引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

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とりあえず、先に食事にしようということになった。テーブルに着き、料理を給仕係に注文する。

「これは…」

ソータは眼の前の器の中の色を見つめて、絶句していた。何故なら中身が真っ赤だったからである。今回もエンジがソータのために料理を頼んでくれた。それはトマトリゾット、という代物らしい。ソータはしばらく器の中の観察をした。トマトという野菜がこの世に存在していることは知っていたが、食べるのは初めてだ。これは美味しいのだろうか。ソータはスプーンを恐る恐る握りしめて、リゾットを掬った。鉄の器に入っていて、熱々だと聞いていたので、ふうふうして冷ます。ぱくり、と口に入れると旨味が広がった。後味にトマトの酸味がさっぱりとする。

「美味しい!!お米、美味しい!!トマトも!」

ソータは感激して叫んだ。そしてもう一口。スプーンが止まらない。

「ソーちゃん、美味しそうに食べるなぁ。ご飯を沢山食べる子って可愛いよね」

レントはビーフステーキを食べ、エンジはハンバーグを食べていた。ソータは最後に温かいお茶を飲み、ふうと息をついた。お腹がいっぱいだ。食事でこんなに満たされた気持ちになることを知ることが出来たのは旅に出たからだ。必ずアオナのリーダーを探す、とソータは改めて決意した。リーダーは一人ではないことが分かっている。この日はギルドで休んだ。

✢✢✢
次の日

「なんでお前まで付いてくるんだよ?」

ソータを庇うように歩くのはエンジだ。三人はギルドを出て森の中を歩いている。出口が近いからか霧もかかっておらず、心地よい風が吹いている。今はレントの言うデートをしているらしい。デートというものは本来、二人きりでするものなのだと教えてもらった。

「お前なんかとソータを二人きりになんか出来ないだろう」

「はあ?もっと信頼してくれてもよくない?後で砦で待ち合わせとかさ」

「何かあってからじゃ遅いだろうが!」

ソータはエンジが一緒に来てくれてホッとしていた。レントとデートをすると自ら言ったものの、いかんせん自分は現代社会に上手く適合できていない。エンジは旅慣れている上、社会常識もちゃんと持ち合わせている。頼もしいヒトだ。

「あの、レント様」

「どうしたの?ソーちゃん、もしかして俺に告白してくれるの?」

ソータは告白という言葉に首を傾げた。神にするものだろうか、と思った。完全に職業病である。

「僕は後ろめたいことはなにもしていません」

「あ、そう捉えられちゃうのね」

レントもだんだんそんなソータに慣れてきたらしい。深く突っ込んで来なくなった。ソータは、気配に杖を握る。レントやエンジも構えた。幻影を見せてくるモンスターである。

「鋭利なる水よ、敵を貫け!アクアアロー!」

幻影を見せてくるモンスターの対処法、それは術に掛かる前に相手を倒すことである。ソータの魔法攻撃でモンスターはあっけなく倒れた。

「は?ソーちゃん強すぎない?」

レントがぽかん、としている。

「ソータはさすがだね」

エンジもニコニコしながら言った。ソータは改めてレントとエンジに向き直った。話すなら今だ。

「レント様、実は私はアオナの聖女なのです。男だと偽りごめんなさい。そしてお二人には改めてお願いがあって、私の旅の目的なんですが…」

「そう言えば君の旅の目的を聞いていなかった」

「聖女?!やっぱり女の子じゃん!ま、ソーちゃんにも色々事情があったんだろうし許すけどさ」

ソータは自分がアオナのリーダーを探しに来た旨を二人に話した。

「アオナのリーダー?!」

二人が声を揃えて驚いている。無理もない、急なことだ。こんな辺境にある国でも、トップを務めるとなれば大事である。国王に代わり国をとりまとめる。重大な責任を負わなければならないのは間違いない。

