引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

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自分の部屋に向かう間、ソータはドキドキし過ぎて泣きそうだった。ああして異性にアプローチされるのが、この世界では当たり前なんだろうか。自分が魅力的だと言われたのは嬉しいことだと理解している。だがその先に何が待つのかソータは知らない。今まで、自分は異性を好きになったことがないのだ。それが人間として欠陥品なのは間違いない。そんな自分が惨めで恥ずかしかった。ぎゅっと口を引き結んで涙が零れそうになるのを堪える。

「ソータ」

ふ、とエンジが現れて、ソータは驚いてしまった。エンジはソータの頭を撫でる。

「何かあった?」

ソータは話そうとして首を横に振った。このことを話したら、全て彼に話してしまいそうだったからだ。懺悔の内容は守秘義務なのだから、聖女である自分がそれを破るわけにはいかない。それにしても、エンジは何故ここにいるのだろう。

「レイモンド様は?」

「あぁ、レイモンド氏ならレントが付き添ってバーに行ったよ。俺もこれから合流する。ソータはどうする?」

「行きます」

二人はいかにも大人向けのバーに向かった。小さなソータはこの場で目立つ。レントは酒を飲みながら周りを警戒している。もちろん他の人間にそれを悟られないように。エンジもまた素早く視線を移して客の様子がどうなのか見定めていた。彼のことだ、刺客がいれば分かるのだろう。ソータはそんな二人を尊敬している。

「ソーちゃん、来てくれたんだ」

「はい。危ない人はいましたか?」

レントは笑って首を横に振る。

「今のとこダイジョーブ。油断は禁物だけどね」

ソータはホッとした。

「何か食べたか?」

「あ…」

エンジに聞かれるまですっかり忘れていた。お腹がすっかり空いている。

「このバーにも食事があるみたいだから食べるといい。そうだな、ソータはミルク粥かな」

「美味しそうなのです!」

エンジに注文してもらい、ソータは辺りをそっと見渡した。バー内はがやがやと騒がしい。ダーツやビリヤード台もありそれを楽しむ人もいた。ソータはしばらくエンジにダーツのルールを聞いていた。なかなか奥深い競技のようだ。ミルク粥が届き、ソータはもりもり食べた。温かい濃厚なミルクが米の甘みを引き立てていて美味しい。

「レイモンドさん、さすがに飲み過ぎだよ。もう部屋に戻ろう」

しばらくして、レイモンドをレントが止めている。

「うるさい!私に指図するな!!お前たちは金を出して私が雇っているのだからな!」

ダンっと彼は机を拳で叩く。ソータはす、と立ち上がった。そしてレイモンドのそばに向かう。

「レイモンド様、皆さんはあなたを心配して言っているのです。あなたはただでさえ命を狙われていますし、出来る限り、用心してください」

「む…」

レイモンドはソータを品定めするように見た。ソータはその視線ににこりと微笑む。先程の悲しさはもうなかった。

「僕は男の子なのです」

「分かっている!!!」

レイモンドが立ち上がろうとしてよろめいた。咄嗟にレントが彼を支えている。 

「レイモンドさん、歩きますよー」

「むぐぅ」

「ソーちゃん、ありがとう」

「ソータ、部屋まで送るよ」

ソータはエンジの優しさに甘えることにした。

「ソータ、シオウになんかされたろ?」

エンジの鋭い指摘にソータは驚いてしまった。何故分かったのだろう。

「何故、そう思うのですか?」

「ソータって異性苦手じゃん。サラの時だってかなり口説かれたんだろ?」

全てエンジにはバレている。

「私はアオナのリーダーを探しに来たのに、自分のことで精一杯で」

「いやいや、ソータくらいの子ならそれが普通だからな?それにソータは間違いなく可愛いよ。こりゃ、変な虫がくっつかないようにしないとな」

「?…僕、虫は平気なのです。森で一緒によく遊んだのです」

ソータが首を傾げながら言うとエンジが笑う。

「俺とレントが良くないんだよ。多分サラやシオウもね」

「?」

ソータには上手く理解出来なかった。

「まあとりあえず、今日は休もう。セキヒまでまだかかるからね」

「はい!」

船で貸してくれる寝間着はソータには大きかったが、気にせず着てベッドに潜り込んだ。

「ホー」

フクロウがソータのそばに降り立ってそっとうずくまる。
昼間活動して疲れたのだろう。本来、フクロウは夜行性だ。ソータはフクロウの頭を優しく撫でた。

「おやすみ」

✢✢✢

次の日、ソータは支度をしていた。普段着ている服は魔法で綺麗にしている。だが、洗濯機というものも一度使ってみたかった。
やることは魔法と同じらしいが、どうなっているのだろうという好奇心からだった。

