。

「陛下と妃殿下にはお子様がおりません。それに、陛下はゆくゆくはそうするおつもりだったようで」

「だんだん他の国もそうなっていくんじゃないかな。中央都市だって…」

エンジはなにか言おうとしてやめた。ソータはエンジの言いたくないことは中央都市の情勢に関することなのだと察したが黙っていた。それは彼のもので、ソータが暴いていいものではない。

「ま、いいけどさ。でも俺等がアオナのリーダーってマジなの?」

レントの口調は相変わらず軽いが表情は真剣だ。

「はい。マジなのです」

ソータが頷くとレントは笑った。

「俺はリーダーやってもいいよ?」

「おい、レント。甘く見過ぎだ」

「だって毎日ソーちゃんに会えるんだよ?最高じゃん」

「それは…」

エンジは否定しなかった。そしてソファから立ち上がる。

「ソータ、疲れたろ?ごめんな、遅くまで」

「僕は大丈夫なのです」

「男キャラは維持なのね」

「その方がいい。聖女が一人でうろうろするなんて有り得ないからな」

「ま、そうかもね。ソーちゃん、おやすみ」

「おやすみなさい」

ソータはそっとドアを閉じた。

「キメル…元気かな」

ベッドに潜り込んで少し泣いた。悲しかったわけではない、ただ過去の自分に浸りたかった。
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