「お二人にはリーダーの資質があります。でもまだ、リーダーは国外にいるのだと私の占いでは出ています」

「それが前に言っていた中央都市で人探しってやつか」

エンジの言葉にソータは頷いた。

「どうか、お二人の力を貸してほしいのです」

ソータは頭を下げた。

「いいよ、どうせ暇だし」

レントが自分の髪の毛を弄びながら言う。

「リーダーになるならないはともかく、君を放っていくことは俺には出来ないよ。乗りかかった船だ。最後まで付き合おう」

エンジもそう言ってくれた。

「ありがとうございます」

ソータは改めてもう一度頭を下げたのだった。その後も、何度かモンスターと遭遇したが、エンジとレントも実力者である。あっさりとモンスターを倒し、素材を剥ぎ取っていた。向こうに光が見える。いよいよ森の出口だ。小鳥が囀り、羽音を立てて飛んでいく。
森を出てからすぐ、ソータはエンジがくれた古びた地図を開いた。両側からエンジとレントも覗き込んでくる。

「明日中には砦を抜けて、隣国に入りたいな」

エンジが呟いた。
隣国の名はスイギョクという。生活水準で言えばアオナとそこまで変わらない。ソータは空を見上げた。太陽の位置から今は昼前だと判断する。

「なるべく早く行こう」

三人は砦に向かって出来る限りの早足で歩き出した。砦の傍には小さいが村があり、砦を越えてやってくる敵を防いでくれている。そこで用心棒を雇う者もいるらしい。それだけ腕の立つ者がその村には集まっているのだ。砦が北側にあることから、その村はキタ村と呼ばれている。シンプル過ぎるくらいだが、呼び名にするならそれくらいが丁度いいのだろう。

「キタ村に行くのも久しぶりだな」

エンジがぽつりと零す。

「エンジってなんでアオナにいたの?あんたの武器、かなりレアリティが高いように見えるけど」

レントの言葉にソータも頷いた。

「逃げてきたんだ」

はぁぁとエンジがため息を吐きながら言う。

「え?まさか犯罪者…とかじゃないよね?」

「それは違うよ。まぁ色々とあって…」

どうやらヒトには話したくない事情があるらしい。

「そういうレントはどうして?」

エンジの質問に、レントは不敵に笑った。

「アオナの女の子は皆、可愛いからな。ソーちゃんも抜群に可愛いだろ?」

「まぁソータは確かに可愛いけど…」

ソータはよく分からず、二人の会話に参加できなかった。それは引きこもり歴が長いせいだと自分に言い訳をする。それに、この旅が終わればまた自分は聖域にこもる生活に戻るのだ。そう思ったらとたんに悲しくなってしまった。

ぼろぼろ涙が溢れてくる。

「ソーちゃん?!急にどうした?!」

「ソータ!大丈夫かい?」

「僕…私、聖域に帰りたくない。森には優しいみんながいるけど、ヒトがいなくて寂しいし辛かったんだってやっと気が付いた」

ソータはここ数日のことを、思い出していた。ヒトの生活を知り、自分がいかに異常な状態だったかを知ってしまった。だが、皆のために祈ることは嫌いではない。神のことももちろん崇拝している。だが、もう少し人間らしい生活がしたい。そう思ってしまった自分をソータは責めた。聖女は穢を持つわけにはいかないのだから、今の状況を受け入れる他ない。だが涙は止まらなかった。

「あー、ソータ?聖域に小屋を建てるのは神の規律に違反するのかな?君の生活を見るにそういうものはなさそうだし」

エンジの質問にソータは考えて首を横に振った。穢を落とした者なら聖域に入る事ができる。だがそのためには一週間ほど食事や生活そのものに制限がかかる。

「それなら俺が建ててやる。大丈夫、ちゃんと規律は守るし、聖域を傷付けたりしないよ」

「いいのですか?」

「もちろん」

エンジが笑って頷く。

「俺も規律を守ってソーちゃんに会いに行くよ」

レントもそう優しく言ってくれて、ソータは嬉しくなった。二人に出会えて本当によかったと思う。

「お…」

レントが目を眇めた。

「砦が見えたよ」

「よく見えるな」

エンジも目を凝らしている。ソータにもはっきり見えていた。キタ村と思しき集落が見える。
もうすぐ夕方だ。三人は再び歩き始めた。
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