部屋から出てレイモンドのいる部屋に向かう。エンジが隙なく立っていた。

「エンジ様、おはようございます」

「ソータ、おはよう。よく眠れた?」

「はい。エンジ様は?」

「俺とレントで交代して眠ってるから大丈夫だよ。何かレストランで食べておいで」

「はい」

ソータは意気揚々とレストランに向かった。朝のレストランはそれなりに混んでいる。みな、朝食を摂るためだろう。

「ソータさん」

振り返るとシオウがいた。

「おはよう、ソータさん」

「おはようございます、シオウ様」

昨日のことがあり、ドキドキしたが、シオウは気にしていないようなのでソータもそうすることにした。

「朝ご飯を食べに来たの?」

「はい」

「一緒に食べよう。おいで」

シオウに手を優しく握られる。なんだか手慣れていて、またドキドキしてきてしまった。

「し…シオウ様?レイモンド様のことは良いのですか?」

「…そのことも君たちに話さないとね」

なんだろう、と思う間もなく席に着く。

「さっきまで、あんなに混んでたのに…」

ソータが驚いて言うとシオウが笑った。

「特等室の特権…みたいなものかな。ソータさん、何にする?」

「え、えと、僕は…お肉とお魚は食べられないのです」

「あぁ、そうだよね。なら朝だし、シリアルかな?」

「?」

シオウがさくさく注文してくれた。こういう時、引きこもりの自分だけでは何も分からず困ってしまうので、誰かがいると安心する。しばらく待っていると、注文したものが届いた。

「わぁ、ミルクと…なんだろう?」

ソータは深皿の中身をまじまじと見つめた。乾燥されたイチゴやブルーベリーはなんとか分かる。だが他のものは何か分からない。冷たいミルクは透明の器になみなみと注がれていた。


「それは麦だよ。ミルクを注いで食べるんだ。甘くて美味しいよ」

「そうなのですね!やってみます!」

甘いものがソータは好きだった。聖域では甘く熟したきのみを採ってよくかぶり付いていた。ミルクをトプトプとシリアルにかける。

ソータは出陣とばかりにスプーンを握った。握り方はエンジに教えてもらったので、なんとかなっているだろう。一口掬って食べると、まろやかな甘みが口に広がる。

「ふぁぁ、美味しい。僕、ミルクも好きだから嬉しいのです!」

「良かった。ソータさん、昨日はごめんね」

「ふぇ?」

シオウが困ったように笑う。

「君を追い詰めるような言い方になってしまったよね」

「シオウ様だけのせいじゃないのです。私の経験が足りて無くて…それで…」

「許してもらえるかな?」

「それなら、アオナのリーダーになって欲しいのです」

ソータはブレなかった。シオウが困ったように笑う。

「リーダーか。僕は補佐みたいな仕事が得意だからな。人の上に立てる人は限られてくるし」

「前にも言いましたが、リーダーは一人じゃありません。みんなで足りない部分は得意なことで補い合えばいいのです」

「アオナの聖女様は視点がグローバルなんだね」

「いつも陛下が言っておられました」

「アオナの国王は素晴らしいよ。君はそんな国王に任務を頼まれたんだね」

「はい。僕を信じてくれたのです!」

「ソータさん、明日にはセキヒに着くよ。返事はそれからでもいいかな?」

「もちろんです!」

それから二人は食事を摂りレイモンドの部屋に向かった。

「ソータ、シオウ、お帰り」

隙なく見張っていたエンジに声を掛けられる。

「シオウ、レイモンド氏が呼んでいる。仕事の打ち合わせだってさ」

「ありがとう、エンジさん」

シオウが部屋の中に入っていった。

「ソータ、君は休んでいるとい…」

ドォォンと大きな爆発音。ぐらり、と船体が傾く。

「ソータ!」

エンジに抱き留められて、ソータは転倒せずに済んだ。

「なんだ?」

水がどんどん船の中に入ってくる。このままでは乗客の命が危ない。状況からして何らかのトラブルがあったのは間違いない。

「早く、逃げないと!」

エンジはレイモンドの部屋のドアをガンガン叩いた。

「早く!逃げるぞ!!」

「エンジ、レイモンドさんが発作を起こして!」

「なんだって?」

「シオウが薬を飲ませたけどとても動ける状態じゃないよ!!」

「く…」

ソータは迷わなかった。魔力をフルに使う。

「ソータ!!何して!」

「セキヒまで船を飛ばします」

「な…!!」

ソータは魔力の動きに集中した。船はかなり巨大だ。ふわり、と船が浮き上がる。そして前へ進みだした。
セキヒは思っていたより遠くなかった。港になんとか船を下ろすと、ソータは眠たくてたまらなくなった。

「ソータ!!」

ソータはエンジに抱き留められる。
ソータは眠っていた。
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